■イソザキ時計宝石店■
時計の小話



第261話(アラーム機能付き腕時計)

先日、レビュートーメン・クリケット(AS ア・シールド社製 Cal.1930 17石)の修理依頼を頼まれ、オーバーホールを終了しました。『クリケット』、というアラーム機能付き手巻き腕時計を初めて開発したのは、 1858年創業のバルカン社で、1947年に市場に売り出した時計でした。 1947年と言えば、昭和22年にあたり、第二次世界大戦終了後の混乱激動期にも 関わらず、アラーム手巻き腕時計を開発したバルカン社は、 永久平和国スイスにあればこそ、出来た快挙ではないか、と思います。このバルカン・クリケットは、太平洋戦争中のアメリカ大統領トルーマンや、 戦後のアイゼンハワー、ニクソン、ケネディ、ジョンソンという歴代の アメリカ合衆国・大統領が、常時愛用した腕時計としてつとに有名です。 バルカン・クリケットのメカニズムは、勿論、駆動用とアラーム用の二個の 香箱ゼンマイを内蔵しているのですが、一個のリューズで、右回りに回せば 『アラーム用ゼンマイ』が巻き上げられ、逆回しに回せば、『時計駆動用ゼンマイ』 が巻き上げられる、という構造になっていました。バルカン社は、その後、1961年にMSRグループ組合に参入する事になり、1986年以降は、 『レビュー・トーメン・クリケット』のブランドで発売する様になり、 バルカンという老舗のブランドは残念なことに姿を消してしまったのです。 しかし、2001年に、PMH社がクリケットの商標権を取得して、 『バルカン・クリケット』が見事に復活したのです。『レビュートーメン・クリケット』をオーバーホール中、驚いた事に、 1958年国産のC社が発売した『C・アラーム 17石 当時の価格で7,200円〜』とムーブメントが寸分違わず同じである、という事がわかり、ビックリした事でした。 (99%全く同じでしたが、地板等の形がほんの少し、違うだけの代物でした。)ア・シールド社が、C・アラームを真似たのか (或いはムーブメントの供給を受けたのか)、 またはC社がア・シールド社のアラーム・ムーブメントを模倣したのか (或いはムーブメントの供給を受けたのか)、 真偽の程は今となっては、ハッキリ断定は出来ませんが、推察するに、 プライド高い、白人社会のスイス時計会社の人々が東洋のアジア・日本人が開発した 機械を真似るとは想像すら出来ない事なので、恐らく、C社が ア・シールド社のアラーム・ムーブメントを参考にしたのではないかな?と 独断的な想像をしてます。そう言えば、かつての、国産のS社もスイス・フォンテンメロン社の婦人用手巻きを 参考にして、婦人用手巻き腕時計を製作した事を思えば、 ありうるのではないか?と回想しています。

第262話(ティソ・デッド・ストック)

弊店取引先のスイス時計輸入商社の某女史から、電話が突然かかってきました。 今年のバーゼルフェアに商談しに出張した折に、スイスの地方販売代理店の経営者が おりしも亡くなられ、その社長の部屋・倉庫等を整理していましたら、 1960年代後半のティソット(現在名ティソ)のデッド・ストック婦人用手巻き腕時計 が何十本と出てきたので、まとめてお売りしたいので、買っていただけないか? との急な商談が某女史に持ち上がったそうです。その女史は、日本でのメカ式腕時計の復活・隆盛を目のあたりに見ている為に、 『これは日本の時計愛好家の方々に受け入れられるのではないか?』と判断し、 まとめて全て購入して、持ち帰って来たそうです。 インターネットで、弊店がティソを正規取り扱いしているのを知るにあたり、 弊店でこのティソット腕時計を販売して頂く訳にはいかないか?という 突然の電話があった訳です。 小生も非常な関心が起き、すぐに送って頂く様、手配をお願い致しました。受け取ってみると、デザインもシンプルな腕時計で、必ずや日本の方々に 受け入れられるのではないか?と思い各一本づつ仕入れ致しました。 機械の保存状態も良く、非常に満足が起きる出来映えの腕時計でした。 (湿度の高い日本ではこのような状態で何十年と眠っていられることは 出来なかったと思います。)ムーブメントを見てみると、キャリバーは709-2、 17石の機械でしたが、 造りはロンジンの名機、手巻き紳士用腕時計キャリバー702  17石、 ティソット紳士用手巻き腕時計キャリバー2451、 17石を小型化した様な 設計の見事なムーブメントでした。35年ほど前には、このティソット腕時計は当時の価格で、 恐らく4万円前後で販売されていた高級時計だと思います。 時計産業国として歴史のあるスイスにはこのような埋もれたデッド・ストック話は まだまだいっぱいあるような気がしてなりません。 廃屋と化した時計家内工業の建造物を家捜しすればビックリする品が 出てくるのではないでしょうか?メカ式腕時計は、紳士腕時計の分野においては、ありとあらゆる機種の腕時計が 巷に氾濫する程の活況を呈していますが、婦人用メカ式に関しましては、 まだまだ品揃えが不十分で、これから時計メーカーが研究開発して新製品を 発売してくると思いますが、まだまだ長い時間がかかるのではないか?と 思っています。

