| ■イソザキ時計宝石店■ |
| 時計の小話 |
第206話(シチズンレオパールについて No.2) 前回お話した、シチズンCal.77の姉妹ムーヴメントに、Cal.72、74、76があります。 Cal.72にはレオパール(21,600振動・6振動)、レオパール8(28,800振動・8振動)、レオパール10ハイネス(36,000振動・10振動)セブンスターV2(21,600振動)等がありました。Cal.74には、レオパール10ハイネス(36,000振動振動)、オートデイター740(21,600振動)、Cal.760にはレオパール8(28,800振動)がありました。 その中で、Cal.722、728は日付・曜日が午前零時に瞬間的に変わる、日・曜・瞬間送り装置付きでした。これらの全てのCalは手巻き装置がついており、片振り修正装置、パラショック(耐震装置)、プロフィックス(保油装置)、三角ヒゲ持ち、ヒゲ両アテ方式、等が装備している高級機種でした。特に、ゼンマイが入っている香箱車には特殊な加工が施されてありました。香箱内側の壁にタテ溝をつけた為に、スリップトルクの安定性が高まり、トルクの変動率が小さくなり、ゼンマイの耐久性が向上しました。優れた香箱車の為、数年間無給油で初期特性を保ち、分解・洗浄・給油の必要がありませんでした。 これは、グランドセイコーVFA6185Aの方式に似ている方式でした。ですが、10年以上経過すると、どうしても香箱に油を注油しなくてはならない時、香箱のフタが、なかなか開けにくいという欠点も持ち合わせていました(メーカーでは香箱一式を交換するやり方を薦めておりました)。 今では、日・曜瞬間送り機構はROLEXデイトジャストの代名詞の様に思われますが、30年前以上昔にもセイコー・シチズンは、このような機構を既に独自の方法で取り入れる程の技術力を、保有していました(現行のメカ式GSには日・曜瞬間送り機構を是非採用して欲しいと思っております)。現在のシチズン社の方向は、エコドライブ(光を電気エネルギーに変換して駆動する時計)、電波時計(標準時刻電波を受信して、自動的に正しい時刻を表示する時計)に特化している様ですが、かつては優れた機械式時計を矢継ぎ早に輩出した時計製造メーカーでした。シチズン社も今後、新規に機械式時計を開発・発売しなければ、世界の時計産業の潮流から取り残されてしまう懸念があると、思っております。 第207話(オメガ30mmキャリバー) 最近、時折『30mm OMEGA』と言われる腕時計の修理が弊店に舞い込むようになりました。『30mm OMEGA』はオメガ社が製造してきた手巻きの優れた名機です。Cal.30.260.267.268.269.284.285.286の、おおよそ8種類の手巻きムーブメントがあります。全て振動数は18,000です。その中で平ヒゲ搭載の最高峰はCal.269で、ブレゲ巻き上げヒゲ搭載の最高峰はCal.268、Cal.284、Cal.286でしょう。 『30mm OMEGA』は1939年から製造開始で、1963年にCal.269を製造してその歴史にピリオドを打っています。ムーブメントの直径を30mmにオメガ社が限定したのは、当時の天文台腕時計クロノメーター部門の出品規格が直径30mmに等しいか、あるいはそれ以下と決められていたからなのです。よってオメガ社はサイズの限界の直径30mmのムーブメントを開発し、天文台腕時計クロノメータ競争に出品したり、また、その合格品を市販したからなのです(当時のオメガ社は精度競争ではダントツで世界一でライバルのロンジン、ゼニス社に大きく差を広げていました)。これらの30mmオメガのムーブメントを搭載した腕時計(シーマスター、レールマスター、ランチェロ)は日本のアンティーク・ショップで30万以上の高値をつけて売買されています。日本ではこれほどまでに価格が高騰したにもかかわらず、ebeyオークションで上手く入札すれば3〜4万円で落札できます(良心的なアンティーク・ショップもありますが、相対的に日本のアンティーク腕時計の価格はかなり高いような気がします)。実際弊店に修理依頼されたお客様も、そのような低価格で落札して、弊店に持ってこられたり送られてきたりしました。地板等、全て赤色金メッキされ、対錆にも考慮したしっかりした造り映えです。