■イソザキ時計宝石店■
時計の小話



第101話(高級アンティーク懐中時計の修理依頼)

千葉県の読者の方より、アンティークのバセロン・コンスタンチンとティファニーのK18金側懐中時計の修理依頼が舞い込みました。バセロン・コンスタンチンのムーブメントはCal、391318で21石でした。勿論ブレゲ巻き上げヒゲで、4〜50年前の物にもかかわらず、奇麗な仕上げがなされてあり、OH調整の結果、テンプ振り角が300度まで復活しました(今は実測計測中。タイムグラファーは瞬時の歩度測定なので、最終的には24時間の実測が決め手になります)。緩急針調整機構は、1904年にパテントを取得した微調整の出来る機能付きでした。ティファニーの方はムーブの厚さが2,08mmの極薄タイプで、ケースだけではなく文字板にもK14金を使っているという贅沢な高級品でした。ヒゲゼンマイは薄型の為に平ヒゲゼンマイでした(巻真に亀裂が入っているため旋盤により別作の予定)。ムーブメント製造会社は、初めて聞くTOUCHC&CO(スイス)という会社でしたが、見事な作り映えをしていました。無名の時計メーカーでもこんなに素晴らしい機械が作れるなんて、昔のスイス業界の底力を知らされました。高級アンティーク懐中時計には、ゼンマイ巻き上げ機構に特殊な装置を付けてあり、ゼンマイが一杯まで解けないようになされています。駆動時間は短くなる欠点はありますが、ゼンマイの力が弱まるほとんど解けた状態では動かないために、テンプの短弧での時間の歩度の乱れはありません。また、ゼンマイを一杯まで巻けないようにしてあるために、過度の力が加わってゼンマイが切れたり、テンプの振り当たりを未然に防いでおります。薄く仕上げるために文字板止めの足が無く、一分の隙もなくムーブに密着してあり、其の工夫にビックリ致します。

第102話(高級アンティーク腕時計の修理依頼)

ベトナムのお馴染みのNさんから、1940年代に作られたK9金側ROLEX角形婦人用ドレス腕時計の修理依頼を受けました(昔はROLEXも婦人用の手巻きドレスウォッチを沢山作っておりました)。また、Nさんの知人のIさんから、同じく1940年〜50年代のK10金側ティファニー角形婦人用ドレス腕時計の修理依頼を受けました。ROLEXの方は18石でブレゲヒゲで、OH・調整のみで見事な精度が復活しました。いつも思うのですが、アンティークROLEXは修理していて楽しいのですが、ティファニーの方は大変でした。ヒゲゼンマイが他の時計の物を代用してあり、1日に4時間以上も遅れるという代物でした。振動数が解らないために、ヒゲ合わせ作業は難解を極めました。一度短く切ってしまえば元の木阿弥です。実測しながら何回も少しずつ切りながらヒゲの長さを決定しました(厄介な歯車の歯数・カナ数で計算すれば振動数は解ることですが)。ムーブメントはアメリカ・ベンラス社製でしたが、元々はETA社製でした(ベンラスがETAからムーブを仕入れて、少しアレンジしてティファニーに 納入したものと推測致します)。50年前のROLEXとETA社製のムーブでは、技術力に歴然と大きな差があることが改めて再認識し解りました。
【修理雑感】
E社製ムーブメントCal、2893系(普及品Cal、2846と自動巻機構以外は殆ど同じ)を採用しているオメガ・シーマスター、IWCポルトフィーノ及びアクアタイマー、ユリスナルダン、ホイヤーの緩急針調整は本当に厄介です。時計が遅れるために緩急針をプラスの方に動かせば、ヒゲ棒アガキが大きくなり、かえって大幅に遅れてしまうという私から思えば欠陥?ではないかと思うほどです。緩急針を動かすたびにヒゲ棒アガキ調整をしなければならないという二重手間です。クロノメーター規格に通っていても、ヒゲ棒両当たりアガキが大きく、姿勢差・短弧で歩度に影響を受けます。一般的に高級機種になればヒゲ棒アガキは極めて少ないのですが、E社製ムーブメントCal、2893系にはこの常識があてはまらない様な気がします。強い衝撃でヒゲ棒アガキが動いて変動するのも気になります。ハック機能の秒針規正レバーがよく外れるのも気になる点です。このムーブは改良すべき点がある気がいたしております。

