■イソザキ時計宝石店■
時計の小話



第251話(オメガ・スピードマスター その2)

現行のオメガ・スピードマスターには、Cal.1861が搭載されています。 これは、Cal.861が、金メッキだったものを、ロジウムメッキに仕上げ変更をして 世に出されたものです。 今まで、何十回となく、オメガ・スピードマスターの修理を携わってきて、 手巻きクロノグラフの美しさにいつも魅了をされ続けています。 (クロノグラフを購入される時計好きな人達もシースルーバックから垣間見える この機械的な美しさに参ってしまったに違いないでしょう。)オメガ・スピードマスターを修理するときに、一番神経を使うのは、 ムーブメントの組立調整では無く、六本の各種針の脱着作業です。 このオメガの針の白い塗料は凄く傷つきやすく、また剥がれ落ちやすい為に、 最大限の神経を集中して、作業をしなければなりません。 (使用中に衝撃・落下等で白い塗料が剥がれ落ちた時計に何度となく会っています。)250話と上記の最近のスピードマスター以外にも、異なったキャリバーを搭載した スピードマスター・クロノグラフが多々ありました。 1973年には、オメガ社創立125周年を記念して、 自動巻のスピードマスター・クロノメーター(Cal.1040)が、世に出ました。 このクロノグラフ・ムーブメントはレマニア製Cal.1340を リファインしたものでした。同じく、1973年には、アメリカのブローバー社の音叉式腕時計の精度に対抗すべく、 世界で初めて、音叉式ムーブメント・クロノグラフCal.1225搭載の スピードマスター・スピードソニックを開発しました。 機械の構造上、スモールセコンドが12時の位置にあり、30分計が9時位置になり、 デイデイトを標準装備してありました。この時計は、当時のオメガ社の技術陣が総力を挙げて開発したものに 違いないのですが、クォーツ腕時計の黎明期と重なった為に世に出た寿命が短く、 僅か二年間で消え去る運命だったのが残念で惜しまれてなりません。 それ程までに金メッキされた美しいエレクトロニクス・音叉ムーブメントでした。1980年には、アポロ11号月面着陸10周年を記念した、 限定モデルが、初めてシースルーバックを採用されて発売されました。1988年には、Cal.1140(48石,28800振動,自動巻)が新しく開発され、 世に出ました。 スピードマスターの変還史を掻い摘んで見てきただけでもオメガ社の技術力の 底力をまざまざと見せつけられた思いに駆られるのは、 私一人では無かったと思います。今年のバーゼルではΩスピードマスター・プロフェッショナルMK?が文字板や針に カラーリングが施されレーシングウォッチの再現が見事になされました。 8月発売予定で304.500円になるそうです。

第252話(掃除木)

最近、他店でオーバーホールしたにもかかわらず、調子が悪いので、見て欲しい、 という修理依頼が、時折あります。 裏ブタを開けますと、大体がそうなのですが、前回時計修理人が書いたと思われる 日付が入っています。その日付を見ますと、半年前とか、一年前に修理されたにもかかわらず、 テンプ上下穴石の油がほとんど無い状態なのです。 当然、アンクルの油もチェックしてみますが、ほとんど油の残量がありません。 何故半年・一年前にオーバーホールしたにも関わらず、油が消えてしまうか? と言うと揮発油(ベンジン)の油膜が残っている状態で、注油しているからなのです。穴石・受石等を洗浄した後、布巾で素速く拭いて揮発油・油膜を取り除けば いいのですが、綺麗に油膜が取り除けていない状態で、 テンプ油を注油した場合、油は拡散してしまい、長時間、保油出来ないのです。 弊店では、超音波洗浄機で、洗浄した後、テンプの上下ホゾ、ガンギ車上下ホゾを 掃除木(エルダーピース)でホゾに万が一油膜が残っている場合を考えて、 取り除く方法を採っています。超音波洗浄機は、時計修理人には、無くてはならない必須の機械なのですが、 100%全幅の信頼を置くわけにはいかず、 テンプの穴石・受石・アンクル爪石,各車の穴石等を洗浄後も、 油膜が残らず綺麗になっているか?確認作業をしなければなりません。特に、アンクル爪石・油が短期間の内に、拡散して、無くなった場合、 時計の調子は急激に悪くなるからです。 (ハイ・ビートなら余計に悪い影響がでます) ロレックスによく見受けられるのですが、 新品購入後、7年以上時間が経過しているにもかかわらず、 テンプの穴石・油が、十分に残っているケースがあります。さすがに、ロレックスのテンプのホゾの保油能力の凄さに愕然とします。 ロレックスは、2番・3番・4番・ガンギ車のホゾの穴石・油の量が十分に注油 出来る為に、オーバーホール後5年以上過ぎても、油が残っている場合があり、 ロレックスは他を抜きんでて、良い保油設計をしているものと、 いつも感心しております。

