| ■イソザキ時計宝石店■ |
| 時計の小話 |
第66話(スイス時計 ピアジェについて) 4大宝飾芸術時計メーカーの最後の一つ、ピアジェについてお話しします。ピアジェは1874年、スイス・ラコートオフェにて創業しました。機械時計ムーブメントでは自社開発一貫生産のマニュファクチュールです。年間生産本数は2万本前後ですが、全ての腕時計のケースがK18YG・K18WG・PT等の貴金属を使用している宝飾高級時計メーカーです。1946年には、厚さ1,34mmのムーブの手巻き時計を発売し、世界中の人を驚かせました。1960年には、厚さ2,30mmの極薄自動巻腕時計を発表し、世界で最も美しいムーブとして絶賛を浴び記録を残しました(上記の時計はK24金のローターを採用し、30石の類い希な腕時計でした)。外装ばかりではなく、ムーブメントも独自の素晴らしい物を製作し、他社時計メーカーにムーブを供給しております。ミニッツリピーター、スプリッドセコンドクロノグラフ等の複雑腕時計シリーズ(グベナー)は1996年ジュネーブ・サロンで発表され人気を博しました。特にグランド・ゾネリ・ミニッツリピーターは、文字板上にハンマーが見えるという独特のデザインで、しかも厚さが6,8mmいう史上最薄の自社開発手巻き機械でした。その他にも自社開発の見事な手巻きムーブや、超薄型自動巻腕時計を開発している、技術力の優れた誉れ高きメーカーです。エンペラドール(150万円)、プロトコール(90万円)、アルティプラノ(75万円) 等が近年喝采をあびております。また、ヴァンドーム・グループの一員として、自社のムーブメントをグループの時計メーカーに供給し続けております。日本の輸入代理店は平和堂貿易で、いろんな大会の副賞として提供されていることで有名です。日本では知名度がもう少しと言うところですが、ヨーロッパの富裕層やハイグレードな人々には、ゴージャスさや、ラグジュアリーさで絶大なる人気があります。最近、文字板・ブレスバンドにキュービック・ジルコニアをみっしり埋め込んだ、ピアジェの贋作品を弊店のお客様が知人とやらの紹介で購入された人が二人おられました。真贋鑑定の為にご来店なされ、よく見てみましたがなかなか精巧に作られてました。おそらく香港製だと思われますが、ムーブはシチズン・ミヨタのクォーツが入っていて吃驚しました。いくらで買われたのですかと聞いてみましたら、30万円以上出されてるので 二度ビックリしました(本物なら1000万円以上するでしょうが、しかし30万円でも 偽物なら勿体ないですね)。 第67話(時の流れとともに腕時計の人気も浮沈) ここ数年のロレックスの人気はすさまじいものです。ロレックスに非ずばスイス時計ではない感があります。私がこの業界に入った頃は(約30年前)、ラドーとテクノスが圧倒的に人気がありました。どの時計店にもラドーとテクノスは店頭に飾ってありました。利益率(50%)が良かった為もあるでしょうが、デザインがその頃の日本人の好みにピッタリはまっていたのだと思います。日本におけるスイス時計シェアの50%は、この2社で独占していたでしょう。そして、金銭に余裕のある、少し通の人がオメガ・ロンジンを買ってました。ロレックス・IWC・ナルダン等は、ごく一部の限られた裕福なマニアの人しか知らなかったのが現実でした。パティック・オーディマ・バセロン・ピアジェ等の4大宝飾時計は、過去の華族・貴族 ぐらいの高貴な人々か、成金趣味の人しかおそらく持っていなかったでしょう。その事を思うと、日本人も財布の中身が随分、豊かになったとつくづく思います。日本でラドーを大きく育て上げた酒田時計貿易は、独占販売権をスウォッチグループに譲らなければならない立場に置かれた為、看板・売上げカシラを失い、業績を悪化させ昨年倒産してしまいました。ラドーを日本で育てた酒田時計貿易の経営者は残念至極だったでしょう。もう一方のテクノスも今では吹かず飛ばずで、往年の元気は見受けられません。ここ30年間で日本時計市場からほぼ消えていった懐かしいスイス時計メーカーを 列挙したいと思います。名前を見て懐かしく思われる中・高年の人は沢山おられると感じます。 ・ホーガ…ベンラス両社の長短針のない数字で時刻を表示する時計 ・チャンドラ…指輪時計にペンダント時計 ・グルーエン社…アラスカ腕時計 ビューレン、キャミー、ミリオン、モンディア、チャンドラー、コロネーション、ハフィス、ハロックス、レオベ、パーロン、ビューシェ・ジロー、ドクサ、フレコ、イメージ、インビクタ、ジュベニア(エニカ、シーマは普及品の御三家と言われました)、ローヤル(過去には相当人気があったものです)、モットー、モバード(最近人気急上昇中)、チトニー、ウイラー、バルカン、エレクション、マルビン、モーリス、サンドーズ、フローラ、ヘルブロス、チタス、フォーチス(機械式リバイバルで最近人気が出てきました)等がありました。本当に時計も栄枯盛衰ですね。読者の方は、どのくらい知っておられるでしょうか。 