| ■イソザキ時計宝石店■ |
| 時計の小話 |
第11話(時計油について) 時々店に持ち込まれる修理で、1ヶ月巻掛け時計のオーバーホールの依頼があります。機械を取り出してみると、素人療法でミシン油がベットリ付いている場合があります。そんな時は、その油を落とすためにベンジンで2回洗いする手間が必要です。時計油と他の機械油とは、性質・性能が全く違うので、素人療法は禁物です。当店では、下記の時計油を使っています。 1.天府受け石用油…メービスA 2.アンクル爪石用油…ルージン1号 3.ムーブ輪列車用油…ルージン3号 4.キチ車・ツツミ車等の油溜装置の無いところ用油…ルージン5号 5.ゼンマイ用油…セイコー(S−4) 主に5種類の油を使い分けて、オーバーホールします。ロレックスの場合、2番車軸受け穴石・ローター接続部分等には専用のMR3油を使います。ほとんど現在、油差しという工具を使い、微量の油を穴石に注入していますが、 父の時代では油筆で油を差していました。その為、適切な量の油が差せませんでした。油差しの中で極めて難しい作業が、アンクル爪石に差す場合です。多ければガンギ車の方にこぼれてしまい、少なければガンギ車が摩耗してしまう為、 細心の注意を払って作業します。アンクル爪石油には2種類あり、5振動用・10振動用のハイビート用を使い分ける必要があります。 第12話(スイス舶来腕時計について) 30年ほど前、長浜市の父の時計店に置いていたスイス製腕時計と言えば、 懐かしがる人もおいでるかもしれませんが、エニカ・シーマ・ジュベニアが低価格で人気がありました。しばらくすると、酒田時計貿易がラドーを輸入し、販売し出しました。販売戦略が非常に良かったため、消費者に受け、かなり売れました。それからもう一方の平和堂貿易がウォルサム・テクノスを、日本シーベルがオメガ・チソット(今ではティソと呼ばれています)を、服部セイコーはロンジンの輸入代理店になり、日本で売り出しました。ロレックスはリーベルマン商会が扱っておりました。ゼニス(以前はゼニットとよんでいました)は東邦時計が代理店で、ユニバーサルは村木時計が扱っておりました。昔は今のように多種多様のブランドの腕時計が日本にはあまり入って来ていなかったのです。現在のスイスでは、メーカーの統廃合の再編が行われつつあります。大きく分けて4つの資本グループと単独のマニュファクチャーのメーカー(約5社)です。 『グループ1』 LVMHグループ(ルイヴィトン・ヘネシーグループ)…タグホイヤー・エベル・ゼニス・ショーメ 『グループ2』 スウォッチグループ(スイス時計マイクロエレクトロニック総連合)…オメガ・ロンジン・ブレゲ・ラドー・プランパン・ティッソ・ハミルトン・サーチナ・レマニア社(複雑時計のムーブメント供給会社でトゥールビヨン・ミニッツリピーターの製造をしている) 『グループ3』 マンネスマングループ(LMH連合)…ジャガールクルト・IWC・ランゲ&ゾーネ 『グループ4』 ヴァンドームグループ(各メーカーが連携していて、資本関係はあまりないグループ)…カルティエ・ピアジェ・ボームメルシエ・ダンヒル・バセロンコンスタンチン・パネライ 『単独マニュファクチャーメーカー』 ロレックス・パティックフィリップ・ユリスナルダン・ジラールペルゴー・ブライトリング等 大手資本が金の力にものをいわせて伝統ある時計メーカーを買収し、その翼下に収めることは、それぞれの時計メーカーが長年にわたって培ってきた個性・哲学・ 文化・独自性を喪失するのではないかと、私は懸念しております。日本ではセイコーがアニエスb・クレージュ、シチズンがイヴサンローラン・ ミラーション・ランセル等をライセンス生産しています。デザインでブランド腕時計を買うよりも、同価格のメーカー品を買えば、かなり良い機械の入った腕時計が買えます。それは、消費者のお好み次第です。 第13話(複雑時計腕時計について) 複雑腕時計とは、下記の機能を1つでも備えた時計のことを言います。 1.トゥールビヨン…約800万円以上(姿勢差による重力誤差を少なくする為のシステムを導入した脱進機機能を持つムーブ) 2.ミニッツリピーター…約1000万円以上(音で時刻を知らせる装置を内蔵した時計) 3.永久カレンダー…約300万円以上(カレンダーを自動的に進行させる機能を持ったムーブ) 4.