| ■イソザキ時計宝石店■ |
| 時計の小話 |
第181話(ユリス・ナルダンミケランジェロ) 石川県の方から、ユリス・ナルダン ミケランジェロ自動巻腕時計の修理依頼を受けました。スイス旅行の際に買ってこられた腕時計で、インターネットで検索して当店にご来店頂きました。この時計はインジケーター付きで、セコンドとカレンダーがインダイアルにあり、結構調整が難しい機構でした(同じミケランジェロ・シリーズにムーンフェイス・トリプルカレンダー搭載の品番161-47 定価125万円があります。これも基本的機械は「フレデリック・ピゲ社」Cal.9640と同じです)。ナルダンキャリバーはCal.17-6 19石でしたが、もとをただせばブランパンにムーブメントを供給している「フレデリック・ピゲ社」Cal.9640から派生して生まれてきた見事な機械です。自動巻であるにも関わらず、厚さが3.25mmと言う薄さの為に、組立調整が極めて難しいものでした。この時計の故障の一つに、針を合わせる時にリューズを引っ張ると抜け落ちると言う事がありました。一般的にこういう故障は、オシドリネジがゆるんでいる場合や、オシドリの巻真の溝に入るピンが摩耗してへたっている場合や、オシドリを押さえる日の裏押さえバネが折れている場合等が考えられます。しかし、このナルダンは薄型に仕上げて、オシドリの先端を巻真の溝に入れている為に、何百回と針合わせをしている間に、オシドリの先端が摩耗したり、巻真の溝がへたってきて抜け落ちるという原因でした。ナルダンのパーツの供給が当店では出来ないために、カンヌキとオシドリの噛み合わせを精密ヤスリですって緩やかにし、日の裏押さえバネとオシドリの噛み合わせも精密ヤスリで緩やかにして、オシドリの先端を鋭角に仕上げて修理しました。この時計は文字板の足がネジで地板に止めない方法(単に地板穴に文字板足を入れるだけ)をとっているために、普通はケージングする前に文字板・針5本を全てムーブに組み込んでからするのですが、ムーブのみを裏側ケース(ワンピース・ケース)に入れてから文字板・針を取り付ける方法をとっていました(巻真がジョイント方式で汽車の連結部分と似ているやり方です)。そして文字板足を入れて文字板のガタツキをケースの上層部で押さえつけて動かないようにする方法です。薄型にするためにこのような方法を採用しているので、アフターの修理作業が大変です。セイコーのU.T.Dに自動巻を取り付けたような薄型であるために、組立調整に本当に神経を使いました。アンクルも極めて小さいために、アンクル爪に注油するのが本当に至難でした。毎日こういう時計の組立調整をしているスイス・ナルダン工場の技術者の精神力に脱帽したくなります。・・・余談・・・最近発売された、ある時計雑誌に、ある記事が載っていました。その中でちょっと気になる事があったので書いておきます。ある人が「ハイビートの脱進機は動きが早すぎてガンギから油が飛び散ってしまう」と述べておられましたが、この注油作業の方法はどうかな?と思います。正しい油の刺し方をすればそういうことはハイビートでもあり得ないと思うのです。一度に多くの油をアンクル爪に刺すからそうなるのであって、極少量の油をアンクル入爪に刺し、ガンギ歯3つをアンクル入爪に噛ませた後、また極少量の油をアンクル入爪に刺し、この作業を数回繰り返してガンギ車をアンクル爪に1回転させれば、油が飛ぶという事は絶対おきないことなのです。この方法なら万遍なく適切に適量がガンギ歯にアンクル油が塗布されるのです(ゼニス等の36000振動の腕時計ではメーカーでは当然このような油の刺し方をしているはずです。アンクルの油が、ある人が言うように飛び散ってしまったら正常に長く動きません。ゼニスは長期間、精度がイイのは使用者には判りきった事実です)。アンクル爪に一度に多く注油すると、アンクル爪の根元や、ガンギ歯の歯の根元の方に流れてしまい、結局油を多く刺しても、適量を適切に刺すよりも全く逆効果になってしまいます。 よく雑誌で「ハイビートは寿命が短い」言っていますが、このようなアンクル爪の油の刺し方では、当然そのようになってしまうのも仕方ない事です(もう一つの飛び散る原因は、ハイビート専用のアンクル油ではなく、粘着力の弱いロービートのアンクル油を刺している場合も考えられます)。 