■イソザキ時計宝石店■
時計の小話



第291話(ロンジン社について)

茨城県S様からご依頼のアンティーク・ロンジン・コンクエスト手巻き腕時計 (28,800振動・Cal.6942 17石)は、4番車(1分間に1回転)に特殊な形状のカムが取り付けられており、楔(くさび)型のレバーと連動して、正時に秒針をセット出来るようになっていました。今まで何十年と修理をしてきましたが、非常に面白い工夫した時計だと思いました。この手巻き腕時計にはジュガールクルト等の高級腕時計に採用されている精密精度調整スクリューが取り付けられていて、 ヒゲゼンマイ外端曲線修正後、ほぼクロノメーター級の精度が出ました。以前からロンジン社の事は幾度となく書き込んできましたが、過去に於いて日本人とアメリカ人に多大な支持を得てきたスイス時計メーカーでした。35年ほど前、日本においてはロンジン社の腕時計は、オメガとインターナショナルと人気を分けるほどのものでした。現在のロンジン社はスウォッチグループの一員になっていますが、35年前は完全な独立系の時計企業で、サンティミエにあるロンジン本社には600名の社員(職人)がおり、トラメラムの工場には約100名の社員、ジュネーブの工場には30名の時計職人が働いていました。しかし、約700名の社員の中で時計を始めから終わりまで一人で仕上げることの出来る完璧な技術を持った時計職人は僅か6名しかいなかったという事でした。その予備軍として、スイス時計学校卒業の徒弟修業中の弟子が約30名いたとの事でした。ロンジン社はエルネスト・フランシオンが、1867年サンティミエにあるスューズ河畔のロンジンという地名で会社を興しました。一度も訪問したことは無いのですが、写真から見ると素晴らしい自然環境の中に工場が立地していた事が伺いしれます。神経が疲れる時計職人の心をこの美しい環境が癒しの効果があったものと推察しています (このロンジンという地名はフランスの古い言葉の「牧場」という意味を 持っていたそうです)。ロンジンファンの方なら誰もがご存じだと思いますが、あのシンボルマークは翼(未来の時間)と砂時計(過ぎ去っていく時間)を組み合わせた独特の マークでした。このマークに惚れ込んで、ロンジン腕時計を所有したいと思われた方は過去に沢山おられたものと思います。当時、ロンジン社はオメガ社と肩を並べるほどの高級機械式腕時計を、年間およそ50万個生産していました。 (精工舎は当時、メカ式2,800万個生産していましたので大変な数と言えるでしょうか?)特筆すべき点は、他社に先駆けて1879年に秒針付き手巻きクロノグラフを 生産したことです。オメガ社やインターナショナルと並び賞された高度時計生産技術を持ったロンジン社が過去の栄光を取り戻すべく、勇躍努力して欲しいと願ってやみません。

第292話(ア・シールド社のアラーム・ムーブメント)

東京都のI様から修理依頼を受けた、 オーガスト・レイモンド・ルンバのアラーム機能付き腕時計は、 アラーム腕時計の中では最も複雑な多機能キャリバーでした。このオーガスト・レイモンドの腕時計は、オールド・ムーブメントを搭載した腕時計で、I様が1年半程前に購入されたものです。調子が芳しくなく送られてきました。
このムーブメントは30年前にア・シールド社が製作した機械で、このムーブメントの詳細は下記の通りです。Cal.5008、17石、外径30.00mm、厚み7.60mm、28,800振動、ガンギ車歯数20で、アラームのベル持続時間は全巻き状態でおおよそ8秒前後、音量は68フォンでした。今までいろんなアラーム機能付きの腕時計の修理調整をしてきましたが、このAS5008が一番難度の高い修理調整でした。何故なら、このムーブメントはデイデイトが瞬間早送り装置付きで秒針停止装置もついており、一つの自動巻ローターで右周りで輪列駆動ゼンマイを巻き上げ、左周りでアラームゼンマイを巻き上げる事が出来る最高のアラーム・ムーブメント(手巻きも可能)だからでした(当時はリーズナブルな価格で発売されていたと思われ、ネジ頭の研磨、地板等にコート・ド・ジュネーブ、ベルラージュ仕上げ加工がしていないのが残念な所でした)。セイコーにもかつて、ビジネス・ベルマチックというアラーム自動巻腕時計が ありましたが、この時計はアラームは手巻き式で秒針停止装置も無く、デイデイトの瞬間早送り装置もありませんでした。シチズンアラーム腕時計やバルカン・クリケットは手巻き式アラームの為、修理作業もそんなに神経を使わずに済みますが、AS5008は部品数も半端な数では無い為に、分解しながら図面を書いて作業をしました。30年前のオールドムーブメントをオーガスト・レイモンドが採用している為に、発売するまでに自社で修理調整をしていた形跡が所々ありました。ア・シールド社は現在ではETA社に吸収されて、今では存在しないムーブメントメーカーですが、もしこのAS5008の設計図面・工作機械等が残存していたら、ゼニスエルプリメロのように見事に復活して、 時計愛好家にもの凄い人気が起きたムーブメントで あったものと思われ、その点残念に思います。 AS5008にはいろんな派生キャリバーが誕生しています。AS5001は手巻き式アラームムーブメントでした。AS5004とAS5005はアラームが手巻き式で、自動巻腕時計です。AS5007はアラーム・駆動両方を自動巻タイプでしたが、 曜日はついていませんでした。このAS5008に採用されている緩急針装置はAS社がかって特許を得ており、この装置は現在のETA社7750クロノ・ムーブメント等に採用されています。この緩急針装置は、容易に微細精度調整出来る優れものです。