第103話(オメガ女性用メカ式腕時計について)

オメガ社は今から30年〜35年程前には、幾多の女性用メカ式腕時計を発売いたしておりました。紛れもなく当時のオメガ社はいろんな意味で世界第一級の時計メーカーだったでしょう。多種多様なニーズに応えるために、いろんなデザインの女性用腕時計を作っていました(その中でもオメガ・婦人用コンステレーション自動巻腕時計は最高の地位を示しておりました)。1937年、初めて女性用ムーブメントを開発して以来、40種以上に渡る女性用メカ式・ムーブを市場に送り続けておりました。特に有名な女性用キャリバーを読者の皆様にご紹介したいと思います。
・キャリバー620 丸形(外径18mm厚さ2,5mm)19800振動 17石
・キャリバー690 極小長方形(外径18、8mm×7mm厚さ3,75mm)21600振動 17石
・キャリバー640 小型丸形(外径12,4mm厚さ2,85mm)19800振動 17石
・キャリバー730 小型角(外径16,4mm×9mm厚さ3,2mm)21600振動 17石
・キャリバー700 超薄型・丸形(外径20,8mm厚さ1,76mm)18000振動 17石
上記のムーブは全て手巻き式で小型の婦人用にもかかわらず、1日の誤差が殆ど20秒以内に入る精度を維持しておりました(当時の国産の高級婦人用腕時計の精度は日差±30〜40秒位でした)。 ムーブの地板には全て金メッキされていまして、現在の機械と比較しても何ら遜色無い美しいムーブメントでした(全ての面で昔の方が良かったかもしれませんが)。特にCal、700は女性用としては世界最高峰の美しくて精度の出る手巻きムーブメントの一つと言って差し支えないかもしれません。アンティーク市場でこのキャリバーの内蔵した女性用腕時計を見つけられるとしたら、迷わず買いでしょうか。この読者の中にも女性の人が沢山おられますので、一度アンティーク・ショップで捜されたら如何でしょう。きっと手に入れられたらその美しいムーブメントの魅力にはまってしまうと思います。オメガの女性用の自動巻キャリバーでは、672、682の2機種がダントツで秀逸でしょう(機構メカニズムは男性用Cal561に非常に似ております。その小型化と言ってもイイかもしれません。IWCも当時はブレゲヒゲの見事な女性用自動巻腕時計(ムーブは丸型)を生産しておりました。IWCも当時の機械式は見事の一語に尽きる時計を生産していたのです。ロンジンもそうです)。オメガ社はクロノメーターBO検定にも女性用が多数合格し、ROLEX社といつも数量で1位を争っておりました。女性用に関してクロノメーター検定合格数は、1963年頃はROLEX社が200個弱、オメガ社が40個弱でしたが、1969年には立場が逆転しROLEXが5500個、オメガ社が20000個にまで一気に増えました。いかにオメガ社が短期間に高精度の女性用腕時計を増産できたか。その事から優秀な技術者が多く養成出来た証でもあるでしょうし、この婦人用OMEGAムーブの優秀さを物語るものです。男性用と比較しても何ら見劣りすることのない精度を持っていました。女性用クロノメーター合格品の平均日差は−3秒〜+12秒でした。当時の女性の方でも、オメガの腕時計を所有する事は一つの夢であったに違い有りません。今のROLEXのような圧倒的な実力と人気がありました。ちなみにROLEX社はOMEGAに先立つこと1925年に婦人用クロノメーター腕時計を生産開始しております(ROLEXの社史を紐解くと何でも1番が多いのにはビックリします)。前回お話ししましたNさん御依頼のROLEX婦人用腕時計(約60年前)も、いとも簡単に高精度が復活しました。

第104話 (ROLEX社の栄光の足跡)

