■イソザキ時計宝石店■
時計の小話



第226話(エポスについて)

弊店では昨年の6月よりエポスを取り扱いし出しました。 それまで時計の雑誌等でメカ式をリーズナブルな価格で良心的に販売価格を設定している スイス時計会社であると認識していました。 手巻き時計で2万円代から有り、自動巻腕時計では3万円からあるという 最近では考えられない価格に驚いておりました。 取り扱い当初はぽつぽつという感じで売れてきましたが今年になって時計雑誌で よく特集が取り上げている為か話題性もあり、輸入元の広告するタイミングも良く ここ2〜3ヶ月非常に良く売れてきだしました。 特に懐中時計の作りは驚嘆するほど綺麗でこの価格でよくこれまで作り上げることが 出来るものと感心しています。買われたユーザーの方の評判も極めて良く売った方も嬉しい悲鳴を上げております。両面スケルトン3305SL、3262SLやムーンフェイズのある3214SLは引き合いが一杯あり 納品がいつも遅れているのが現状です。 同じETAのムーブメントを採用しているにも拘わらず他のスイス時計メーカーが 余りにも高い小売価格に消費者の方々も気が付き始めたのかも知れません。 エポスがいかに買い得なメカ式腕時計であるか日本でよく理解されてきたためでしょうか? ココにいたって大きなブランドに成長する予感があります。 人気の3281SL、3260SLの手巻き腕時計は裏スケで懐中時計の機械が内蔵されていて 青ネジを所々採用して余りにも綺麗な造り映えに感心する程です。 精度も良く買われた人から賞賛のメールを頂いていて販売して良かったと つくづく思っております。スイス時計メーカーがいろんな手を打ってきているので日本の既存の時計メーカーは 大変な状況になってきているのではないかと危惧しております。 (国産メーカーが力を入れている電波時計は正確さでは他を圧倒する精度ですが、 人が作った手作りの温かみが無いのが弱い点ではないかと思っています。) 歳末商戦に向けて11月14日に金沢でセイコーの展示即売会がありましたが 1時間ばかりいて来場者は私ども二人という寂しさでした。かって2〜30年程前のセイコーの展示会と言えば人だかりの大盛況で 押すな押すな人で一杯でしたが時代も変われば変わるものとつくづく思います。 中部地方を統括する名古屋O支店長がきており、いろいろ雑談したり、 アドバイスをしたりしました。 特にメカ式GSのスケルトンや、GMTを年間仕入額(GS仕入れのみ)1000万円をとても達成出来ない、 地方の零細時計店にも卸して頂くよう申し入れをしました。 営業会議に諮ると言っておられたので、さて、どんな返事がくるのか、今から楽しみです。

第227話(懐かしいご縁)

今月は、思いがけない人から電話がかかってきたり、メールが来たりしました。 11月12日には、精工舎に、この人あり、と言われた程、有名な時計設計技師 依田和博先生からメールがあり、小生が書いている、時計の小話を購読しているとの事でした。依田先生とは、小生が25、6才の時に、お会いした記憶があります。 昭和47、8年頃、CMW全国会合が第二精工舎亀戸工場であり、恩師の加藤日出男先生と 東京に出掛け依田先生の講義を受けた事を、今でも鮮明に憶えております。 依田先生が、執筆された、『高級テンプ式腕時計の歩度調整』は私の座右の本で、 絶えず繰り返し読んだものです。 依田先生は現在、ひこ・ミズノ時計学校で学科の教鞭を執っておられます。インターネットの時代になり、いろんな人々との邂逅があり、嬉しい思いをしております。 今年も、セイコー・トゥールビヨンを開発された、東谷宗郎先生からも、メールを頂戴し、 何回かメールを交換した光栄に授かりました。また11月21日PM5:00頃、突然電話が掛かってきて、お話しましたら、 なんと、アメリカのネブラスカ州オマハ市在住の、遠藤勉氏からの電話でした。 彼とは、多少ご縁があり、昭和46年CMW試験で、同時に合格した間柄で、 年齢も似た年頃でした。 (彼は新潟出身で試験場は東京、私は滋賀県出身で大阪と違っていましたが) 遠藤氏は井上賞受賞というトップ合格で、小生が2位合格という関係でした。 昭和47年春に、開催されたCMW合格認証式(なにわ会館)で、初めてお会いしました。 トップ合格から、3位まではアメリカのベンラス時計会社に留学出来るという、 規定があった為,彼と一緒に米国へ行ける、と期待していたものでした。 (私が、新婚時代だった為、飯田会長の反対に会い結局はアメリカに行けなかったのが、 残念でしたが・・・。)遠藤勉氏は、その後日本に帰国せず、アメリカで永住権を取り、海外で 活躍されてきている事を噂で聞き及んでおりましたが 31年ぶりに、突然の電話が掛かってきて、彼の肉声を聞いて、 非常に懐かしい思いに駆られました。 余りにも、懐かしさの為に、時間が経つのを忘れて40分以上も、お話をしてしまいました。 遠藤勉氏のお父様の隆氏も、CMW取得者で、日本では、珍しいCMW父子鷹です。 (遠藤隆氏は村木時計通信教育で優秀な成績で卒業され菅波錦平先生から 特別賞を受けられた技能卓越な技術者でした。) CMW父子鷹と言えば、千葉県に田村四郎・早苗、両氏もおられます。