スプリットセコンド・クロノグラフ…約100万円以上(センターセコンド針を複数にして、ラップタイム計測が可能なムーブ) グランドコンプリケーションウォッチは、上記の複雑機能を兼ねた時計を言います。 ダイヤ等を使用した宝飾腕時計を除いて、世界で1番高額なグランドコンプリケーション ウォッチは、多分オーデマピゲ(REF25923PT)のトゥールビヨン、ミニッツ リピーター、スプリットセコンド・クロノグラフを内蔵した時計だと思います。なんと、定価は4500万円もします。以前私は、ユーロパッション(株)の営業マンを通じてミニッツリピーターを内蔵したムーブメントを見せてもらい、音色を聞きました。その時の感動は今でも忘れられません。ユーロパッションの営業マンの話によると、静岡県に資産家の時計愛好家がおり、1年に1度、1000万円クラスの腕時計を1個購入してもらっているとの事でした。高級外車が買える価格なのに、そういう時計が売れるのには仰天しました。時計師として、1度はグランドコンプリケーションウォッチの修理をやってみたいと思っていますが、おそらくあの複雑さを見れば、組立調整に1ヶ月以上はかかるのではないかと思います。 第14話(国産メーカーについて) ◇シチズン 国産時計メーカーのもう一方の雄シチズン時計についてお話ししたいと思います。 シチズンの前身は尚工舎と言い、山崎亀吉氏が大正7年に創立され、大正13年に懐中時計を発売しました。しかし舶来時計を輸入していたシュミット商会に勤めていた中島与三郎氏と鈴木良一氏が、 事情により尚工舎を買収し、シチズン時計を1930年に設立したのです。シチズンという名称は、時の東京市長の後藤新平氏が、市民に愛されるようにという願いを込めてシチズン(市民)と名付けたのです。シチズンの3代目社長:山田栄一氏は鈴木良一氏の弟で、4代目社長:山崎六哉氏は 山崎亀吉氏のご子息で、5代目社長:中島迪男(みちお)氏は中島与三郎氏の孫で、最近10年間社長を務められました。シチズン時計には、シチズン商事・シチズン電子(年商450億円)・ ミヨタ(年商400億円、長野県の御代田町に会社があります)・系列会社に日本一のクロックメーカー:リズム時計工業があります。工場は田無市にあります。シチズンは現在、世界のムーブメントシェアの20%を占めるまでに発展しています。年商は3500億円で、財務的には優良でほとんど無借金経営です。株価も最近ではセイコーよりも高値をつけてます。セイコーとシチズンはトヨタと日産の比較に揶揄されますが、 今ではシチズンはセイコーと同等の力を蓄えております。シチズンの社風は新進気鋭で、たえずチャレンジ精神を発揮して、「電子時計のシチズン」 と言われるほど、30年ほど前から電池で動く時計を開発し発売していました。 ハイブリッドウォッチ・アナデジは、大変ヒットしました。クォーツ分野ではセイコーの後塵をはいしましたが、音叉時計の分野では日本でただ1社、製造発売にこぎつけました。セイコーとシチズンの2大メーカーは、異論もあるかもしれませんが、 スイスの全メーカーの生産力・新製品開発力・技術力等、全てに優っているものと私は 思っております。 第15話(公式検定・クロノメーターについて) 高精度の機械式腕時計はクロノメーターの認定を受けております。例えばロレックスでは、クロノメーター規格に合格した腕時計には赤いタッグを付けて販売しています。クロノメーターの認定を受けるには、6つの試験を通らなければ合格しません。 1.5姿勢の平均日差…−3〜+12秒 日差とは1日を経過した時の進み遅れをいいます。時計は微妙なもので、同じ条件・状態でも誤差は多少違います。10日間の日差をプラスして10で割ったものが平均日差です。 2.平均日較差…6秒 日較差とは、ある日測定した日差と、翌日同一姿勢で測定した日差との差です。 その10日間の平均を出したのが、平均日較差です。 3.最大日較差…10秒 10日間の日較差の最大の数値をいいます。 4.最大姿勢偏差…22秒 時計をある姿勢に置いた場合の日差と、他の姿勢に置いた場合の日差との差を姿勢差といい、最大の誤差が出た姿勢差を最大姿勢差といいます。腕時計では5姿勢が重要視されます。文字板上・文字板下・リューズ下・リューズ左・リューズ上です。例えば、文字板上でプラス5秒、文字板下でプラス2秒、リューズ下でマイナス5秒、リューズ左でマイナス8秒、リューズ上でマイナス1秒としますと、最大姿勢差は13秒になります(+5+8)。 