第182話(最近の「ショパール社」の動向) 世界一のムーブメント供給会社「ETA社」が近い将来、スウォッチ・グループ以外にムーブメントを供給しないのではないか、と言う噂が広まっています。真偽のほどはともかくとして、今までETA社からムーブメントを供給されていたスイスの時計会社が慌てだし、自社開発の機械を搭載した腕時計を発売しだしたのは事実です(本当にそうなったら大変な事態になるでしょうが、万が一のため逃げ道を作っておきたいというのが本音でしょう。私としてはその方が個性あるムーブメントが生まれて楽しいのですが・・。スイスの各時計会社が一貫生産メーカー・マニュファクチュールになったらもの凄いことでしょうね)。その中で、私が一番注目しているのはスイスの時計会社、「ショパール社」です。1996年に開発したショパール・キャリバー(Cal.L.U.C1.96)の機械は本当に見事な出来映えです。ユニバーサル社がかつて発売した、マイクロローター式を踏襲した薄型の自動巻です。ローターには比重の重い22金を使用し巻き上げ効率を高め、香箱を2個導入することにより、駆動時間が65時間と、長く持つように仕上げています。緩急針も微細調整が出来るように、懐かしいスワンネック型に作っています。振動数はプロトタイプでは21,600振動でしたが、高精度が出る28,800振動に進化させています。このキャリバーはパティック・フィリップと同じように、高級腕時計の証明、ジュネーブ・シールを取得しています。特に特筆すべき点は、平ヒゲゼンマイが主流を占めている今日、あえて調整作業のむずかしい巻き上げヒゲゼンマイを採用したことです。パティック・フィリップ、オーディマ・ピゲ、バセロン・コンスタンチン等の最近のスイス最高級腕時計の機械も平ヒゲゼンマイを多く採用しつつある今、ブレゲヒゲを取り入れた事は、英断と言っても差し支えないでしょう。ブレゲ巻き上げヒゲゼンマイは伸縮運動をする時に真円状態になっている為、ヒゲゼンマイの重心移動が極めて少なく、重心移動による姿勢差誤差が少ないのです。 極論すれば、ブレゲ巻き上げヒゲゼンマイを採用している調速機は、トゥールビヨンに匹敵する精度を持っていると言っても過言ではないかもしれません(ROLEX社はブレゲ巻き上げヒゲゼンマイを意固地なまでに今日まで採用しつづけている希有な時計会社です)。平ヒゲゼンマイの場合は、どんな熟練な技術者がヒゲ調整しても必ず重心移動が起こり、その為に姿勢差誤差が生じます。かつてセイコー舎は、この難問を解決する方法として、キングセイコーの平ヒゲゼンマイのある場所に、ゴミのような金属片を取り付けていました。初めてこのキングセイコーの修理をした時は、ヒゲゼンマイに「ゴミが付いている」と錯覚するほどでした。でもこの方法はあくまで邪道だと私は思っています。ブレゲ巻き上げヒゲゼンマイに匹敵する高精度のメカ式調速機はこれから出現しないものと思います。かって天文台コンクールに出品された精度競争用の腕時計・懐中時計はどれもがブレゲ巻き上げヒゲゼンマイを搭載していたことからもわかって頂けると思います。「ショパール社」の今後の動向に大いに注目です。・・・・余談・・・・「ショパール社」にはブレゲ巻き上げヒゲゼンマイの内端・外端の理想曲線カーブを出来る時計職人は数名の方のみしかいないと言うことです。あるスイス時計会社では有能な女性時計技術者一人しかこのヒゲ調整作業が出来ないのでヘッド・ハンティングを防ぐ意味で名前を明かさない時計会社もあります。CMW試験では19セイコーのブレゲ巻き上げヒゲゼンマイを内端・外端の理想曲線カーブに仕上げなければ高得点では到底、合格出来ませんでした。CMW試験が如何に超難関の試験だったか、その事だけでもお解りしていただけると思います。 第183話(Ω『コーアクシャル(共軸脱進機)』について) 伝統のあるオメガ社が、新機構の脱進機『コーアクシャル(共軸脱進機)』を搭載した魅力あるΩ・デビル腕時計を矢継ぎ早に発売し出しました。この脱進機『コーアクシャル(共軸脱進機)』は1977年、天才時計師ジョージ・ダニエルズが発明いたしました。