第228話(時の浪漫)

栄華を極めたルイ14世(在位1643-1715)から、16世(在位 1774-1792) の 住まいであったフランス・ベルサイユ宮殿は、豪華絢爛な部屋が700室もあるそうです。 その数にもビックリさせられますが、 ベルサイユ宮殿に設置されている当時からの蒐集された貴重な置時計・掛時計の数が 300個にのぼるそうです。 その300個を修理・補修するベルサイユ宮殿には、お抱えの時計修理職人が 現在2名おられて毎日、修理作業や補修点検をしているそうです。 (300個の時計の重鎮・ゼンマイを巻き上げるだけでも大変な作業と思います。) 中でもカラクリ時計の一番なのが、正時になると文字板の上に左右二人の騎士が表れ、 次に中央の扉が開いて太陽王ルイ14世が表れ、それと共に、上の方から王冠が出てきて、 ルイ14世の頭に戴冠するというものです。 唯一無比のからくり時計を保有する事は、当時は地位・権力・富の象徴として 扱われてきたのでしょう。 ベルサイユ宮殿には当時の技術の粋を集めて天文置時計も制作され、それは 文字板に西暦年数・月・曜日・日・ムーンフェイズ・子午線を表示してあり、 現在の今でも正確に動いているという代物です。 当時の時計技術の先進国はおそらくフランスが一番であっただろうと推測されます。 カトリック教徒への弾圧により、フランスの優秀な時計職人がスイスに亡命せざるを得ない 状態に追い込まれるまでフランスには、当時世界最高レベルの時計技術者がいた、 と推測するのは容易な事です。不幸にもマリーアントワネットが、人類史上最高峰の時計師アブラハム・ルイ・ブレゲに 発注した、超複雑懐中時計はマリーアントワネットが完成するのを見ずにして 亡くなられたという事実は、悲しい哀愁を呼ぶものです。東北大学のN元学長が、青春時代(心の旅路)を回想して、 ロンドンのある有名大学を再訪しそこにも現代でも通用する、 精度の高いアンティーク天文置時計が存在する事を紹介されて いましたが、近代西欧の時計技術のレベルの高さに、驚嘆します。日本から発端したクォーツ腕時計の歴史はたかだか30年余りの時しかありませんが 機械式時計の歴史は何百年と遡れる永久の時間でそこにユーザーの方々が 時の浪漫を感じるのでしょうか? 機械式時計は誤差がでるという欠点を覆い尽くすほどの魅力 (極少のムーブの中に込められた人間の知恵と汗の結晶)を内蔵しているからなのでしょう。

第229話(子供用機械式腕時計)

10月に、東京のA市からO様が当店に修理依頼の為にご来店頂きました。 その時計は、修理実績にも載っていますが、約30年程前に、シチズン時計が、生産した 子供向け用の『リズムタイム』というネーミングの手巻きの腕時計でした。 (Oさんが子供の頃お父様に買っていただいたという思い出の時計でした。)当時、シチズン社は子供向け用に、『キンダータイム』と『リズムタイム』を 並行して販売しておりました。 当時の価格で\2,500前後という値段でお子様が、ちょっと背伸びをすれば 小遣いで買えるという良心的な低い価格で設定してありました。 クラブツースレバー・脱進機を搭載した7〜17石の機械で、 シチズン名機の『ホーマー』をベースとしていた為に、 価格が低く抑えられていたにも、かかわらず、 精度は当時で+−40秒前後に調整されて市場に出回っておりました。当時のキンダータイムやリズムタイムと競合する子供用廉価腕時計には、 セイコー社が提供している『トモニー』、 アメリカのタイメックス社の『ピンレバーウォッチ』 スイス時計メーカーの『ロスコフウォッチ』等がありました。 (ジョルジュ・フレデリック・ロスコフが100年以上も前に作り出した時計) タイメックスのピンレバーウォッチもスイスのロスコフウォッチも 日差2〜3分の誤差が出るのが当たり前の許容精度でした。それに比べ、国産の、トモニーやリズムタイム等は、かなり精度が絞れるメカ式を 内蔵していました。 O様からは、二回目のご来店の上での修理依頼でしたので、 この廉価版シチズン腕時計をなんとかクロノメーター規格の精度にしてあげたいと 思っていましたのでヒマな休みの日に時間を作って、ヒゲゼンマイ等を精密調整 (ヒゲゼンマイ外端曲線の修正、ヒゲ受け・ヒゲ棒のアタリ微調整、 平ヒゲの偏心する収縮運動の目一杯の修正、 テンワと平行になるようにヒゲ縦ぶれ修正、アンクル爪の第二停止量の修正)等を 行いました所、日差+5前後に精度が絞れる事が出来ました。時計技術界の巨匠、H・イェンドリッキー氏が、下記のように言っておられます。 『どんな廉価な腕時計でもクラブ・ツースレバー脱進機を搭載していれば、 手抜きせずにヒゲ調整等すれば高級腕時計の精度を容易に与える事が出来る』と、 言っておられる事を、まさに体験した修理作業でした。

