■イソザキ時計宝石店■
時計の小話



第221話(腕時計ケースについて)

腕時計のケースには、いろんなたくさんの種類があります。非防水の腕時計は、ガラスぶち、風防(プラスチック)、ケース本体、裏ブタ、リューズから成り立っています。防水ケース側は、メーカーによっていろんな方法やら種類があります。一番多く採用されている方法では、ガラスぶち、ガラス接触パッキング、ガラス、ダ円リング、見返しリング、ケース本体、スリット中枠、裏ブタパッキング、裏ブタ、リューズから成り立っています。パッキングはシリコングリースを塗布してケースに密着させて、防水性能を高める方法を採ります。防水角型腕時計の場合は、ガラスぶち、風防、パッキング、中枠、ダ円リング、裏ブタの構造になっています(一般的に角形ケース・トノー型ケースは丸形ケースよりも防水性能は落ちます)。防水性能に秀れたワンピース・ケース(セイコーロードマチック、オメガ、過去のインタナショナルに多く採用)の場合、裏ブタが無い為に、巻真が2本に別れるジョイント方式になっています。汽車の連結部分の様に、凹部と凸部に巻真が別れていて、噛み合いを確認しながら押さえ込むと、一本の巻真になり、ケースにセットされます。 時計メーカーによってはガラス側に2本のパッキングを採用している所もあり、古くなってきますと、そのパッキングの入手が大変難しくなったりして閉口する時があります。かつてのキングセイコーや、グランドセイコーには、ガラス側のパッキングが台形の二段式になっていて既に生産終了で入手出来ない為、パッキングが亀裂・経年劣化して交換の必要がある場合、板状のパッキングと筒状の丸パッキングを組み合わせて代用したりします。防水ケースはこれらの構成するパーツのどれ一つでも異常があった場合、防水性能が維持できなくて、使用中に湿気・汗・水等が入り込み、ムーブメントを錆させて痛めつける原因になったりします。天下無双のローレックス・オイスターケースといえども、メンテナンスを定期的に行わないと、裏ブタとケース本体の裏側に汗・湿気等が染み込んで、ステンレスケースが錆びついて、著しく防水性能を低下させる原因になったりしますので、定期的なメンテナンスは絶対必要なのです。防水側不良の原因には、幾つか挙げられます。 ガラスぶち部分では、「ガラスぶちのゆるみ、ガラス及び風防のヒビ・割れ、Oリングパッキング&楕円リングのヘタリ・変形・劣化等」が考えられます。ケース本体部分では、「巻真交換後の長さが長い為の隙間、パイプ(チューブ)の抜け落ち・ネジ部のバカ、リューズシリコンオイルの塗布不良」等が考えられます。裏ブタ部分では、「ネジブタ締めの緩みや不良、パッキングの経年劣化、シリコングリースの塗布不良」等があります。水に腕時計をつける機会の多い人は定期的に防水点検を必ず受けるべきだと思います。水が入ってから慌てて時計店に持ち込んでも、万事休す、の場合が往々にして見受けられます。

第222話(厄介な作業)

先日久しぶりに、IWCフリーガーUTC自動巻腕時計(24時間のUTC表示・カレンダー付き・センターセコンド・Cal.37526・21石・28,800A/h・6気圧防水・ベース:ムーブメントETA2892−2)のオーバーホールをしました。いつもこの腕時計のOHするたびに思う事があります。1点のみ文字板側に非常に組み立てにくい作業があるのです。2階立て日送り車、小さな中間車、筒車、中間車押さえ板を同時に3軸に入れる作業が非常にやっかいな作業なのです。(2階立て日送り車の2枚の歯の間に筒車の歯を入れながら軸に入れなければならないからです。)いつもこの作業を行う時、ヒゲ修正用のピンセットを両手に持って、両手に日送り車と筒車を持ち、その間に中間車と中間押さえ板を持って同時に軸にはめ込むのは、至難の業が必要です。特に中間押さえ板が、筒車の下の方の位置にいってしまう為に歯車が上手く噛み合わず、その調整に本当に苦労します。ローレックスのGMT機構や、オメガのGMT機構と違って、IWCのGMT機構のフリーガーUTCは本当にやっかいな修理作業です。小生は時折するので助かりますが、IWCのサービスセンターに勤めておられる、フリーガーUTCを専門に修理する技術者の苦労が偲ばれます。(毎日して慣れてしまえば容易な作業かもしれませんが、でもやはり嫌な作業でしょう。)最近のモーリス・ラクロアの様に、ETA2892A2のムーブメントにいろんな付加価値が付いた、複雑時計を生み出しているスイス時計メーカーがありますが、これから4〜5年先にそれらがオーバーホールを迎える時期になると、日本の輸入代理店の修理技術者は大変な苦労をするのではないかと、思ったりします。(彼らには手引き書・マニュアルがあるから楽かも知れませんが、それでも大変な修理作業になると思います。)やっかいな作業と言えば、クロノグラフの秒クロノグラフ針を取り外す時にも、大変な神経を使います。リセットボタンを押した時に、強い力で瞬時に零規正する為に、秒クロノグラフ車に秒針を強く押し込んであります。どんなに注意を払っても、秒クロノグラフ針が針本体と秒クロノグラフ車に埋め込まれるパイプとに別れてしまう時が時折あるのです。針とパイプのカシメ部が取れて二つに別れた時、ポンス台を使ってカシメし直す場合が起きます。
秒針のパイプも非常に小さい為、タガネで強くカシメるといとも簡単に変形してしまう為、細心の注意を払わざるを得ないのです。時計修理作業は、毎日、本当に神経が疲労する作業の連続です。