第68話(難物時計の修理について) 当店には、全国各地から時計修理の依頼が宅急便や郵便書留で送られてきます。時計職人として自分の腕を信用していただき、これほど光栄な事はありません (この場をお借りして御礼申し上げます)。ましてや、どこへ持っていっても修理を断られた難しい超難物時計の修理依頼の場合、出来うる限り命をあたえて、再度動くようにする事は、お客様にも大変喜ばれ、時計技術者として冥利に尽きます。しかしながらどんなに悪戦苦闘して努力しても正常に駆動しない時計が、私のケースで1〜2割はあります。時間と、おまかせ料金を頂ければ殆ど90%以上直せる自信はありますが、限られた時間とお客様にとって大切なお金であるために、予定外の請求も出来ず、やむを得ず返却する時も時々あります。御依頼者の期待に添えるためにも、何とか昔のように元気に動くようにするため研鑽・研究する今日この頃です。CMWの大先輩でおられる有名なM・K氏(氏の所にも全国より超々・難物時計が送られてきています。送られてきた10個の内8個は修理不能だと言うことです)は、修理不可能 な難物を預かったときは依頼者にこのように言って断るそうです。『何十年にもわたって動いてきたのだから、もうそろそろ休ませてあげたらどうですか。 もう、充分この時計は使命を果たしたとおもいます。 よく長い間動いてくれたと褒めてあげて、ながめて感謝してあげたら』と。どんなに愛情を持って大切に使用した代々伝わる腕時計でも、寿命は必ずやってきます。時計として正常に動くように再現するには50〜60年前の物が限界でしょう。高額な家電製品でも約10年で壊れたらもうおしまいです。我が家の11年前に購入した、ナショナルのSVHSビデオ・マックロードNVーDS1(当時としては高級機種で定価 25万円位しました)が最近故障して、メーカーに尋ねたらもう部品もないし諦めた方がイイと言う返事でした。その事を思うと時計は何て長持ちする機械なんでしょうか。家電製品の5〜6倍の寿命がありますものね。こんなに長く持つ長寿命の機械は他には存在するでしょうか。最近、隣町T町のK・Nさんからロンジン・クォーツ腕時計の簡単な修理依頼を受けました。金沢市内の大きな時計店を数軒回っても修理受付を断られた時計で(ある店では電池交換も断られたとのこと)何とか直して欲しいとのことでした (止まって、長短の針回しがうまく出来ない状態)。当店には友人の紹介でご来店頂きました。いわれをお聞きすると、海外旅行を行った記念に夫婦ペアウォツチで買った品で、思い出として大事に使いたいとのことでした。中のムーブを見てみますと、ETA社のCal255411が入っておりました (先月、修理したテクノス・クォーツ腕時計のムーブメントもETA社製でした)。スウォッチ・グループに入ったロンジンは自前のムーブを最早入れられないのかなと少し残念に思いました。故障の原因は日の裏車の中心穴に入る地板の心棒(T字型で寸法は長さ 0,97mm・直径0,50/0,245mm)が折れている為に、筒カナ車と深く噛み合ったのが止まりの原因でした。旋盤で別作して、すぐ直しました。こんな簡単な修理も最早、他の時計店では出来ないのかと思うと愕然?としました。これからは弊店で時計を買わせて貰うと言っていただきとても感謝されました。やっぱり時計店である以上、販売力も重要ですが、自前で修理出来ることは大変大切な事であると実感した次第です。 第69話(時計の形而上学的な思考) 人それぞれの人生は約25億秒のカウントダウンによって生から死へと終わります。その間には幾多もの多種多様の泣き笑い喜び悲しみの繰り返しの連続でしょう。人は約25億秒間の長いようで短い旅に出かける孤独な旅人でもあるとともに、不安な道のり に葛藤しながら旅立つのではないでしょうか。その人生という旅に、良き伴侶や友人、仕事、健康に恵まれたらどんなに楽しい旅になるか。それをつくづく感じるからこそ、人間は生ある限り、それを永遠に追い求めるのでしょう。約25億秒間という旅の間に巡り会う、ごく限られた人を、一緒に時を過ごす旅仲間と思えば、いろんな摩擦・障害も少なくなるのではないでしょうか。家庭を顧みないで名誉・地位・お金にのめり込む人もいれば、仕事・趣味・スポーツに人生の限られた時間をかける人もおられると思います。 どれが最良の選択かは、各人各人の価値観や人生観によって異なるものと思います。病に倒れて人の思いやりや温かい心配りに身にしみる方もおられるでしょうし、健康が故にその有り難みが解らない人もおられるでしょう。イギリスの文豪シェークスピアは、人生を喩えて舞台の滑稽な喜劇俳優そのもので、いろんな役割のある喜劇役者であると名言しました。人生における大切な瞬間瞬間を刻み続けて、その時を知らせる役目を持ったのが時計 かもしれません。あの時はこんな嬉しい事があったとか、あの時はこんな素晴らしい人に出逢ったとか、人生のいろんな大切な時刻を正確に記憶してくれるのが時計でしょう。