5.温度係数…±1秒 温度1度の違いに対して、1日何秒誤差が出るか、の数値です。 6.復元差…±10秒 期間を隔てて、同一条件・状態で測定した平均日差との差をいいます。クロノメーターを認定する機関は、ニューシャテル天文台・ブザンソン・ジュネーブ天文台・ 英国テデイントンNPL・ドイツ水理学協会・ミラノ天文台等が有名です。試験の数値は、絶えず変化しております。 第16話(国産メーカーについて) ◇リコー時計 今回はリコー時計(現在名:リコーエレメックス)についてお話しします。リコーは『技術のリコー』と言われたほど、後発メーカーにも関わらず先進的な腕時計を 発売していました。セイコーよりもクォーツ腕時計の発売は2年遅れましたが、シチズンよりも1年半早く 商品化し、1971年末に販売しました。セイコーは45万と高額な価格でしたが、リコーが開発したリクォーツは8万8千円 (文字板に虎目石を使用)と手に届く価格に設定して販売したことは、当時としては驚異的な価格でした(リクォーツ550はCMW2次試験の教材にもなりました)。その点、クォーツの普及に多大な貢献があったと思います。発光ダイオード式リクォーツLED腕時計は他社に先駆けて開発し、発売しました。機械時計ではデイデイトのリコーワイドという自動巻を発売しておりました。しかし話題性はありましたが、あまり売れなかった記憶があります。現在のリコー時計は会社名が変更したように、OA機器・計量機器のメーカーとして 業態が大きく変化し、800億円の売り上げのうち時計の売り上げが5%にまで縮小 しています。 リコーブランドの時計は時計店ではほとんど見られなくなり、OEM(相手先ブランド)供給のメーカーとして残っているのが実状だと思います。一時計店主の希望として、高度の技術力を持ったリコーエレメックスが、今後素晴らしい魅力のある時計を開発し発売してくれることを願っています。 第17話(クロックメーカーについて) 日本のクロック(業界では掛け時計・置き時計等(クロック)は大物、腕時計は小物と 言います)メーカーはセイコーとリズム時計工業(シチズンブランドで発売されています)の2社がシェアのほとんどを占めています。以前、デジタル置き時計の分野にはタムラ電気・コパル(現在名:日本電産コパル)・ 三協精機・光星舎等がありました。東京時計・東洋時計・明治時計(高精度のウエストミンスターチャイムの置き時計を製造)は現在はありません。柱時計を作っていたタカノは、リコー時計に吸収合併されました。愛知時計電機はアイクロンというユニークな掛け時計やウエストミンスターチャイムの 置き時計を発売していましたが、今では業態が大きく変容し、水道・ガスメーターとして 年商350億の会社に発展しています。今ではアイチの置き時計・掛け時計はほとんど見られなくなって寂しい気がします。ジェコーは音叉式の置き時計・掛け時計を開発し、精度が良かったのでたくさん売れましたが 今ではトヨタ自動車の系列会社になり、自動車時計を作っています。あなたが乗っておられるトヨタの車の時計は、ほとんどジェコー製です。クロックメーカーは浮沈が激しく、存続していくのが厳しいのです。クロック需要の60%以上は贈答品で、我が家におくために自分で購入されるお客様は少ないと感じます。30年ほど前は年末にもなると掛け時計が毎日、日に10個以上売れたものです。新しい掛け時計を柱に掛けて、新年を迎える風習あったのですが、 それが今ではすたれてしまいました。 第18話(国産メーカーについて) ◇オリエント時計 オリエント時計は、今の若い人にはなじみのないメーカーかもしれませんが、 中高年の人には懐かしい響きを持ったメーカーだと思います。古い歴史を持ったオリエントは創業は明治時代にまでさかのぼります。明治30年に吉田時計店から出発し、大正時代に東洋時計製作所になり、昭和時代に東洋時計の日野工場ができ、その工場が昭和26年にオリエント時計(株)として、 社名を変更したのです。手巻き腕時計は基本的に17石、自動巻腕時計は24石の穴石・受石があります。しかし、消費者がルビー石が多く内蔵されているムーブメントほど高級腕時計だと感じている頃、オリエントは約50石入り腕時計・約100石入り腕時計を発売して、一時話題になりました。その時、父も仕入れて、私もその時計の機械の中身を見たのですが、とてもビックリしました。 