| ■イソザキ時計宝石店■ |
| 時計の小話 |
第171話(北海道へ) 仕事に少し疲れたので、気分転換に10/6〜8まで妻と北海道に旅行してきました。1泊目は函館の近くの湯ノ川温泉に宿泊し、2日目は札幌に泊まりました。 今まで通算4回北海道に行ったことになります。何か精神的な壁にぶつかったり、気分が憂鬱な時などには、私は北海道の雄大な景観を見て、心を爽快にさせるようにしています。(人によっては富士山を見に行く人もおられると思います。修理完了が遅れている人には申し訳ないですが、どうかご勘弁下さい)今回は、3年間全国のいろんな人から、記念の昔の時計の修理や難物の修理依頼で疲労がだんだんと蓄積され、北海道にどうしようもなく行きたくなったのです(最初に北海道に行った時は、大学受験の浪人中でした。精神的に追いつめられていたのですが、北海道を一人旅して心が晴れ晴れして帰ってきた記憶があります。 それ以来、何やかんやの理由を見つけては北海道を旅してきました)小樽には今まで1回しか行ってなかったのですが、今回再び小樽を訪ねるにあたり、どうしても見学したい場所がありました。その場所とは、私達、団塊世代の銀幕のスター『石原裕次郎記念会館』です(私は小さい時から映画が好きで邦画・洋画を問わず沢山見てきました)。我らのスター・裕ちゃんはROLEXの大ファンである事を以前から知っていました。ヨットに乗った格好いい裕ちゃんの腕には決まってROLEXが付けられていました。記念会館を訪れてみると、裕ちゃんが常日頃愛用してきた腕時計がカウンターに所狭しと沢山並べられていました。それらを今から思い出すまま列記してみます。 ・ROLEX GMTマスター(SSケース) ・ROLEX GMTマスター(金無垢ケース) ・ROLEX オイスターパーペチュアル(金無垢ケース) ・ROLEX チェリーニ 手巻き(金無垢ケース) ・オーディマ・ピゲ(金無垢ケース) ・ピアジェ(金無垢ケース) ・ジャガールクルト ・ホイヤーカレラ(クロノグラフ) ・ユニバーサル トリコンパックス(クロノグラフ) ・ラドー ダイヤスター(超硬ケース) などが並べられていました。(残念ながらセイコー・シチズンの国産品は1本もなかったです)所蔵の時計を見て、裕ちゃんは間違いなくイイ時計がどんなものであるかをよく知っていた事がわかります。 自分が55歳になって、裕ちゃんが昭和61年、52歳で逝ってしまった事を知るにつけ、どんなにご本人は残念であったか、かわいそうでたまりませんでした。22億円もかかった『石原裕次郎記念会館』建築費も全国からの裕ちゃんファンの来訪で借金も無くなったとか。今まで続くすごい人気にただビックリいたしました。 第172話(ランゲ&ゾーネ社について) 時計王国と言えば誰もがスイスを連想されると思いますが、ドイツにも昔から時計産業はありました。ドイツ・グラスヒュッテ地方には、1845年創業の孤高のメーカー、ランゲ&ゾーネ社(ランゲとその息子達という意味です)が存在します。ランゲ&ゾーネ社は第二次世界大戦終了後、グラスヒュッテ地方が東独に入ったために工場が国有化され、伝統を誇ったランゲ&ゾーネ社は、一度そこで消滅しました。 しかしベルリンの壁が崩壊後、4代目当主・ウォルター・ランゲ氏によって、1994年見事に復活をなしえたのです。 その復活した時計とは、今では流行になったアウトサイズ・デイト機構を初めて搭載し、パワーリザーブ表示・スモールセコンド・裏スケルトンの手巻きで登場しました。このような見事な機械がわずか4年間という短い開発期間で出来た事は本当に驚愕的な出来事なのです。ジャガールクルト・IWCの協力があったとは言え、このような時計を商品化出来たことはランゲ&ゾーネ社の底力をまざまざと世界に見せつけた事に他なりません(当初、再登場したとき、各スイス時計メーカーが震撼したことは容易に想像できます)。 最近では、ゼンマイのトルクを均一化する鎖引き装置を搭載した腕時計を開発発売しました。鎖引き装置と言えば、超高精度を誇るマリンクロノメーターにかって採用されていましたが、それを腕時計に採用すると言うことは、画期的な事なのです。 ゼンマイのトルクを均一化すると言うことは、平等時性を安定化させる為にかかせない事です。その機構を小型化して腕時計に搭載するなんて想像すらできえないことでした。現在では年間生産本数は4,000本近くにはなっているものと思いますが、このような腕時計をここまで成長させた4代目当主に頭が下がる思いです。