各パーツ、ネジ等も一寸の隙もなく製造されていて、その出来映えに感嘆の言葉が出るほど美しい機械です。この時計は製造されてから40年以上経過しているにもかかわらず、部品の消耗摩耗がほとんど見受けられず、ヒゲ玉に取り付けてあるヒゲゼンマイのピンニングポイントからの最初の半円部分が、リューズ下の位置で上部にくる様に設計されている為に、時間の精度が理想的なやや進み具合になるように、設計されていました。普通はヒゲ棒は1本のみなのですが、Ω30mmキャリバーはヒゲ棒がヒゲ受けの中に2本あり、その間でヒゲゼンマイは両アタリで微かな当たりの動きをしていました。Cal.269からは精密工作機械の加工精度の向上によりドテピンが廃止され、アンクル受の内面部分の隙間がドテピンの代用をするようになりました。時計愛好者と自負するお方なら、19セイコー、GS(Cal.45)、ロレックス(Cal.1570、Cal.1225)、と共にOMEGA(30mmキャリバー)を持っても絶対損はしない名機の時計でしょう。 第208話(時計設計師と時計技術者) 作詞家、作曲家の関係に似たものに、時計設計技師と時計技術者の関係があります(時計設計技師は姉にあたり、時計技術者は妹の関係でしょうか)。時計技術者は、あるいは時計調整者、あるいは時計職人、あるいは時計修理技能士、あるいは時計修復師、あるいは時計組立工などと呼ばれたりします。日本で著名な時計設計技師と言えば、セイコーの井上三郎氏、東谷宗郎氏、依田和博氏、久保田浩司氏、小牧昭二郎氏、リコー時計の末和海氏、オリエント時計の小野茂氏、シチズン時計の岩沢央氏でした(その中で末和海先生、小野茂先生はCMW取得者でもありました)。日本で時計調整者として名を轟かせた人は、諏訪セイコーに在籍した中山きよ子氏、稲垣篤一氏、小池健一氏、野村荘八郎氏が有名で、かつてスイス天文台コンクールで活躍された人々です。現在、セイコーでは桜田守氏、大平晃氏がセイコーの高級機種の調整を専門にしておられる代表的な人々です。スイス時計王国には、世界中に知れ渡った高名な時計調整者がオメガ社にいました。デッキクロノメータを長年に渡り調整して、天文台コンクールで絶えず上位に位置しつづけた人にアルフレッド・ジャカール氏がいました。また、OMEGA 30mmを専門に精度調整して天文台コンクールに出品し続け、いつも最優秀調整者として褒賞された人に、ジョセフ・オリー氏がいました(この人こそ繊細な神の手を持った調整技術者として世界中が評価していました)。どんなに素晴らしい機械を設計しても誰も褒賞はされなかったのですが、天文台コンクールの精度競争において優秀な成績を残した時計技術者には、褒賞制度がありました(時計設計は個人がするのではなくグループ・課で開発するために褒賞が無かったものと思います)。ほとんどの時計技術者と言えば、時計職人(時計修理技能士)ですが、アンティーク時計を修理・修復する人をあえて時計修復師と呼ばれたりします。 今春、メカ式GSの生産現場である盛岡SEIKO工業(高級時計課)の責任者の方と電話でお話しする機会があり、現行GSの改良・改善点を提案したことがありましたが、その方は「時計設計課と相談して善処したいと思います」と語られ、時計設計課を持ち上げた話し方をされておられました(時計設計技師あっての時計技術者という意識があったためでしょうか。今では、コンピュータを駆使して基本的理論をマスターしていれば、誰もが時計設計を出来る時代になったのです。昔は製図工具を丹念に使用して設計・製図を引いたものなのです)。 第209話(アンクルについて) アンティーク腕時計の修理依頼の200〜300個の中の内、1個はアンクル真のホゾが折れていたり、曲がっていたりしている場合があります。アンクル本体は、『入り爪、出爪、アンクル真、剣先、アンクル体』から成り立っています。アンクル真のホゾが折れていた場合、アンクル本体の一式を交換するか、もしくは、アンクル本体が入手不可能の場合は、アンクル真を旋盤で別作して作る場合があります。形状は天真よりも簡単な為に、旋盤で別作する事自体はそんなに難易度が高い作業では無いのですが、アンクル体に圧入(摩擦式)する時の、振座・振り石との兼ね合いの高さ調節が、極めて難度となる作業です。最近のアンクル真は全て圧入式(摩擦式=押さえ込む事によって固定。)