| ■イソザキ時計宝石店■ |
| 時計の小話 |
第71話(難物時計の修理について その2) 東京の読者の方より珍しい修理依頼が先月舞い込みました。オメガ?懐中時計のムーブメント(8551734・15石Cal38、5LT1・切りテンプ・ブレゲヒゲ・50〜60年程前の品か?) が内蔵の両面スケルトンの球形の置き時計というものです。 初めて見るタイプで、こんなオメガがあるのかとビックリしました。お預かりして見てみますと、ガジガジという音がしてゼンマイが巻けない状態で、丸穴車の歯が 1枚欠けておりました。天真も折れており、天輪がガタガタで短針も折れていました。OHと天真別作入れ替え・丸穴車の入歯でおそらく直るものと思い分解掃除して、天真を旋盤で別作しました。輪列のザラ回しも良く、直る物と高をくっていましたが、なんとキチ車と噛み合う丸穴車の見えないところのウォーム歯が連続して3個欠けているではありませんか。これじゃあリューズでいくら巻いても丸穴車が空回りして、ゼンマイは巻けないはずです。まさかこのウォーム歯が欠けているとは、分解する時にうっかりしたのです。別作出来るパーツではないために、あっちこっちの時計材料店に在庫があるか問い合わせ ましたが入手出来るはずもなく、やむを得ずギブアップ宣言になってしまいました。分解・洗浄・組立・注油・天真入れ替え・短針合わせ等の延べ10時間の作業が全く無駄に終わってしまったのです。アンティークの修理の場合、このような時が時々あります。直っていないのでお客様に1円も請求出来るわけではなく、全くの徒労に終わってしまうのです。 これも一つの勉強かなと思い慰めています。それにしても残念だなー(お客様も直るのが大変楽しみにしておられたのにご期待に添えなくて申し訳ない気持ちです)。もう一歩という所なのに。 第72話(機械式クロノグラフのメカについて) 最近、浜松の読者の方より30〜40年位前?のホイヤー手巻きクロノグラフの修理依頼を受けました(HPに掲載中)。ベトナムのアンティーク・ショップで購入された品で、中の機械は未熟な技術者にいじられ、相当ひどく壊されておりました。そう言えば、前回お話ししました贋作のオーディマ・ピゲの懐中時計もベトナムのアンティーク・ショップで買われたものでした。浜松のS・Iさんと直に電話でお話しした所、ベトナムにはウォッチのアンティーク・ショップが一杯あるとの事で、それもビックリするような低価格で売り出されているそうです。ファンの方にとっては意外な穴場かもしれません。イイ品を低価格で購入すれば、旅費など簡単に浮くどころか、お釣りがでるでしょう。条件として真贋を見極める目があればの話ですが(最近の日本でのアンティーク・ウォッチの価格は異常と言えるほど高いですものね。 私は何十万も出されるのでしたら新品を買われることをお薦めしますが。数百万もするトヨタ・セルシオも、15年も乗ればほとんど価値は無いも同然です。そのことを比較すれば、アンティーク・ウォッチの価格はつり上がり過ぎではないでしょうか。誰かが儲け過ぎているのに違い有りません)。そのホイヤー分解修理後、時計としてはかなり調子が戻り、精度も準クロノメータークラス(日差15秒前後)にまで復活しましたが、クロノの機能が結局回復しませんでした。カム式のために摩耗が著しく、調整したと思っても何度も操作を繰り返したら誤作動が起き、時計も止まってしまうという事で、残念ながら元通りには戻りませんでした。ピラー・ホィール式のアンティーク・クロノは何回となく修理しましたが、殆どがもとに復帰して正常に動くようになりました。やはり、ピラー・ホィール式の方が上を行くのでしょうか。機械式クロノは大きく分けてカム式とピラー・ホィール式のムーブメントに分かれます。 有名なゼニスのエルプリメロはピラー・ホィール式の代表的な時計です。ランゲ・アンド・ゾーネCal951.1(現時点での最強のムーブと言われている)、ロレックス・デイトナの新型キャリバー4130、ジラールペルゴーの新開発のCal3080、セイコーが昨年新開発したCal6S77(セイコーは昔からピラー・ホィール式を採用。やっぱり良心的だなぁ)、かってスイス時計の名門がこぞって供給を受けたバルジュー社の名機Cal23ムーブ、1960年代のブライトリング・クロノナット・ナビタイマーに搭載されたヴィーナス社の175・178ムーブ(現在はETA社に吸収合併されカム式のキャリバー188に変更)、1940年代に開発されたレマニア社のキャリバー321(当時のオメガのスピードマスター に採用・NASAに公式採用された当時の最強ムーブ、現在はカム式のCal861に変更され、オメガのスピードマスター・プロフェショナルに搭載)、過去においてのロンジン・クロノ等はピラー・ホィール式の機構を採用した代表的なものです。他方のカム式はパーツ数を減らすことにより簡素化され、量産向きに改良されたものです。