いろんな人生の出来事をしっかり思い出させてくれるのも時計があればこそでしょう (悲しい時を刻む時計であってはほしくないですね)。その貴重な時を刻み続ける時計を販売したり修理したりする時計屋は、ある一面で恵まれた誇りある仕事と言えるではないかと私は自負しております。1秒1秒、死というゴールに向かって歩み続けている事を認識できる唯一の形而上学的な生物である人間にとって、まさしく時は金なりと言えるでしょう。そういう運命的な人であるからこそ、時々止まったり、時間が狂ったりする機械時計に郷愁を覚えたり共感したりするのではないでしょうか。毎日1秒も誤差がでないクォーツ腕時計なんて、なんだか肩肘張っているようで疲れますものね。時折脱線するメカ式腕時計の方が、人間のようで愛らしくて可愛いじゃありませんか。著名な哲学者・カントは正確な時計のように毎日のスケジュールをこなしていたとか。カントの散歩時間は何時何分だと近隣の人々はよく知っていたようです。毎日毎日、几帳面な正確な生活なんて疲れて味気ないと思うのは私一人でしょうか。 第70話(時計の覇者・ロレックスについて) ロレックスについては情報が巷に氾濫していて、読者の人の方がある一面では私より詳しい かもしれませんが、一部の方より是非にというリクエストがあり述べてみます (私がこの業界に入った頃はローレックスと呼びました)。今日のスイス時計メーカーの機械時計に関しての見事な復興の根本的な原因の一つは、 1970年代のクォーツ・クラッシュに打ちのめされた多くのスイス時計メーカーの中で、ロレックス社のみがクォーツ化に走らず、何知らず顔で黙々と高精度の機械式時計を作り続けた結果、世界中の時計愛好家からその企業姿勢が高く評価されたものでしょう。腕時計にとって精度は非常に大切な要素だけれども全てではなく、普遍性のある高級ステータス性・実用性・ファッション性・伝統・技術力等の総合力に優れたメーカーが、メカ式オンリーでも生き残れることを実証したのです。均一化された優れた品質の高価格戦略の徹底したマーケティングにより、圧倒的な人気と支持を世界中の人々から獲得したのです。年間数十万個というとてつもない数のクロノメーターを何十年間にも渡り生産できる技術力はたいしたものです。確立したマニュアルとオートメーション化された生産工程は、きっと目を見張るものがあるのでしょう。ロレックス社が完全秘密主義に覆われているのも納得できるというものです。ロレックス社の人気にあやかろうとしたわけではないでしょうが、ここ数年のスイスの他社時計メーカーの動きを見ていると、ロレックス社を反面教師にしているような感じです。ロレックス社の歴史は以外と浅く、1905年にハンス・ウィルスドフによって英国ロンドンに開業しました。現在の生産量は年間推定80万個位でしょうか。ハンス・ウィルスドフの、時代を読む先見性・上手な販売企画力によって、後発メーカーにも かかわらず名実共に大きく発展したのです。資本の統廃合の再編化がすすむ現代にも、何らの影響を受けることもなく孤高の道を堂々と歩いております。ロレックスと言えば、爆発的にヒットしたものを沢山創造輩出しております。コスモグラフ・デイトナ、GMTマスター、エクスプローラー、サブマリーナー、シードウェラー、ヨットマスター等のスポーツ系。デイトジャスト、デイデイト等の実用本位の腕時計があります。不思議なことにロレックスはコンプリケーションを一度も手に染めたことはありません。あくまでも実用本位の腕時計を作る事に使命感を持っているようです。弟分にチュードル腕時計がありますが、日本には残念ながら正規輸入代理店はありません。これも日本ロレックス社の戦略でしょうか(日本人は高級グレード指向が強いことを良く知っているようです)。アンティーク市場でチュードル腕時計(デカバラ・コバラ)はとても人気があるようなのですが。技術的にも、1926年にオイスター(完全防水機構・ロックリューズ式)の開発、1931年にはパーペチュアル(自動巻機構)の開発をしております。最近ではエルプリメロ(キャリバー4030)を採用していたデイトナがうち切られ、独自開発のキャリバー4130(28800ビート・72時間パワーリザーブ・ハック機能)を搭載したデイトナを発売して話題を独占しました。旧型とどちらが優れたムーブメントであるかは5〜7年後には結論が出るでしょうが、私の推測では4030の方がおそらく上を行くのではないかと思っております。そうなれば火に油を注ぐように余計プレミアムが付いて、ビックリするような値が付くのではないでしょうか。ロレックスは私の大好きな時計の一つで、IWC・GPのように高精度がでるムーブですが、カレンダー付き自動巻としては部品数がグランドセイコー等に比べてかなり多いのが唯一の難点と言えば難点でしょうか。その点、贔屓目で見てしまうのかもしれませんが、セイコーGS は簡潔で高精度のでる組み立てやすいムーブメントです。 |
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