第230話(新ムーブメント開発競争)

自動車業界には、リコール問題が必ず付きまといます。 数年前のM自動車のブレーキにかかわるリコール隠蔽騒動や、 最近では、H自動車のオートバイが高速運転中にハンドルが外れるという、 命に関わる大きなリコール騒動がありました。 人の命に関わる大きな問題なので、医療ミスと同等に大きくマスコミに取り上げられ また、担当行政機関が、厳しく監督改善命令を出す、という事が起きます。時計業界に身を移しますと、10年来の機械時計の爆発的な復活により、 時計メーカーの資金面での、余裕が潤沢に蓄積され、 ここ2、3年スイス有力時計メーカーが矢継早に新ムーブメントを開発し売り出しています。 一昨年はショパール、ランゲ&ゾーネが画期的なムーブメントを発表し、 時計業界及び時計蒐集家の注目を集めましたが、 今年になると、有力時計メーカーの百花繚乱的な様相を呈しています。中でも、ジャガールクルトの 『Cal.923』 (双方向巻き上げ自動巻、28800A/h、32石、40時間駆動、 時・分・秒/24年のタイムゾーン表示、AM&PM表示、パーツ総数281)『Cal.877』 (巻き上げ持続8日間、28800A/h、25石、ツインバレル方式、 パワーリザーブインジケーター、ビッグデイト表示、デイ&ナイト表示、パーツ総数217)ロジェ・デュブイの 『Cal.RD54』 (手巻き、21600A/h、19石、時・分表示)『Cal.RD14』 (片方向巻き上げ自動巻、28800A/h、31石、54時間駆動、厚さ3.43mmの薄型)プログレスウォッチのクロノグラフキャリバー 『Cal.154』 (28800A/h、37石、コラムホイール方式、二階建てでクロノグラフモジュールを 載せるのでは無く、設計当初からクロノグラフ機構を組み込んだ方式)ユリスナルダンの 『Cal.UN−66』 (双方向巻き上げ自動巻、28800A/h、109石、42時間駆動、 ビッグテイト式日付表示、24時間アラームセッティングインジケーター カウントダウンインジケーター、アラームオン&オフインジケーター)オーデマピゲの 『Cal.3120』 (双方向巻き上げ自動巻、21600A/h、40石、60時間駆動、デイト表示、 デイトジャスト方式、ジャイロマックス付きテンプ、 微調整機能付きヒゲ持ち、パーツ総数287、厚さ4.28mmの薄型)等に集約されます。果たして今後、いろんなメーカーから新開発されたムーブメントが出てくるでしょうが、 何十年に渡り、順調に、動き続けるかどうかです。 時計業界にはかつて、リコール騒動というものが、ほとんど存在しませんでした。 人間の生命に関わる大きな問題で無い為に、万が一設計ミスで不良箇所による、 停止・故障という事があったとしても、公にはならず、静かに市場から消えていった ムーブメントは数限りなくあると思います。 新ムーブメントを搭載した、上記の腕時計の価格は相当小売価格が高く設定してある為、 誰もが容易に購入出来る腕時計ではありませんが、もしこの読者の方で、 近々購入する予定のある方は十分深慮して、買って頂けたら、と思います。あの、高技術を持ったローレックス社が新機種の複雑時計を安易に開発生産しない姿勢に、 小生はロレックス社の良心的な社風を感じ入らざるをえません。 (弊社にはこんな複雑な時計を作れるとだという技術をユーザーに目を見張らせて 保持し迎合する姿勢よりも,安心して長く使える時計を販売するロレックス社の社風が 私は好きなのです。)時計の機械は複雑になればなるほど部品数も多くなり、故障原因も多種多様化し、 メンテナンス期間も短くなり、それなりに維持費に料金が高くつく点を考えれば 色んな問題を内包しているのではないかと思っています。


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