第223話(ピンセットについて)


毎日時計修理作業をする前に、必ずする事がたくさんあります。細かいチリ・ホコリ等は精密機械の腕時計修理には禁物ですので、作業机を必ず綺麗に掃除します。倍率の違うキズミを小生は3個常に使用していますので、キズミの汚れ等をキレイに取り除きます。そしてドライバーの先端の、両側のコーナーが笑っていないか、10本のドライバー全てをチェックします(ネジ頭の大きさ太さによって10本のドライバーを使い分けます)。ドライバ−の両端が欠けたり曲がっていたりしたドライバーを使ってネジを緩めたり締めたりしますとネジをキズつける事になるからです。
最近、両面スケルトンや青色焼入れネジを使っている時計修理が多い為に、昔よりもより以上の神経を使わざるをえません(スケルトンの場合、超音波洗浄機にかけないで刷毛手洗いのみの洗浄になる時もあります)。私の作業机の上には、常時8本のピンセットが置いてあります。 毎朝作業をする前に、ピンセットの先端を二重キズミで見て、先端が上手く噛み合っているか、曲がったりはしていないか等を見て、万が一先端がずれていた場合や曲がっていた時はアルカンサス砥石で完全に修正します。修理作業中に来客があり中断したりした時は、往々にして細かい部品を挟みそこねてバネ等を飛ばす失敗があるのです(微細なバネ等を飛ばしたりしますと、見つけるのに下手したら30分以上もかかったりして大変な目にあいます。愚妻は器用ではないのですが、飛ばした部品を見つけるのが上手く、いつもその時は助けてもらっています)。小生の愛用ピンセットは、ヒゲゼンマイ用ピンセット2本、針修正用ピンセット1本、組立用ピンセット3本、バネ専用ピンセット1本、ROLEX天輪掴み専用ピンセット(4コーナーを面取りした傷が付かない工夫した物)1本、このピンセットはマイクロステラを使って秒単位の精度調整をする時に天輪を掴む為のピンセットです。何故こんなに3本もの組立用ピンセットが必要かと言えば、受け石バネ用、各歯車やアンクル組み立て用、香箱や香箱真を持つ為に、そして紳士用、婦人用と『強さ』、『細さ』、『先端の形』、が違いがあるピンセットを使い分けて使用する必要があるからです。その8本の内4本は、小生が30年以上使用に耐えてきた強者(つわもの)のピンセットです。ピンセットを持った時の感覚が、30年間使用している為に、指の感覚と同一の様な慣れ親しんだ繊細なピンセットで、私の手の一部とも言える工具です。小生は若いとき、軽い近眼だった為にその事が今では幸いし、この年になっても近業作業が無理なくおこなえます。
若い頃、正視眼の人は40代になりますと自然と老眼になり時計修理等の近業作業が大変辛くなるものです。私の父は小生の年頃になったときには近用眼鏡をかけてその上にキズミを付けていましたから、修理作業は大変だったろうなーと思い出しては回想しています。

第224話(技能競技大会について)