商品化するまでに四半世紀の時間が必要だったわけです。18世紀にトーマス・マッジがレバー脱進機を発明して以来、初めて登場した全く新しい仕組みの脱進機です(裏スケルトンになっているタイプもありますが、残念ながらその動きは 拡大鏡ルーペで見ても地板で隠れて見えません)。この脱進機の特徴は、エネルギーを伝達させるパーツ間の摩擦を大幅に減らす事によって、従来のクラブツースレバー脱進機よりも、長期間にわたって安定した精度が維持されるという事です(OHする期間が倍に延びたと言われていますが、他の歯車・輪列機構は同じですので、ある程度、期間・7年以上が過ぎればやはりOHの必要があるのではないでしょうか)。また、この脱進機に接触しているオメガのフリー・スプラング天府が相乗効果を生んで更に精度を高めています。このフリー・スプラング天府はROLEXの天府と似ていますが、平ヒゲゼンマイを採用しています(ヒゲゼンマイの外端も理想に近い終末曲線を描いております)。天輪・天真への衝撃を和らげる為に4本のアミダを持ち、微細精度調整が出来る2個のマイクロスクリュー(ミーン・タイムスクリュー)を持っています。ヒゲ玉にも工夫を凝らし、従来の割れ目があるヒゲ玉を採用するのではなく、ニヴァトロニック型でテンプの片重りが出来にくい形をとっています。ROLEX式を真似たのではないのでしょうが、ヒゲ棒がなく、その為に天府運動(ヒゲ伸縮)によるヒゲゼンマイのヒゲ棒接触変化による精度変動を無くしている為に、等時性に優れています。しかし、本当に正しい評価をされるのは発売後5年過ぎてからでしょうか? <オメガ・デビルのコーアクシャル新キャリバーの紹介> ・Cal.2500・・・時、分、秒、日付機能付き自動巻クロノメータームーブメント。コート・ド・ジュネーブ仕様され、ロジウムメッキで美しく仕上げされています。地板はベルラージュ仕上げが施されています。公式COSC検定に合格し、クロノメーター規格も取得。28,800振動。27石。 ・Cal.2628・・・時、分、秒、日付、GMT機能付き自動巻クロノメータームーブメント。 24時間針第二の国の時刻を表示します。海外旅行中、出発地と到着地の時刻を瞬時に判別できます。28,800振動。27石。公式COSC検定に合格し、クロノメーター規格も取得。 ・Cal.2627・・・時、分、日付機能付き自動巻クロノメータームーブメント。9時位置にスモールセコンド、6時位置にパワーリザーブを表示。この時計のパワーリザーブは44時間です。28,800振動。27石。 公式COSC検定に合格し、クロノメーター規格も取得。これら上記の新キャリバーは、ETA社キャリバー2892A2を基本として進化させた優れた『コーアクシャル(共軸脱進機)』エスケープメントです。 第184話(『ランゲ&ゾーネ』についてNo.2) 昨年12月末、大阪に用事があったので、ついでにD百貨店の時計売場を見てきました。その中に『ランゲ&ゾーネ』のコーナーがあり、ランゲ1(定価230万円)とダトグラフ(定価595万円)が各1本づつ陳列してありました(さすが大手百貨店だなーと感心しました)。雑誌ではどんな機械か漠然と知っていましたが、裏シースルーバックなので、無理を言って中の機械を見せてもらいました。ランゲ1は平ヒゲゼンマイでしたが、ダトグラフはブレゲ巻き上げヒゲゼンマイを採用しており、宝石のような感嘆する非常に美しいムーブメントでした。私がもしお金持ちなら、衝動買いをしてしまいそうな感動を覚えました。私が今まで見た中でダトグラフは一番キレイに仕上げた腕時計でした。『ランゲ&ゾーネ社』は一つのモデルに一つのムーブメントを新しく製作する事を社是にしています。他のスイス高級時計のように、同じムーブメントを搭載して多数のモデルを作るという方針とは全く違っています。『ランゲ&ゾーネ社』のムーブメント組立工程で特に目を見張るべき事は、全製品に対して二度組立という手間のかかる事を敢えてしている事です。二度組立とは、一度ムーブメントを組み立てて精度を限界にまでに絞り込み、そこでクロノメーター検査の倍の10姿勢で日差を徹底的に調整するのです。