このような最高度の腕時計を作り出す時計メーカーの技術者の半分以上が、女性で占められているという事は前回書きましたが、短い時間にどのような技術指導をして組立調整技術者を育てられたか聞いてみたいものです(素晴らしい技術指導者がおられるものと思いますが、指導マニュアルが完璧なシステムを構築していたものとおもいます)。他、ドイツ・グラスヒュッテ地方には、もう一つの時計メーカーが復活をなしえました。それは当店でも人気のあるNOMOSです。ドイツの時計はどれも質実剛健で地味でシンプルな味わいがありますが、使えば使うほど愛着がおきる深い腕時計だと思います。NOMOSの機械は数年後当店に修理依頼が来るものと思いますが、ランゲ&ゾーネの機械を直に触るチャンスはなかなか訪れないと思うと残念でなりません。 第173話(セイコー・スプリング・ドライブについて) 最近、新機軸のムーブを搭載した腕時計が多数出てきました。セイコークレドールに搭載されたスプリング・ドライブ、オメガに搭載されたコーアクシャル脱進機、ユリスナルダンのフリーク脱進機です。今回はスプリング・ドライブについてお話してみたいと思います。この機械が世の中に登場したきっかけは、「動力源をゼンマイにしてクォーツ並の精度を保持したメカ式腕時計を開発したい」というセイコー技術陣の熱い思いから来たのではないでしょうか。この仕組みは、香箱に収納されたゼンマイを動力源として、2番車、3番車、4番車、5番車・・・という輪列歯車を動かし、それによって運針させる点では、天府機械式と全く同じと言えます。ただ一つ違うことは、天府機械式はガンギ車・アンクル・天府によって脱進・調速して精度を出します。しかしこのスプリング・ドライブのメカニズムは、7番車にあたるローターが1秒間に6回転する事により生じた電気エネルギーで水晶振動子を発振させ、IC集積回路で制御し、調速するのです。 ローターが高速で回転するために、ゼンマイのパワーリザーブが2日間しか持たないのは、一般の機械式と同じだと思います(これがせめて7日間のパワーリザーブがあれば魅力的なのでしょうが)。このメカニズムを開発するのに、20年という長い年月がかかったそうですが、私にはそれほど魅力のあるメカニズムとは到底思えません。機械式の魅力は、天府が調速機能を果たす姿が美しいから、時計ファンを魅了し続けたのです。このクレドールは、裏スケルトンになっていますが、写真で見た限り何ら機械の面白さが伝わってこないのです。価格も100万円以上もするので、おそらくこの時計は人気が出なくあまり売れないのではないかなと、私は想像しています。それよりも、東谷宗郎先生がセイコーインスツルメンツ時代にプロトタイプを開発した新設計の「セイコー・ツゥールビヨン」を一般向けに商品化した方が、どれほどインパクトがあったか計りしれません。このスプリング・ドライブ方式はSSケースに入れて5万円を切らなければ、おそらく普及しないものと私は思っております。 第174話(ETA7750・クロノの修理) 機械式クロノグラフの人気のせいか、最近クロノグラフの修理依頼が多く、ETA(バルジュー)7750の修理依頼が頻繁に舞い込むようになりました。先日も7750のオーバーホールをしました(5日に1回はしているかなー)。洗浄後、組立、手巻きの状態で完璧に作動し、歩度・精度も調整し、クロノグラフ部分を組立、針等も取付し、ケージングして「やれやれ・・・修理完了」と安堵して、腕にはめて実測の段階になりました。一日目、秒クロノグラフ車を一日中作動してみると精度はまあまあでした(日差+5秒ほど)。二日目、秒クロノグラフ車を止めて精度を測ってみたら、2〜3分ですぐに止まってしまうのです。クロノグラフ部分を組み立てないで、手巻きの状態ではすごく調子が良かったのに、何故止まってしまうのか原因がなかなか掴めません。面倒でも、また機械をバラして、歯車のホゾのアガキ等を全て確認し、いろいろ原因になるような所を探してみても、悪いところが見つからず困っていました。秒クロノグラフ車を動かしたら止まり、秒クロノグラフ車を動かさなければ機械が動く、という故障の事は考えられても、逆の場合は少ないのです。 よって、秒クロノグラフ車に伝える車に何か原因があるのではないかと思い、それを取り出して40倍の顕微鏡でカナ・歯車をよく見てみました。そうすると、カナ歯の谷間にキズミでは見つけられにくい、非常に細かい金クズ(0.1mm以下)が付いていたのです。7750は秒クロノグラフ車を動かす時、伝え車が若干斜めになる為に、4番車の歯と伝え車のカナ車とのアガキがほんの少し大きくなり、そのゴミの影響を受けなかったのです。しかし、秒クロノグラフ車を止めると伝え車がほぼ垂直になり、4番車の歯と伝え車のカナ車とのアガキが適量になるため、その金クズが引っかかって止まるという原因でした。