■イソザキ時計宝石店■
時計の小話



第201話(シチズンの自動巻・ジェット)

昭和30年代後半〜40年代初頭にかけて、当時の名機と言える自動巻がシチズンから発売され、席巻しました。その自動巻は『スーパージェット』と言う機械で、地板等に金メッキが施された美しいものでした(初めて裏蓋を開けて見たとき、その美しさに感嘆したものでした)。多石化の先導的な役割を果たし、当時としては珍しい自動巻で39石を内蔵しておりました。オリエント、リコーがした飾りの無駄な多石化ではありませんでした。主要キャリバーは032、ムーブの直径は29.0mm、厚さは4.7mm、振動数は18,000振動でした。このジェットの自動巻機構は、シチズン独特の「外周式ボールベアリングローター」を採用し、受けの外側に回転重りを装着している為、巻き上げ効率が高く尚かつ薄型にする事に成功したムーブメントです。当時のシチズンの並級ムーブメントによく見られるのは、ヒゲ棒とヒゲ受けのヒゲゼンマイのアガキが片当たりになっているものが多いという事です。精工舎が両当たりに固執して精度を高めていった方針とは違い、シチズンは片当たりにすることによって、テンプの短弧での遅れを是正する為に採用したものと思います。どちらがイイとは断言出来ませんが、ほとんどの高級機種は両当たりを採用しているのを見るにつけ、両当たりの方が本道なのかも知れません。しかし、片当たりは作業が易しく、大量生産に向いていたのでしょう(長弧では僅かな両当たりにし、短弧では片当たりにするようにヒゲを調整して等時性を出す方法も採られていました)。昭和40年代、私はこの時計の修理を何十回とした記憶があります。それほどこの時計はシチズンとして大変よく売れた自動巻であったと思います。ローターが回転するとき、凪の時の浜辺のさざ波の音がしたものでした(ローターが回転するとき一種、独特の音がしました)。 このキャリバーを採用して、派生的にたくさんのシチズン自動巻腕時計が誕生しました。それはホーマー方式を踏襲しています。下記にそれを書きます。
・基本Cal.031搭載は『ジェット』
・Cal.032搭載は『ジェットルーキー』
・Cal.034搭載は『スーパージェット』、『スーパープレシジョン』
・Cal.112/117搭載は『オートデーター』
・Cal.113搭載は『オートデータールーキー』
・Cal.115搭載は『スーパーオートデーター』
・Cal.400搭載は『シチズンセブン』、『ヤングセブン』
・Cal.410/411/413搭載は『オートデーターセブン』
・Cal.412搭載は『オートデーターセブンマンスリー』
お父様かお祖父様が所有されていたシチズンジェットが、どの範疇にはいるムーブメントか確認してみるのも面白いでしょう。

第202話(シチズン自動巻の名機)

昭和40年代にセイコー5に対抗して、シチズンから売り出された、日付曜日付き自動巻腕時計、クリスタル7が時折弊店に修理依頼がくるようになり、うれしく思っています。この時計の基本Cal.は520でムーブメントの直径は20.8mm、厚さは4.48mm、振動数は18,000振動でした。セイコー5が手巻き機能が付いていなかったのですが、シチズンクリスタル7は全機種に手巻き機能がついていました。 このCal.52系列はシチズンが誇った並級タイプでは薄型の高性能の自動巻でした。基本のCal.52から日付付きのみCal.54が出来、日付無しのCal.64が生まれました。セイコーの方針と違うのは、シチズンは一つのムーブメントを開発して、多種多様のペットネームの腕時計を売り出した事です。選択肢を増やすことにより消費者の多様な嗜好に対応したものとおもいます。52系では、クリスタル7カスタム、オートデイター7、ダンディ7カスタム、オートデイターコンパクト、クロノマスターADD、クロノマスタースペシャルADD、カトラスADD、セブンスター、セブンスターEXカスタム、セブンスタDXマンスリー、サッカーカスタム、ラリーカスタム、ヨットカスタム、セブンスターDXが生まれました。
Cal.54系には、クリスタルデイト、スーパークリスタルデイト、クロノマスターAD、クロノマスタースペシャルAD、カトラスAD、オートデイターコンパクトが出来ました。
64系には、キングローター、ログマスター、カトラスAが誕生致しました。自動巻ローターはムーブメントの中心に支持され、特殊な形をしたネジ頭がついている為に、取り外しには専用のドライバーが必要でした。自動巻機構はローターの回転はクラッチ伝え車を介して二個のクラッチ車で一定方向の回転に変換され、第一、第二減速車で減速し角穴車に伝え、ゼンマイを、巻き上げる方式です。セイコー5と違って、この42系のOHは部品数が5割近く多い為に、作業に時間がかかります。特に、文字板側に使われているバネ総数がセイコーと違って6本と多く、分解組立時にバネを飛ばさない様に神経を使います。テンプは三本のアミダ式で、ヒゲ棒隙間は片当たり方式を採用していました。 通好みで言えば、セイコー5よりもシチズンクリスタル7のOHの方が難しい為に、やり甲斐があったと言えるかもしれません。