主なものには現在のブライトリング腕時計のムーブ、オメガ・スピードマスター各種Cal1861、モーリスラクロア等はカム式です。どちらが優秀なムーブメントであるかは評価が分かれるところですが、独断と偏見の私見では、歴史的な実績のあるピラー・ホィール式の方が耐久性・正確性・操作性で一歩優るのではないかと思っております(なんと言ってもピラー・ホィール式の方が動きに無理が無く奇麗ですものね)。消費者の方の好みも分かれるところかもしれませんが、自分のクロノがどっちの方式を採用しているのか知っているのも悪くないかもしれません。どちらかといえば高級志向がピラー・ホィール式、普及品タイプがカム式と言えるでしょうか?時計業界ではクロノグラフのことをカラフと言っておりますが皆さんご存じでしたか。アンティーク・ショップで『昔のカラフ見せて下さい。』と店員さんに言えば、目を 白黒なされるに違い有りません。余談になりますが、ベトナムと言えば、南北ベトナム合併する前の南ベトナムのある大統領が北ベトナム戦争で敗れ、米国に亡命する時に、大量の金塊・米ドルを入国臨検の時に持ち出せないと知って、数個の良質の大粒ダイヤモンドルース(裸石)に交換し、それを飲み込んで亡命しました。そしてそのダイヤを排出して(汚い話ですみません)米国のユダヤ・ダイヤ商人に売却して資金を作り、スーパーマーケットを経営、今では成功者として有名になっているという話を以前あるマスコミから聞きました。その頃亡命出来なかった資産階級の人々が、生活が困窮してノミ市に高級スイス時計を手放している為に、ベトナムに多くのアンティーク・ウォッチがあるのでしょうか?(私も一度行ってみたい国です。そして、懐中時計やIWC・GP・ナルダンのアンティーク・ウォッチをたくさん買ってきたいです。私の友人もこの間ベトナムに行き、純銀製の何重にも重なるお盆を買ってきてくれました。みやげを貰って値を聞くのは失礼とは思いましたが、余りにも高価に思えたので聞いてみたところ、 ビックリするような安さでした。何万円もすると思ったのでしたが、その何十分の一ぐらいでした。アンティーク・ウォッチ・ファンの読者の方で一緒にベトナムにツアーを組んで行きませんか。日本で1個しか買えないお金でベトナムでは数個買えるのではないでしょうか。私が目利きしてアドバイスすれば読者の方も安心だと思います。実際のところ共産国ですので私1人で行くには少し不安なのです・・・。時計好きの人々と10人程で一緒にアンティーク・ウォッチ・ショッピング・ツアー旅行できたらこんなに楽しいことはありませんから)。世界中で普遍性のある価値ある物と言えば、金塊かダイヤか米ドルのみなのでしょうか。その中にアンティーク・ウォッチは入らないのかなぁ。 第73話(アンティーク・ウォッチの取り扱い開始について) 読者の方からアンティーク・ウォッチを買いたいので、安心して買える良心的な店を紹介して欲しいというメールが頻繁に届きます。そして、当店でもアンティーク・ウォッチの取り扱いをして欲しい・当店でアンティーク・ウォッチを買いたいという要望が最近とても多くなりました (アンティーク・ウォッチってこんなにまで人気があるとは知りませんでした)。大枚なお金を出したのに調子の悪い品を掴まされたという苦情もよく聞きます(購入失敗例が多いためでしょうか?)。当店ではアンティーク・ウォッチには手を出さないと言う方針でしたが(売価の基準が曖昧でハッキリしないため)、余りにも皆様のご要望が多いために、弊店でも取り扱いをこれからしようということになりました。極力、価格を抑えて、私が全て分解掃除・調整したのみの自信のあるアンティーク・ウォッチをお客様に買って頂こうという趣旨です。最近のアンティーク・ウォッチ・ショップの価格の動向をみておりますと、根拠がなく余りにも値段が高いのではないかと思います。アンティーク・ウォッチを手放したいという人からその時計を委託して貰い、私がムーブを点検してOH・調整した物のみを売ると言うことです。売価の透明性をスッキリさせるために、売却希望価格を聞いて(それが適正であるかどうか充分調べますが)、それに10%の手数料とOH代を上乗せしてお客様に売るというものです。事情で手放したいアンティーク・ウォッチをお持ちの読者の方、ふるって弊店に委託して頂きますよう、お待ち致しております。私も地方の旅に出かけたときは、質屋・古い時計屋・骨董屋をのぞいて良い品を仕入れてこようかなと思っております。お気軽にお問い合わせ下さい。では、今後の弊店のアンティーク・ウォッチにかける動向にご期待下さい。 第74話(キング・セイコーについて) この間、三重県のT・Mさんより修理依頼を受けた、1971年製造のキング・セイコーについてお話しします。この時計はCal4500A・25石の手巻きムーブでハイビートです。