第253話(耐震装置・押さえバネ)

腕時計の心臓部であるテンプの上下ホゾには、 衝撃やコンクリート上への落下によるショックから守る為に、 耐震装置が装備されています。 天真の先端のホゾの直径は0.06mm〜太いもので0.12mmぐらいしか無い為、 耐震装置が無い時代においては、落下による天真が折れがあり 天真入れ替え作業という修理が多かったものです。 (懐中時計にはほとんど耐震装置が付いていないために旋盤にて 天真ベッサクして天真入れ替えをよくしたものでした。)耐震装置が腕時計に取り付けられる様になって、天真折れという故障は極めて、 少なくなりました。世界の腕時計に広く採用されている、耐震装置に『インカブロック (鼓の外形に似ています)』があります。 これは、『耐震穴石』と『耐震受石』と『耐震押さえバネ』から構成されていて、 テンプに強い衝撃が加わると天真が動き、受石・穴石がそれに伴って上下左右に動き、 押さえバネが衝撃を吸収する様に、なっています。あまりにも大きな衝撃が、加わった場合、押さえバネで、吸収しきれなくて、 押さえバネがショックで外れてしまうという事があります。 お客様の修理依頼の中で、落として急に止まった場合、 昔は天真折れが多かったのですが、今では、押さえバネが外れて、 受石・穴石が飛び出してしまうという故障も起きます。 (1年間に数回はこのような故障に遭遇します。)セイコー社の耐震装置は、『ダイヤショック』が有名ですし、 シチズン社では『パラショック』がよく知られている所です。スイスのオメガ社等の高級腕時計製造会社の多くは、『インカブロック』を 採用しています。 インカブロックは効果が高く、非常に作業がし易いために今では多くのメーカーが この方式を採用しています。 ロレックス社は、1500系のムーブには、『フラワーKIF(花びらの形に似ています)』 が採用されていましたが、現在では、『ニューKIF (近鉄バッファローのエンブレム形に似ています。)』が採用されています。 以前のオリエント時計には、『ニュートロショック』が採用されていました。ETAの普及版Cal.2824-2には、『KIF.プロテショック』が採用されています。このタイプは、『ダイヤショック』に似ていて取り付けが易しそうに見えても、 意外と手こずる方式で、少し職人泣かせのタイプと言えるかもしれません。その他には、今では、ほとんど見受けられない耐震装置・バネに 『アンチショック51』、『ビドリングマイヤー』、『コントラショック』、 『デュオフィックス』、『フィックスモビル』、『ジロキャップ』、 『レソマチック』、『ルファレックス』、『シムレックス』、『トリショック』、 『ユニセーフ』、『ユニショック』、『ビブラックス160』、等々がありましたが 市場から淘汰され消えて行きました。各押さえバネは極めて薄く細く作られているために神経を集中して作業をしないと いけません。 余分な力が加わればすぐに折れてしまいますので繊細な作業と言えるかも知れません。

第254話(パーツの入手について)

先日、修理をしていてこのような事が、ありました。 K様から修理依頼を受けた、ロレックス (Ref.6426 Cal.1225 17石 手巻き)は ゼンマイが切れておりオーバーホールとゼンマイ入れ替えで、修理作業を終えました。ゼンマイ切れの故障の場合、必ず点検しなければならない事があります。 一瞬にして、爆発的な力でゼンマイが切れた場合、香箱の歯に想像を絶する力が 加わる為に、歯こぼれが起きる場合が往々にしてあるのです。その時も二重キズミで、香箱の歯を一つづつ、入念にチェックして、異常ないものと、判断して、組み立ててオーバーホールを完了しました。 一週間の携帯精度調整を無事に終了し、その後お客様にその時計をお渡ししました。 そうしました所、K様から、『10日程は、正確に動いていたのですが、今日、 急に止まった。』との連絡がありました。再度、送って頂くように、お願いし、再点検する事になりました。 ムーブメントをケースから取り出して、全てのパーツをを一個づつ取り出して 点検しました所、なんと、香箱の歯が三枚欠け落ちているではありませんか! これでは、動かないのも当然で、新品の香箱を入手する為に、 アッチコッチの取引先に手配を頼みました。(おそらく二重キズミでは、発見出来ない非常に小さな亀裂が歯の内部で 起きていた為でしょう。 2週間は何とか持ちこたえたのですが、やはり亀裂が入ったところが負荷が大きく 歯が欠けてしまったと思います。)このロレックスは、シリアルナンバー3705510から判断して、1973年製と思われ、入手が出来ない可能性もあるのではないか?と少し不安に陥りました。 弊店の取引先のスイス時計パーツ専門・輸入商社や、普段から取引をさせて いただいてる、二社の時計材料店、そして知人のCMW技師等に入手出来ないものか、と尋ねました。 ようやく、見つけられ、交換し、この修理作業は終了しました。 ロレックスの場合は、99%新品の純正パーツは入手出来るのですが、 最近では、入手出来ないパーツの時計メーカーがあり、そうゆう時計メーカーの 修理依頼が来た場合、旋盤等で、作れる場合はいいのですが、 作れないパーツ破損の場合は、修理依頼をお断りしている状況です。昔は、時計材料店に、力があったので、スイス時計メーカーのほとんどの あらゆるパーツは入手できたのですが、この頃では、ジャガールクルト等に 代表されるマニュファクチュールのパーツはもう、完全に入手出来ない状態に なっています。ここ最近、45キャリバーを搭載した、GS・KSの修理依頼がたくさん弊店に 持ち込まれますが、この時計の特徴も、一般の手巻きの時計よりも歯車数が多い為、 またハイ・ビート仕様にしている為に、ゼンマイ・トルクの大きな香箱を 使用している為に、ゼンマイが切れて香箱の歯こぼれや、 2番車のカナの摩耗・損耗が著しいものが見受けられます。また、三番車の歯もかなりへたっているものも、多く見受けられます。 これらのパーツはもはや入手不可能で、修理完了後のお客様もこのような貴重な GS・KSは大事に使って頂きたい、と思わざるを得ません。