第263話(アンティーク・ロンジンの修理)

岐阜県の方から、ロンジン・薄型自動巻腕時計の修理依頼を7月末に受けました。 この時計は、I様から下記のようなメールが届きました。『昭和54年5月にチューリッヒで買い求めたものですが、3ヶ月ほどの使用で時間 不正確(日に20分程の誤差が出る)な状態になり、G市の時計店にて修理を してもらいました。修理後も同じ状態のため、その後3回にわたり調整して もらいましたが同じ状態でした。 カレンダー操作は可能です。 このためそのままあきらめ約25年間放置していたものです。 現在は時計自体も動かないようです。 購入後3ヶ月ほどしか使用しておりません。』との事でした。薄型の自動巻なので、ユニバーサルの様な、マイクロ・ローター機構を 採用しているのではないかな?と思いながら、分解に取りかかりました。裏蓋を開けて、ビックリした事には、テンプ受け側の天真ホゾ受石が、 紛失してあり、厚めの笠車の押さえ座金も、無くなっていました。 それよりも、一番驚いた事は、複雑なツイン・バレル(二個の香箱車を搭載)機構を 採用していた事でした。今日では、スイス高級時計メーカーのショパール、パティック・フィリップ等が ツイン・バレルやフォー・バレルを採用して、手巻きの長時間駆動設計の腕時計を 売り出しています。 (どちらも高額商品で100万円以上もする代物でちょっとやそっとでは 買えない時計です。) 25年前のロンジン社が、しかも自動巻で、ツイン・バレルの腕時計を 製造していた事は、画期的な事ではなかったか、と思います。Cal.L994.1 25石のムーブメントで、ムーブを薄型に仕上げている為に、 ゼンマイ自体も薄く、細い設計になっていました。 その為に駆動時間は、50時間前後しか保たないのですが、当時としては、 驚くべき事だったに違いありません。ロンジン社は、かつて、『スイスの誇りロンジン』とか、『時計工学のパイオニア』 とか呼ばれていて、世界中で有名で、国際コンクールで最高の栄誉を何度も獲得した、スイスの高級腕時計の会社であります。 また、権威のある天文台コンクールでは、41にも上る精度の記録を 樹立している程で、精度をどこまでも追求しつづけた、 超名門の時計会社でもあります。当時、日本のセイコー社とも、緊密な関係にあり、日本のロンジンの総輸入元は (株)服部時計店がしていたほどです。 セイコー社の技術陣もロンジン社から、数多くのものを学んだに違いないと思います。今月初めには、香川県のE様から『ロンジン・ウルトラクロン・クロノメーター』 の修理依頼を受けました。この時計(Ref.8353 SS側)は、1970年頃、定価\95,000で販売されたもので、 当時としては、最高級腕時計の一つでした。 (今の貨幣価値で言うと30万円はするでしょうか?)ムーブメントは、Cal.431(17石 36000振動 直径25.6mm 厚さ4.8mm  瞬間切換カレンダー機構)で、カレンダー無しのCal.430と共に、高精度が出る、 メカ式ムーブメントでした。 その当時、ウルトラクロンのオーバーホールするときは、 ガンギ車とアンクルを交換する事が義務づけられていました。 何故なら、ガンギ車とアンクルに『二硫化モリブデン』による、 乾燥潤滑仕上げがしてあり、時計店では、その加工が出来ない為に、 OH毎たびに、交換する為、修理料金が高くなる、という事で、 ユーザーの方には大変な不評を買ったものです。今では、エピラム液がスイスから入手出来る様になり、 交換しないで、済むようになった事は、幸いな事だと思います。 ロンジン社の30年前頃の時計修理を二個するにあたり、かつてのロンジン社は、 素晴らしい技術力を保有していた事に、改めて驚きを禁じざるを得ません。 オメガ、ロンジン、インターナショナルは日本人にとても愛されてきた 腕時計なのです。今日、ロンジン社は、かつてのような勢いがないスイス時計メーカーに思われますが、 今後、ロンジン社内が一丸となって昔の栄光と繁栄と名声を取り戻して欲しい、と願ってやみません。

第264話(時間との戦い)