第203話(人気のノモスについて)

昨年6月頃から弊店ではノモスが人気を集め問い合わせが多くなり、弊店での手巻き腕時計売上げNo.1の実績を作っています。裏スケルトン仕様があるので、どのような機械でどんな仕上げをしているかおおよそのことは掴んでいましたが、この間OHする機会があり、機械をバラシながら十分に観察することが出来ました。ムーブメントはETA社製(1971年に買収したプゾー社製:Cal.7001)ですが、ノモス社独自でこのムーブメントを最高ランクにグレードアップしています。毎時21,600振動、厚さは2.50mmの薄型ムーブメントで、パーツ総数は100個ありました。特に驚かされたことは、緩急針の精度調整機構です。ETA社方式を取り去り、ノモス独自の「トリオビス・ファイン・アジャストメント」を装備しています。この方式はスイス高級時計:ジャガールクルト社によく採用されている、微細精度調整が出来る優れた緩急方式です(買って頂いた方より、想像した以上の精度が出るために喜びの声が多く店に届いています)。ヒゲ受け・ヒゲ棒もETA社の同時可動式(ヒゲ受け・ヒゲ棒が一緒に動く)ではなく、高級アンティーク腕時計に見られる、一番最良の方式を採用しています。ヒゲ受け・ヒゲ棒の隙間も少なく、ヒゲゼンマイを両当たりにして等時性を高めています。ヒゲゼンマイにはニバロックス社製を採用し、安定した精度が出るように外端曲線等、工夫調整しています。角穴車は「グラスヒュッテ・サンカット」という独特の研磨がしてあり、ゼンマイを巻く時にその形状が目に焼き付きます。文字板側の地板にはペルラージュ加工が施され、針はバトン型のブルースティールで、直線的な形がノモスのデザインにピッタリ合致しています。地板止めネジはブルースティールのネジを採用し、地板は傷の付きにくいグレイン仕上げがしてあり、そのコントラストがとても美しく見えます。このノモスのムーブメントは、もともとはETA社製のパーツを基本としていますが、全てをノモス社がキレイに再仕上げ加工しています。ですから、地板に「NOMOS」のムーブと名乗ることをETA社が特別に承認しているほど、優れたムーブメントです。これほどまでにチューニングしているにも関わらず価格を低く抑えているために、余計に人気が出たものとおもいます。また、こんなに日本で人気が出た原因の一つに、バウハウス精神を継承して、とことん無駄をそぎ落としたデザインが日本の簡素な美と一致したからではないでしょうか?」

第204話(時計修理の将来は)