この45系はセイコー腕時計の名機中の名機で、時計の小話第23話でお話致しました「天文台クロノメーター」のベースになった機械です。45系で準高級グレードがキング・セイコー、高級がグランドセイコー、最高級品が 「天文台クロノメーター」合格品腕時計として売り出されたのです。今見ても非常に堅牢に作られてあり、機械を見ているだけで言いしれぬ喜びが沸き上がってまいります。普通より多い5番車まであり、ガンギ車が秒カナ車を回すという設計がなされています。30年前に、こんなに素晴らしいムーブをセイコー舎が作っていたことに、今更ながら 感動を覚えます。現行品のクレドール手巻きCal4S79Aよりも数段優っているのではないかと、私見ですが思ってしまいます。OH・ゼンマイ切れ・香箱車の歯こぼれの依頼ですが、もうゼンマイに関しては純正パーツがないために、酷似したトルクを持つ代用品による修理になる予定です。この時計(KS)は記憶では10回位しかOHしていませんが、とてもよい精度が出た思い出があります。読者の方で、もしお持ちの方は大事にお使いになって欲しい時計だと思います。 45系かどうかは裏蓋の番号を見れば確認できます。もしあれば家のお宝になるに違い有りません。最近修理したオメガ・コンステレーションCal 564、同じくオメガ・ジュネーブ Cal 1012も素晴らしいムーブメントで、現行のオメガの機械よりもイイのではないかと思ってしまいます。 アンティークが人気があるのも、30年前のメカ式腕時計のムーブが頂点を極めたものであった事を素人の皆さんがよく知っておられるからでしょうか(もしそうだとしたら凄いことですよね)。例えは悪いかもしれませんが、家族経営で代々やってこられたとてもおいしいパン屋さんが、過当競争でやる気をなくし、大手資本のY崎パン・S島パンを仕入れて自店のパンのように売っているのが一部のスイス時計メーカーの実体なのかもしれません。 第75話(今週のアンティーク時計について) 先週の時計の小話に、アンティーク時計募集という記事を載せてスゴイ反響がありました。1番の収穫は、ビックリするような時計が入手出来たことです。それは、1964年の東京オリンピックに公式計時を担当したセイコー舎の計時機器と全く同じストップウォッチを4個(五分の一秒計・十分の一秒計各2個ずつ)手に入れられた ことです。私はそれまで、日本でオリンピックが開催されるのだから、セイコー舎が選ばれたものと思っておりましたがそれは大いなる誤りでした。この新開発したセイコー・スプリットセコンド・ストップウォッチが、国際陸連理事のポーレン氏から当時として最高の評価を受けたからなのです。氏の激賞によりセイコー・スプリットセコンド・ストップウォッチが東京オリンピックに公式計時として栄えある名誉を獲得したのです。この度手に入れた物は、第二精工舎の技術陣(井上三郎氏・石原達也氏)が苦心惨憺の末、計時誤差を補正(それまでのストップウォッチはスタートするときレバーで引っかけるようにスタートするために、若干の進みの誤差を生じさせたもの。私も何回となく修理したストップウォッチは全てそういうスタート装置でした)する機能を搭載した、世界初のスプリットセコンド・ストップウォッチを開発し、それが東京オリンピックに採用されたものと同じ品なのです。そのストップウォッチが今、私の手元にあります。裏蓋を開けてムーブを見ましたがとても美しく、芸術品を見ているような感動を覚えます。地板は金メッキされ、高級時計にある波状模様が施され、テンプ受けがブリッジ式になっており、文字盤も装着誤差をなくすためにネジ止めを採用しています。こんな美しい贅沢なストップウォッチをいまだかって見たことがありません(当然、巻き上げヒゲを使用しており、テンプにはミーンタイムスクリューが取り付けてあります。極めて誤差が出にくい構造です)。セイコーの資料博物館に問い合わせてみたところ、当時の価格で五分の一秒計が24000円・十分の一秒計が25000円もしたということです (その頃の大卒の初任給が2万円の時代で)。今の価格で行くと20万円前後するでしょうか?セイコー東京本社のF原さんのお話では非常に珍しいお宝物です、とのことです。中のムーブは極めて良好で手を入れる必要が全くないほどで、ケースとリューズが少しくたびれている程度でしょうか。この記念すべき時計を7万円でお売りしたいと思います(各2本のみ)。希望する方には裏スケルトン(透明のプラスチックで貼り付け)にします。このセイコー・スプリットセコンド・ストップウォッチは、8年後の1972年札幌冬季 オリンピックにも公式計時として採用されたほど安定した精度を維持しておりました(実際には電気計測に取って代わられ、札幌では幻の公式計時メカ式ストップウォッチになりました)。 |
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