四年に一度のスポーツの祭典、アテネオリンピックが無事終了しました。 日本代表選手の見事な大活躍により、まだ興奮醒めない時間が続いています。 読者の皆さんも開催中は、テレビにかじりついて寝不足であった事と思います。 オリンピックのオフィシャル・タイマーはオメガ社が長い間独占的な地位を 占めていました。 が、今回はスイスのスウォッチグループが担当致しました。 過去においては、ロンジン社、ティソット社、セイコー社等が オフィシャル・タイマーとして、採用される事によって、 世界的な信用を勝ち得たものです。 ロレックス社は、全英オープンに代表されるゴルフの四大メジャー大会に時折 オフィシャル・タイマーとして、登場しております。今年のアテネオリンピックでは、日本男子体操陣、競泳種目の北島康介選手、 女子マラソンの野口みずき選手、陸上投擲の室伏広治選手、 柔道の100Kg超級の鈴木桂治選手の金メダルが 小生にとっては感動的に深く脳裏に刻まれています。 (勿論、他のメダリストの皆さんの活躍も強く記憶に残っています。)オリンピックで金メダルを獲得するという大偉業をなし得るためには 彼ら選手は、人々の想像を絶する練習と研鑽を積み重ねてこられ、 強い不屈の意志を持って、試合に臨まれたからこそ映えある名誉を 獲得したものと思います。 小生も若い時、スポーツをしてきて県大会で一位になる事ですら、 大変難しい事なのが、よく解っています。オリンピックで惜しくも敗れた選手諸君は、ましてや日本の1,2位を争った トップ選手であり、 そこまで上り詰める事ですら大変な事と、言わざるを得ません。 勝負は時の運とも申しますが、オリンピックで惜しくもメダルを取り逃がした 選手の皆さんにも、目一杯の拍手喝采を差し上げたいと思います。 (マスコミもそういった選手の人達にももっと脚光を浴びせても良いのではないかと 思っています。)その中で、柔道の100Kg級の井上康生選手が準々決勝で敗れた事は、 想像だにしなかった事です。 日本選手代表としての、責任と重圧とにより相当な精神的プレッシャーが かかっていた事は容易に察しられ 敗れはしましたが、彼の善戦・敢闘に対しても、拍手をしたいと思います。 井上康生選手は、敗れた後も、アテネに残り、日本選手代表として、 他の競技の選手達を一生懸命応援されている姿を見て、安堵すると共に、 感動を致しました。オリンピック代表選手の皆さんは国の威信(ナショナリズム)を背負い、 大事な青春時代の時間をスポーツ競技に没頭して たゆまず、努力をしてこられた人達であります。 せめてメダリストには、国がスポーツ選手として現役引退後 なんらかの生活保障をするという、日本独自のスポーツ憲章を早急に 作って頂きたいと願望します。今年の陸上100Mの優勝記録は、アメリカのジャスティン・ガトリン選手の 9.85秒でしたが、東京オリンピックでは手動のアナログ・ストップウォッチで あった為に、正確な計測が出来なかった事は致し方なかった事でした。 実際の優勝したボブ・ヘイズ選手の記録10秒フラットは、若干それよりも 遅かったものと思われます。 オリンピックを毎回見るたびに、思うことは、人間にとって『時間』という『時』は、 二度と取り返す事の出来ない貴重な瞬間の蓄積の連続だと思います。 人間は時と戦いながら絶えず生きていなければならない生物のような気がします。

第265話(ハミルトン カーキ・ネイビーGMTについて)

今年の夏、(株)スウォッチ・グループジャパン・ハミルトン事業部から、 ビジネスマンに非常に役に立つ腕時計が発売されました。 『ハミルトン カーキ・ネイビーGMT』腕時計がそれで、 定価も革バンドタイプ(文字板ブラック)が税込99,750円で
メタルバンド文字板(ブルータイプ)が税込92,400円という、 信じられない低価格に抑えて発売している事に、 スウォッチ・グループジャパンの会社の良心的な企業姿勢を、感じざるを得ません。造りも非常に完璧な仕上げをしてあり、デザインの視認性も高く、 使えば使うほどビジネスマンにとってはとても重宝な時計になりうる腕時計です。 内蔵されているムーブメントは(ETA2893-1 21石)で、 ETAの代表的メカ式ムーブメントの2892-A2の姉妹ムーブメントと言える代物です。3個のリューズは全て、ネジ込み式リューズを装備している為に20気圧防水という、 高い防水性能を備えています。 2時位置のリューズは、一段目は『ゼンマイ手巻き機能』で、 二段目を右回りに回せば『第二時間帯表示小窓(T2セカンドタイム)』を表示します。 左回りに回せば、『カレンダー早送り』が出来ます。 (カレンダー早送り操作は午後8時〜午前2時の時間においては操作しない事が 原則です。) 三段目にリューズを引きますと、メインの時刻時間合わせが出来る仕組みに なっています。 (こういうタイプの腕時計は、メイン時刻の『針』の逆回しは出来るだけ 避けていただきたいものです。)4時位置のリューズは、『インナーベゼル操作用』リューズで、 △マークを長針に合わせますと、経過時間が、一目瞭然に解る便利な、機能です。9時位置のリューズを回せば、世界主要24都市名が書かれている回転ディスクが、 回り主要都市の時刻がすぐ表示する、という便利な機能です。ロレックスGMT、ロレックスエクスプローラー2、グランドセイコーGMT等は、 どれも30万円以上する、高価な時計ですが、10万円を切る価格で、 この優れたGMT装備を持ったハミルトン カーキ・ネイビーGMTは、 きっと時計ファンの人気を博すものと思います。 実際弊店でも、問い合わせが多く、いつも入荷次第直ぐに売れて行くほどです。


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