第293話(アンティーク・オメガのムーブメント)

アンティーク・オメガの程度の良いコンステレーションとシーマスターが、運良く入手出来ましたので、昨日と今日と2日間、この時計のオーバーホール・調整を致しました。コンステレーションの方はCal.564 24石(33053626) 19800振動 直系27.9mm 1966年〜1973年にかけて製造されたムーブメントです。
このコンステレーションの機械はローズ・ギルド仕上げで美しい金色の光芒を放っています。Cal.564はオメガ社の機械式自動巻ムーブメントの頂点に位置する、一点の曇りもない素晴らしい造り映えの時計です。緩急針もスワンネック型と採用しており、可動ヒゲ持ちとヒゲ受け・ヒゲ棒2本式の極めて優れた緩急針機能を持ち合わせています。私見ではありますがこのCal.564 はオメガ社の最高峰に位置する自動巻ムーブメントと思っております。1970年前後は、どの時計メーカーに於いても機械式腕時計のムーブメントは、最高度の物が作られていた時代です。
当時の優れた時計メーカーは天文台精度コンク−ルに参加したり、スイスクロノメーター歩度公認検定局(略称B.O.)に生産した時計を持ち込んで、クロノメーター合格品を市場に出していました。その中で、オメガ社はB.O.検定に於いていつも1位の地位を独占しておりました。クロノメター生産個数も毎年17〜18万個に達する多くの数の高精度機械式腕時計を生産していました。2位の常連はロレックス社で、おおよそ10万個前後のクロノメーター合格品を誕生させていました。当時の他の有名な時計メーカー、ベンラス社(米国)、ジラールペルゴー社、ロンジン社、ゼニス社等は3千〜5千個前後であることを思えば、オメガ社とロレックス社、2社がいかに突出していたか、解っていただけるのではないでしょうか。それ程までに高級機械式と言えばオメガ社とロレックス社が名実共に寡占状態でした。シーマスター Cal.503 20石(17090778) 19800振動 直系28mm 1956年〜1960年に製造このムーブメントも、ほとんどのパーツを金色メッキ仕上げをした綺麗なムーブメントです。Cal.564と同じく、スワンネック型緩急針を持っており、アンティークに相応しいチラネジテンプを採用しており、ヒゲ持ちは三角柱固定式を採用しています。Cal.564もCal.503も、全回転の両方向巻き上げ式を採用している為に、自動巻の巻き上げ効率が極めて良く、運動量の少ない方にも良い定評がありました。両キャリバー共にヒゲ玉は従来のランドルト環形状のもので、現行のロレックスCal.3135の様に重力誤差を受けにくい形ではありませんが、ピンニングポイントの取り付ける位置を考慮している為に、立て姿勢の状態で、少し+(進む)方向に設計されていました。この頃のオメガ社のムーブメントは本当に惚れ惚れする機械です。

第295話(ア・シールド社Cal.1977)