第255話(フランクミューラーはどこへ行く?)

現代が生んだ天才時計師、フランクミューラー氏が自ら創業した、 『フランクミューラー社』を出たのは、どうやら事実の様です。 敏腕な経営手腕のあるヴァルタン・シルマケス氏と彼が手を組んで フランクミューラー社を立ち上げてから10年そこそこで世界中にファンを持つ、 一大時計メーカーになった事は、前例を見ない希有な成功事でした。フランクミューラー社は昨年度、好業績を挙げ48,000本ものフランクミューラー腕時計を売りまくり、売上高300億円という、時計メーカーとして巨大企業に のし上がったのです。 創業当初は、お互いの良いところを認めあい、 経営手腕の優れたヴァルタン・シルマケス氏をフランクミューラー氏も相棒として 認め、ヴァルタン・シルマケス氏は、フランクミューラー氏を時計技術者として 最高の賞賛を与えていたものと思います。 創業当初のお互いのひたむきな情熱と世に打って出るというがむしゃらな情熱が 巧く噛み合った時は順風満帆に事が運んでいき、上手く右肩上がりの 軌道になったのでしょう。 シルマケス氏は、会社の経営を任されていたので、会社内での自分の地位を 盤石のものとし、自分の息のかかった優れた部下達を育て上げ、 経営中枢を自分のブレーンで固めていったものと思います。一方時計技術者のフランクミューラー氏は、一、二年ごとに世界中の時計愛好家が 驚嘆する様な新機構の腕時計の開発に没頭していて、なかなか経営の体質 及び業績内容等がうまく把握出来ない為に徐々に経営陣から疎外される立場に 追い込まれていったものと推察しています。昨年から両氏がお互いに訴訟をおこし、裁判沙汰になっており、 第三者から見れば泥試合の様相を呈してきているのは残念な事です。 (組織対個人の争いになっている状況では、フランクミューラー氏の方が 一方的に不利な様な気がします。)なんといっても一番の被害者はフランクミューラー腕時計を買ったユーザーの方々で、 フランクミューラーのイメージが悪い方に大幅にダウンして、 困惑されているものと思います。 一部にETAベースのムーブメントを搭載しているフランクミューラー腕時計でも、 100万円前後という高額商品ですので、あの独創的なデザイン、 フランクミューラー氏の魂に共鳴を覚えて購入された顧客の方々は、 慚愧の念に耐えないような気持ちに陥っているのではないか、と思います。彼ら二人が、何故そこまでこじれた関係になってしまったのか?と言えば、 会社内での権力闘争及び、金にまつわる利益配分の取り分、経営の舵取りによる 意見対立等も大きな原因なのではないでしょうか? お互いに犯してはならない領域に口を挟むことによって、深い亀裂と断裂が おきたものと思います。 言い換えれば、フランクミューラー氏は経営にタッチしないで、時計開発に専念し、 ヴァルタン・シルマケス氏も腕時計開発に口を挟む事なく、 経営に専念しておれば、このような事にはならなかった気がします。(本田技研工業が、世界のホンダとして大飛躍したのも経営に優れた藤沢武夫氏が おられ、技術開発に専念できた本田宗一郎氏という優れた技術者との 二人三脚のタッグが上手くいったからなのでしょう。)この問題は、時計業界にとって大きな出来事であり、再度仲直りする事は 非常に難しい状況と思われますが、 なんとか二人が和解して円満解決の方法を見つけてくれる事を祈ってやみません。 そうでなければ一番の犠牲者はフランクミューラー氏でもなく ヴァルタン・シルマケス氏でもなくフランクミューラー腕時計を愛する お客様なのですから。


お問い合せはこちらへ
isozaki@40net.jp