ですが、古いアンティークの懐中時計などには、アンクル真にネジが切ってあり、アンクル体にネジ込むタイプのものがあり、これを『ネジ込み式アンクル真』と言ったものです。全長2.0mm〜2.5mmのアンクル真の上の部分のわずかな所に小物捻子板でネジを切るのは、大変な作業になるものです。今ではほとんどのアンクル真が圧入式なので、旋盤でアンクル真を別作してもネジを切る必要は無くなり、その点、大分作業が楽になりました。でも、アンクル真をアンクル体に圧入する時、圧入する高さは振座、振石との兼ね合いがある為、慎重にならざるを得ない作業となります。アンクル真をアンクル体に圧入する時には、経験の豊富なベテラン時計職人の場合は一般的には、タガネを使用しますが、最善の方法は『サイツ穴石入れ器』を使うのがベストだと思います。 『サイツ穴石入れ器』には、上部に、マイクロメータの装置がついてあり、圧入時の押し込む量を決められる様になっています。この方法は、『マイクロ・プッシュ・イン方式』とも呼ばれています。アンクル真の形状は、ほぼ4つにわけられます。・アンクル真の上下ホゾが、平面穴石によって支えられるタイプ、ホゾとアンクル真が直角になっています。 ・下ホゾに受石がついているタイプは下ホゾを天真のホゾのようにテーパーをつけて加工します。 ・上ホゾに受石がついているタイプこれは上ホゾを天真のホゾのようになだらかななテーパーをつけます。 ・最高機種のアンクル真のホゾ、上下とも受け石がついているタイプは 上下ホゾとも、天真のホゾのようになだらかななテーパーをつけます。 天真別作入れ替えと、ともにアンクル真別作入れ替えも大変骨の折れる修理作業です。 第210話(セイコー・ダイヤ・アジャスト機構について) かつてのSEIKO高級腕時計:グランドセイコー、キングセイコーのテンプ受には、一部にダイヤ・アジャスト機構が付いていました。ダイヤ・アジャスト機構とは・緩急針微動調整装置(微動レバーを動かす事により日差の+−を調整する)・片振り修正装置(可動ヒゲ持ち受とも言います。これをピンセットで動かす事により、片振り修正がいとも簡単に出来るようになりました。これが付いていない、かつての腕時計では、片振り修正をする場合、ヒゲ玉に細いドライバーを差し込んで回していちいち調整したものです)・アオリ調整装置(ヒゲ受とヒゲ棒の間のヒゲゼンマイのアタリの隙間を微動調整する装置です)これらが3点セットでついている機構でした。 特に<アオリ調整装置>が付いている為に等時性の調整が極めて容易になっていました。腕時計はテンプの振り角により歩度も微妙に絶えず変化致します。 このテンプの振り角の変化に対して歩度の乱れを出来るだけ少なくするのが、<等時性の調整>です。スイス高級腕時計には、この<アオリ調整装置>がほとんどついていなかったのに、SEIKOがこの装置を高級腕時計に設置したのは、当時のSEIKO技術陣の快挙だったと言えるかもしれません。(かってのインターナショナル社のように、ヒゲ受け・ヒゲ棒アガキを極端に微量(両当たりの固定化)にしている最高度の調整方法も存在しました) その頃のグランドセイコー、キングセイコーには、テンプ姿勢差を是正するために、天輪の片重りを徹底して無くし、またヒゲゼンマイの偏心、及び重心移動による姿勢差を無くす為に特殊な形状の理想内端カーブをつけたり、ヒゲゼンマイの外端にも理想曲線をつけて精度を高めていました。これらの機構と共に、精度を高めた要因の一つが高振動メカニズム(ハイ・ビート 8〜10振動)の登場です。テンプの振動数が高くなれば、テンプの回転運動が安定してきて、等時性、姿勢差、においても高い精度が実現できます。腕に携帯する腕時計は、手の動きによる、腕時計のテンプの姿勢の変化や、手の衝撃等によって、常に歩度の乱れの原因を絶えず生じさせていますが、ハイ・ビートになると、外部からの姿勢・衝撃の影響を非常に受けにくくなり、携帯中も静止時に近い精度を得る事が、容易に出来るようになったのです。30年以上も過ぎたにもかかわらずその頃のKS・GSが現行のGSに優るとも劣らない高精度を維持・再現出来るのもこれらのお陰なのです。最近のETA社汎用ムーブメントCal.2892-A2やCal.7750のテンプ受にも、SEIKOダイヤ・アジャスト機構を簡素化した機構が取り付けてあります。 |
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