オーバーホールしても原因不明の停止になる場合は、おうおうにして再度分解掃除すれば直るという事があります。この場合も全くそれで、一度の超音波洗浄では微細な金クズが取れなかったのです。時計のムーブはいかに繊細な精密機械であるか、読者の方にわかって頂けましたでしょうか。7750は長い間使われている汎用クロノの機械ですが、最近の7750のムーブは精度が素晴らしく、いとも簡単に高精度が出ます(テンプの片重り、ヒゲゼンマイの内端・外端調整が完璧に成されているためでしょう)。7750を採用しているブライトリング社はクロノメーター規格を取って高価格で販売していますが、同じ7750を採用しているオリス、エポスのクロノグラフはクロノメーター規格を取っていないにも関わらず、同等以上の精度を保持している事を、販売したお客様から好評のお言葉を頂いてわかっております。7750は敢えてクロノメーター規格を取る必要がないほどすぐれた精度を持っているムーブだと再認識した次第です。ETA社の技術力も大したものになったなぁーとつくづく感心している今日この頃です。30〜40年ほど前のETA社とは隔世の感があります(何せ世界一の時計ムーブメント会社なのですからイイ機械を作っているのは当然と言えば当然ですよね)。最近では7750の機械も好きになってしまった私です。 第175話(時計油2) 複雑時計が多く、今人気絶好調のF・・・は故障が多いと言うことを、あるスイス輸入時計会社の営業マンから聞きました(その事を聞く前から私は当然そうであろうと思っておりました)。何故なら複雑時計になると、一つの香箱ゼンマイで20個前後の歯車等を動かすことが当たり前になるからです。当然、末端の歯車になるとゼンマイのトルクが弱まり、かすかな抵抗で停止します。肉眼で見えないような非常に細かい糸くず1本で止まった腕時計の修理に、今まで何十回と遭遇しています(単純な手巻腕時計でさえ、1個のゼンマイで香箱車、1、2、3、4番車、ガンギ車、アンクル、テンプ、日の裏車、筒車、笠車、小鉄車という12個の歯車等を動かすのです)。定期的にオーバーホールしていれば、そういう油ぎれによる故障原因も少ないでしょうが、ちょっと油断して期間をおいてしまうと油が乾燥し、その粘着力で末端の歯車が回転しなくなる、という事になるのです(またユーザーの方の誤操作による故障も多いかもしれませんが)。複雑時計は手巻きよりも部品数が3倍以上にもなり、一つのゼンマイで動かすことが相当な負担になるために故障が多いのがわかって頂けたでしょうか。部品数が多い複雑時計やクロノグラフが故障の原因が多いのはある意味では宿命なのかもしれません。手巻きムーブメントの名機・セイコーCal.45は、想像を絶する精度が出ました(私は日本時計史上、最高傑作の腕時計だと今でも確信しています)。 セイコーCal.45は設計上、普通の手巻きよりも輪列に2個歯車が多く、10振動のハイビートで、強力なゼンマイを内蔵していたために、定期的なオーバーホールを怠るとゼンマイが一瞬にして切れ、その爆発力で香箱の歯が欠けるという前代未聞の故障が起きたのです。腕時計にとっては油切れは致命的な故障になることがあるのです。一つの腕時計の文字盤に、レトログラードを2個以上搭載している腕時計は、それなりに気を配ってオーバーホールをしないと、度々故障に遭うものと私は思います。腕時計にとって、精密油は非常に重要な要素を占めます。特に、アンクルとガンギ車が接触する所の油は重要です。その油の差し方如何によっては、オーバーホールの他の作業が満点であっても、その一点だけミスすれば「長く正常に動かない」というクレームに出会うのです(時計職人の腕の良し悪しはアンクルの注油をみればそれだけで一目瞭然と言っても過言ではないのです)。ロレックス等のスイス高級時計には、油が拡散しないために、エピラム液処理を施します。この処理によって、大切なアンクル・ガンギ車の油の保有期間は倍に伸びるのです。かつてロンジン・ウルトラクロン(10振動)の腕時計のオーバーホールをする時は、異常がないにも関わらず、アンクルとガンギ車を是非を問わず交換するというのが厳守されていました。これは何故かというと、交換用アンクルとガンギ車の接触面にエピラム液処理がメーカーでなされていたからなのです。でもこの交換するためにオーバーホール代金がかさばり、ユーザーのクレームが起こりこの方法は自然消滅しました。当店ではROLEX等の高級時計のオーバーホールには、エピラム液処理を施しています。 |
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