なぜなら、穴石・受石として使うルビー石が、機械とは全く関係のない装飾用としてムーブの側止め用リングに埋め込まれていたからです。しかしとても美しかった記憶があります。多種ブランドの戦略をとっているオリエントは、若い人には有名なマリー・クレール、ミチコロンドン、ダックス、ランチェッティ・ジョルジュレッシュ、ポログラフ等をライセンス生産しています。当店でもマリー・クレールは販売しておりますが、とても良心的な良い機械のクォーツが内蔵しています。現在のオリエントは年商300億円で、セイコーエプソンと親密な関係にあり、個性的な機械時計を発売しています。そして新開発のムーブメントを採用した『オリエントスター』ロイヤルシリーズを発売し、人気を博しております。 第19話(アンティーク腕時計について) ここ数年来、若い人を中心として機械時計のアンティーク腕時計がとても人気があります。当店ではアンティークショップで購入されたお客様が、当店へ修理の依頼のために持ち込みされるのが増えてきております。修理をして感じることは、かなり年代物であってもムーブの状態が非常によい時計がある反面、ケース・文字板がキレイでも、中の機械を未熟な修理屋がいじったため、みじめに壊されている時計にもよく会います。 最近、あまりにもひどかったアンティーク腕時計の修理がありました。大学生がアンティークショップでオメガ・スピードマスターを9万円で購入したものの、全く正常に作動しないと言うのです。中を見てみると、人間で言うと心臓の部分の『天府』のヒゲゼンマイが壊れていたり、ネジ頭が合致したドライバーでいじっていないために無くなっていたり、ひどくキズが付いていたりしていました。消費者の人は中の機械のことはよくわからないと思います。アンティークショップの店員さんも、知識はあっても、中の機械の状態をハッキリ把握できる人は少ないと思います。アンティーク腕時計の顔(ケース・文字板・年代)ばかり注目しないで、1番大切な中の機械も注意する必要があると思います。アンティークショップも、ムーブメントの状態をランク付けする必要があるのでは ないでしょうか? ABCDEの5ランクぐらいに分けるべきだと思います。それをすれば売れないと言われるかもしれませんが、将来的には消費者の人から良心的な業界だと認められると思います。家を建てるのも、建築士に依頼して設計図通りなっているか確認するのが普通です。アンティーク腕時計で高額な品を買われる人は、顔ばかり見るのではなく、中の機械は最低でも時計修理技能士(理想的にはCMW)に見てもらって購入されるのが賢明だと思います。 第20話(国家検定時計技術の資格試験について) 時計修理の技術試験は大きく分けて2通りあります。国家技能検定の時計修理技能士試験と日本時計師会のCMW公認高級時計師試験です。時計修理技能士試験は1級・2級・3級とわかれています。3級時計修理技能士は実務経験1年以上で、試験内容は腕時計の電池交換・ 裏蓋のパッキング取り替え・バンドブレスのコマはずし等の簡単な作業が出来るかを問う試験です。2級時計修理技能士は実務経験3年以上で、試験内容は腕時計の分解掃除・天真入れ替え作業等が出来るかを問う試験です。与えられた日差以内に精度を修める技能を求めるものです。学科試験が1日・技術試験が1日の、延べ2日間あります(実技試験内容は 年次によって多少変わります) 。1級時計修理技能士は実務経験12年以上で、試験内容は機械腕時計の分解掃除・ 天真入れ替え・注油等が正確に出来るかを問う試験です。与えられた日差以内に精度を修める技能を求めるものです。そして、巻真のツツミ車部分のやすり作業が求められた寸法に正確に削れるかを問うものです。学科試験が1日・技術試験が1日の、延べ2日間 あります(実技試験内容は年次によって多少変わります)。国家技能検定の時計修理技能士試験は昭和41年より始まり、初年度は全国で約7千人が1級を、約4千人が2級を受け、初年度だけでも1・2級合わせて約5千人前後の人が合格 しています。 次年度では全国で1・2級合わせて約6千人の人が受験し、約3千人前後の人が合格しています。年を追うごとに受験者数は減ってきておりますが、1・2級時計修理技能士は全国的には軽く10000人を越すでしょう。 |
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