ロレックスは有名スイス時計メーカーの中では後発メーカーですが、他社を圧倒する輝かしい足跡を残しております。そのごく一部を皆様に紹介したいと思います。
・1905年 レバー脱進機を持つ腕時計専用のムーブを世界最初に開発。
・1910年 腕時計に初めてクロノメーター公式測定証明書を獲得。
・1914年 英国キュー天文台より世界最初の小型腕時計に与えられるA級証明書を獲得。
・1925年 婦人用ROLEXクロノメーター第1号が生産される。
・1926年 世界最初の完全防水時計ケース【オイスター】を完成し特許を得る。
・1931年 自動巻パーペチュアルを発明する。
・1945年 世界で初めて防水自動巻カレンダー付き腕時計を発売。それがROLEXの代名詞デイトジャストです。
・1953年 ジョン・ハント卿に率いられてエベレスト登頂に成功した探検隊は、オイスター・パーペチュアルを公式装備に認定する。
・1954年 婦人用の完全防水自動巻クロノメーターを発売し、スイス時計計測協会の検定つきでした。
・1956年 世界で初めて防水・自動巻・日付曜日付きクロノメーターを市場に出す。これがRELEXデイデイトです。
・1960年 バチスカーフ・トリエステ号潜水艦の外側に取り付けられて、水深10908m迄潜ったROLEXオイスターは、引き上げられてからも 完全に動いており、その防水性能に世界中が驚嘆しました
・1972年 ROLEXはこれまでに150万個を遙かに越えるクロノメーター腕時計を製造し、この数字は過去50年間の全スイス腕時計の製造量の過半数を占めています。スイス時計のクロノメーターと言えばロレックスと言われるほど有名になりました。
約30年前にROLEX社は世界中に有名になり、確固たる地位を獲得しております。私がこの業界に入った頃(約30年前)、エクスプローラーは126000円、 サブマリーナーデイトは166000円、GMTマスターは164000円、 エアキングが95000円、SSのデイトジャストが169000円、コンビが293000円、18金無垢デイデイトが748000円で売られておりました。非常に安かった錯覚を覚えますが、大卒初任給が5万円、高卒初任給3万円の時代ですから、やっぱり高かったです。
30年前のエクスプローラーがアンティーク市場で40万円以上で売られているのにはビックリします。誰がこの爆発的な高騰を予測できえたでしょうか。デイトナに至ってはもう言葉になりませんものね。

第105話(セイコー・ムーブメント56系について)

1968年に発売された、セイコーロードマチックに搭載された56系のムーブメントは、61系のGSのムーブ・45系(手巻き)のKS・GSのムーブと共に精工舎が製作してきた、いろいろなムーブの中でも代表する機械の一つでしょう。自動巻デイデイトにもかかわらず薄型で、部品数が極めて少なくてコンパクトに設計されていて、分解・組立・調整しやすい機械です。6振動にもかかわらず非常に安定した精度を維持しておりました。ガンギ歯数を増やすことにより、8振動の高振動化してキングセイコー(Cal5626)、グランドセイコー(Cal5646)が派生的に生まれてきました。普及版のロードマチックでも、腕のいい時計修理職人が時間をかけて微調整すれば、KS・GSに匹敵する精度がいともたやすく出ました。私が今まで修理してきた30年間で、どの時計のムーブよりも一番多く修理してきたに違い有りません。ゼニス・エルプリメロのムーブが復活したように、精工舎のムーブで45系(手巻き)・56系(自動巻)・61系(自動巻)のムーブメントの復活を熱望してやみません(マイクロフィルムで設計図が残っているのに違いないのですから、再生産は簡単でしょうか?)。ハッキリ言って現在クレドールに搭載されているキャリバー4S系よりも上を行くものと、私見ですが思っております。特に45系(手巻き)・56系のムーブの復活を渇望いたしています。45系(手巻き)は美しさも格別ですが、精度はメカ式ではセイコー史上過去最高の日差−2〜+2秒というとてつもない精度を誇っておりました(携帯して実際は1秒も狂いはしなかったのです)。このムーブはセイコーの歴史上、最高峰の機械であったと断言しても差し支えありません。


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