5/21と5/28の2回に分けて、本年度第2回の時計通信講座を弊店にて行いました。遠くは埼玉、近くは富山から熱心な受講生8人の方が来られました。今回は各自が持参した手巻き腕時計を分解掃除してもらいました。その中でも静岡県のY.K君は、私が与えた課題以上の事を前もって繰り返し勉強してこられたので非常に上達が早く、将来大変楽しみな生徒になる可能性が大です。おおよそ4時間足らずでOHを完了し、次回講座予定の自動巻に取りかかってもらうほどの余裕でした。長い間、不況のトンネルから抜け出せない日本経済の暗澹たる中において、手に技術を身につけたいと渇望する青年がこれからますます増えていくことと思われます。こういう青年達をサポートするために、小樽市に全国職人学会(事務局長:伊藤一郎氏)が発足しました。将来、職人として身を立てたい青年達を助けるために、どんな技術を習得したいか、どこの地域で働きたいか、今までの経験年数はどんなものか、を聞いて、希望の職場に就職を斡旋出来るよう働きかける機関です。このような機関が出来たことは、非常に喜ばしいことです。時計修理技術に関しては、これからますます需要が見込まれ、今後時計修理技術者は不足になることが目に見えてわかっています。弊店でもここ2〜3年、クォーツを買う人よりも機械式を買い求める方が大変多くなりました。3年間で16名の受講生を教えてきましたが、手巻き・自動巻くらいは修理依頼を受けても出来るような技術を今後自己研鑽して、習得して欲しいと思っています。手に技術を身につけることは、景気・不景気に関係なく、仕事の依頼が安定してくるものです。エリート・ビジネスマンに憧れることもいいかもしれませんが、実社会を屋台骨から支える職人という職業に、若い人には熱い眼差しを向けて欲しいと思います。先日、テレビに世界的に有名な脳神経外科医:福島先生のことが取り上げられていました。先生自ら工夫して作った何十種類の手術工具(時計旋盤のバイトのような形状)を駆使し、脳に出来た極微量の腫瘍を取り出す手術工程を見て、本当に繊細な神経を使う手術だと感服しました。直径1mm単位の血管を損なうことなく、奥深いところにある腫瘍のみを取り出す、手先の器用さは時計職人の毎日の作業と一脈通じるところがあるのではないかと感動しながら、テレビを見ておりました。医師になるには適性と共に、相当一生懸命勉強しなくては、とてもなれない職種ですが、時計修理は根気と忍耐力と生真面目さと手先が器用であるという取り柄があれば、ほぼ誰もがマスターできる技術だと思いますので若い人達がこの世界に飛び込んできてくれることを願ってやみません。

第205話(シチズンレオパールについて)

Cal.77を搭載したシチズンレオパール腕時計のことをお話しします。この時計はキングセイコーハイビートに対抗するべく、シチズン社が全力を傾注して開発した高振動腕時計です。ムーブメントの直径は28.0mm、厚さは4.86mm、振動数は28,800振動〜36,000振動です。Cal.771がレオパールで発売されCal.773がシチズン・ハイネス(非常にシンプルなデザインで私の好きな腕時計でした。36,000振動。30年前で2万円位した手の届かない高価な時計でした。) Cal.779がセブンスターV2のネーミングで発売されました。この時計のおもしろい機構の一つに、シチズン独特の日付と曜日の早送りの仕方があります。日付早修正が12時の位置を上にしてリューズを押すと変わり、曜日早修正は12時の位置を下にしてリューズを押すと変わるという、地球重力を上手く利用した方式です。このカレンダー早送り方式は一見手間がかかるように見えますが故障が起こる原因が少なく、カレンダー早送り機構がよく故障したセイコーCal.56系のようにはならない優れ物でした。シチズンのこの高級機種には、セイコーと同じくヒゲ受けのヒゲ棒のアタリは当然両アタリ式を採用しています。よって、等時性に優れ極めて高い精度を持つ、シチズンの高級腕時計の一つです。高振動腕時計の特徴は精度向上が挙げられますが、その要因には、トルクアップされたゼンマイの採用、高振動化されたテンプ運動、弾性係数の高いヒゲゼンマイ搭載によるテンプ往復運動の安定により、姿勢の変化による影響を受けにくく、携帯精度が常に安定した精度を維持する事が出来るようになっている事が挙げられます。シチズンも、ハイビートのこの機種からは油拡散防止処理(エピラム液処理)を施し、長い間油が流れないような処理を施しています。ロレックスと同じ様に、アンクル爪石とガンギ歯車の噛み合い量が、通常並級品の4分の1から6分の1になって少なくなっています。当然、軸と穴石との遊びも少なく設計され、精密工作機械の向上により、高振動化が出来たものと思います。今では、高価なエピラム液も入手出来る様になりましたが、30年前、一般の時計店ではこのエピラム液は入手出来る方法がなく、OHを依頼された時は、超音波洗浄及びハケ洗いはしないで、ベンジン液(精密機械専用揮発油)の中に入れてすすぎ洗いのみをして、アンクル爪油を注油したものでした。


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