全時連(全日本時計宝飾眼鏡商業協同組合連合会の略)主催の『第16回時計技能競技:全国大会』が10/17日、滋賀県大津市の近江勧学館(神宮町1-1)で行われました(大津市で行われたと言うことは大津にある近江時計眼鏡宝飾専門学校が長年に渡りすぐれた時計技術指導を行ってきて、この業界に沢山の人材を輩出してきた事への裏付けです。)
16日に開会式、17日に競技試験が実施され、18日に表彰・閉会式が滞り無く行われました。競技試験は第一部門と第二部門に別れていて、第一部門(7時間)はメカ式自動巻及びクォーツの修理調整、第二部門(3字間30分)はクォーツのみの修理調整の試験です。あらかじめ不具合ヶ所が作ってあり精度要求に従い修理・調整する実践的な試験です。遠くは東北や九州からも大津市に集まり、第一部門は24人、第二部門には14人の受験生がいました。年齢構成は20才代〜40才代の人々が挑戦しました。メカ式の試験教材は海外生産モデルのセイコー自動巻デイデイト(Cal.7S26)で、クォーツの試験教材はセイコー(Cal.7T32)のタイプでした。学科試験・部品(天真・巻真)製作の旋盤作業・天真入替・ヒゲゼンマイ合わせ等がある総合的な技能試験ではなく、若い人の腕試しには丁度良い試験だと思います。第一部門はE氏(シチズン時計)が優勝し、2位はS氏(大阪セイコーサービスセンター)、優秀賞はS氏(盛岡セイコー工業・高級メカ工房部)。第二部門はH氏(船引精密)が優勝し、2位はB氏(近江時計眼鏡宝飾専門学校生徒)、優秀賞はY氏(セイコーサービスセンター・グランドセイコーSS)でした。こういう競技大会は時計メーカー、サービスセンター、時計専門学校生徒の若い受験生が多いのですが、もっと時計店の修理担当の若い人々も積極的に受けるべきではないかと思いました。受験する意志を持ちますと一生懸命短期間に集中的に勉強するために飛躍的に腕が上がるものなのです。

第225話(時計修理技能士試験の最近の動向)

機械式腕時計のブームにより、時計修理技能士の絶対的な不足が懸念されている今日、時計修理技能士試験受験者が、ここ2、3年増加傾向にあるのは大変喜ばしい事です。昭和40年には1万人を超す受験生がおり、昭和41年には6千人を超す受験生が日本全国の各都道府県にいましたが、1970年代初期のクォーツ時代の到来により、時計修理技能士試験受験者は減少の一途を辿るのでした。1990年前後からのスイス時計メーカーのメカ式腕時計に復活を賭ける意気込みと共に、日本市場にもメカ式腕時計の良さがユーザーに再認識されはじめ、どの小売り時計店でもメカ式がそこそこ売れはじめてきた訳です。ここに至って、その頃販売されたメカ式腕時計の修理依頼時期が来る様になると、今まで修理を自店ではしていないでサービスセンターのみに頼っていた、小売り大型時計店の経営者達が慌てだし、従業員にせめて自店で販売した腕時計の修理アフターサービスをする様に気がつき始めたのです。2000年に全国で僅か299人の時計修理技能士試験受験者がいたのですが、2001年には311人と増え、今年は全国で458人が1級(98人)2級(171人)3級(189人)を受験される予定です。全国の時計専門店は、この厳しい時代の中生き延びてゆくには、修理技術を自店で賄う事の重要性をやっと気が付き始めたのです。私どもの店の様に、零細な家族経営の店では、大資本の大店の品揃え・立地条件に同じ土俵で競争出来るハズもなく、この30年間、修理技術を蓄積してきた努力により、今日までなんとか閉店せず生き延びて来られたものと推察しております。 この業界に身を置く若い人達が、営業・事務・修理現場の範疇を越えて熱意を持って時計技術を習得するために気がつき、目覚めて欲しいと思っております。かつてスイス時計業界と並び賞された日本のメカ式時計技術を復興させる為にも、既存の時計メーカーの人々のみに頼らず、消費者と直接向き合う小売り時計店の人達が時計修理技術を習得する事が日本時計技術全体の底上げ・レベルアップつながるものと確信しております。やる気のある若い時計修理技能士資格獲得者が増えれば、おのずとCMW試験が再度、復活する気運が高まるものと思っています。その時は小生も微力ながらお手伝いをする覚悟でおります。


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