それが終わってから再度完全分解し、洗浄後、装飾仕上げを施して組立調整するという、入念な作業をしています(2回目に焼き入れ青ネジを使っています)。最近、『ランゲ&ゾーネ社』は女性用Cal.L911.4を開発し、女性用・手巻き腕時計を売り出しました。「アーケード」と言うネーミングで、アウトサイズデイト表示を採用し、美しい機械式腕時計です(皮ベルト・18WGケースが125万円18KYGケース・ブレスが220万円します)。女性の方で最近メカ式に目覚めた人は一見の値がある時計です。帰りに取引先の並行輸入元を訪ねてみると、今流行の『フランク・ミューラー』の トゥールビヨンが置いてありました。見てみると平ヒゲゼンマイを採用していたので、正直びっくりしました。トゥールビヨンは姿勢差誤差を補正する機能なので、完全なまでに姿勢差を追求するには、当然巻き上げヒゲを採用するべきではないかと思った次第です。世界限定18本、フランク・ミューラー・サンセット、SSケース、ETA社系の自動巻ムーブを入れてプレミアム価格120万円には、本当に驚きました。それでもフランク・ミューラが日本で飛ぶように売れているそうですから、フランク・ミューラの魅力は摩訶不思議ですね。 第185話(トゥールビヨン) ETA社に対抗するムーブメントメーカー『ロンダ社』の子会社として知られている『プログレス社』が、廉価なトゥールビヨンのプロトタイプを発表したのは2000年バーゼルフェアにおいてでした。約3000スイスフラン(日本円で約300,000円)という想像だにしない価格のムーブメントを売り出したので、スイス時計業界が喧々囂々の騒ぎになったのは容易に想像出来ます。 この『プログレス社』のトゥールビヨンはキャリバーが4種類(6361.101、6361.151、6561.101、6561.151)用意され、手巻き・自動巻・デイト表示のものがありました。 このキャリバーを搭載したスイス時計メーカーは、クロノスイス、フレデリック・コンスタント、アイクポッド、アラン・シルベスタイン等でした。それまでトゥールビヨンと言えば、日本小売価格は1,000万〜2,000万円(その小売価格設定自体がもともと可笑しいのですが)もする超高額腕時計で、スイス時計の高級イメージを代表するコンプリケーションでした。それが、300万円前後(それでも高値ですが)で日本で売り出されたので、超高級イメージが壊れてしまうのではないか、と私は懸念していました。また、先行のスイス高級時計メーカーがどのような対抗手段を取るのか見物でした。しばらくすると案の定、『プログレス社』の経営が行き詰まりだし、いろんな噂が飛び交ったため信用不安を起こし、破綻した事を最近知りました。日本でも「出る杭は打つ」という諺がありますが、『プログレス社』にもいろんな方面からの圧力があったものと私は推測しています。おそらく、資金的な面やエボーシュに関しての供給問題等、当事者にとっては頭が痛い事が次から次とあった事でしょう。トゥールビヨンをスイス時計の儲け柱のドル箱に育てていきたいと思っていた高級ブランドメーカーが、『プログレス社』に対して直接・間接的に、いろんな圧力をかけたのではないかと思っています。昨年末のスイス時計フェアが各有名百貨店にて開催されこの未曾有の不景気にもかかわらず超高額トゥールビヨンが各店で何本も売れたと言うことを輸入代理店から聞きました。そういう需要が日本にもあるという事をセイコー社のトップの人によく知って貰いたいものです。セイコーの技術力をもってすればコンピューター設計を駆使し最新のNCN旋盤加工で、超高精度のパーツの生産が出来うるものと思います。よって昔ほどトゥールビヨンの組立・調整は難しいことはないと思います(熟練組立技術者がいなくても充分、対応出来るはずです)。是非、セイコーのトゥールビヨンを一日も早く開発して欲しいと願う今日この頃です(東谷宗郎先生のセイコー・トゥールビヨン・プロトタイプがもう完成しているのですから・・・、スプリング・ドライブよりどれ程魅力があることか・・・)。 |
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