大阪府O市T様から修理依頼を受けた、 RADO婦人用手巻き腕時計は、Cal.AS(ア・シールド)1977 21石のムーブメントが入っていました。 オシドリ、カンヌキ、日の裏機構が錆びていましたので修理完了するまでには 大変な目に会いましたが幸いにも再び動くようになってくれて一安心しました。この機械は、35年ほど前後に総計で3000万個も生産された、有名なキャリバーで スイスの多くの有名時計メーカーが採用していた優秀な手巻き 婦人用ムーブメントです。 機械、落径13.00×15.15mm 厚さ3.60mmの薄型小型ムーブメントの為に、 おしゃれな女性用ドレスウォッチのムーブメントととして採用されました。この機械が開発される事によりいろんなデザインが可能になったのです。 ア・シールド社は、当時スイス最大のエボーシュ会社であったので、 多種多様なムーブメントを生産し、有名時計メーカーに納品していました。 多くのスイス時計メーカーがア・シールド社の恩恵を受けていたと思われます。 (現在のETA社に匹敵するような規模の会社であったと思います。)1977が生産される以前には、婦人用手巻きムーブメントとして、 Cal.1012  5振動、Cal.1677  6振動が存在しました。 1977は、19800振動で、テンプの直径が6.70mmという、超小型にも関わらず、 ある程度の精度を出す事に成功していた機械です。 1977を改良して、Cal.1977-2が、世に出ましたが、特に改良された点は、 持続時間が、長くなった事で人気を博しました。 また、テンプを大きくすることにより慣性モーメントの効果をだし、 歩度の安定を図りました。当時の国産のS社、C社にも、このCal.AS(ア・シールド)1977に非常に良く似た 機械がありました。 当時のご婦人の方は、こういう小型メカ式手巻きムーブメントを 内蔵したおしゃれな腕時計を身につけて、颯爽とお出かけになられたに 違い無いと思います。  読者の方のお母様にも、きっと一個か二個、 このような小型手巻き婦人用腕時計を持っておられるのではないか?と思います。

第295話(エベルの修理)

和歌山県のM様から修理依頼を受けた、 EBEL ディスカバリープロダイバー(ref90939 13 6061) Cal.93 19石、 定価税別\385,000は 時計のデザインも優れていましたが、搭載されている機械は非常に繊細なムーブメントでオーバーホール完了まで、時間がかかりました。 (1年程前に他店にて修理されたそうですが調子・具合が悪く弊店に依頼が来ました)搭載されていた、機械は、フレデリック・ピゲ社Cal.951 (スモールサイズの自動巻ムーブメント、直径24.4mm 厚さ3.25mm 28,800振動) が採用されていました。 フレデリック・ピゲ社と言えば、ブランパンの復興に多大な貢献を及ぼした 欠かせる事の出来ない有名ムーブメント製造メーカーです。フレデリック・ピゲ社はスイス高級腕時計ブランパン社以外にも、 ユリス・ナルダン社、エベル社等にもムーブメントを供給しています。 エベル社の基本はクオリティに最重点を置いており、その結果として五年間という、 長期国際保証をしている事です。 (この他社の追随を許さない長期保証制度は自社の製品に絶対的な 自信を持っていることの裏返せば証明でもあります。)ムーブメントのみならず時計ケース、バンド、文字板、針等にも厳しい品質検査を 課しておりあらゆる厳しい検査を通った合格規格品パーツのみを使用して 『EBEL』という完成度の高い腕時計を市場に送りだしています。 生産個数はそう多くないのですが、クォリティに、とことんこだわりを 強く持っている為に、世界中に多くの根強いエベル・ファンを勝ち得ています。エベル社は、1911年創業以来、クロノグラフ生産にも力を入れており、 その技術力は高い評価を受けていました。 最近ではCal.137を搭載した、『EBEL 1911クロノグラフ・オーバルカウンター』が つとに有名です。 どこかのゴテゴテした煌びやかなデザインではなくシンプルで清楚な美しい クロノグラフ腕時計です。 このようなシンプルで上品なデザインのクロノグラフ腕時計はきっと何時までも あきることなく使用者に愛され続けられていくでしょう。それにしても、フレデリック・ピゲ社の、ムーブメントは、薄型・小型化・ 個性化しており、分解・刷毛手洗い洗浄・組立・注油・ヒゲ調整に神経を集中して 作業をする為に、作業終了時点で、本当に疲労困憊致します。 ムーブメントの体積比率でならロレックスCal.3135のおそらく五分の一以下だと おもわれます。こういう、密度の高い修理作業をしてきますと、 ETA社のムーブメントがどんなにか、たやすく修理が出来、 時計職人をほっとさせる機械であるか、つくづく思いしらされます。 そのアフターサービスが容易な為に、ETA社採用のスイス時計メーカーが、 多くなってしまった原因だとつくづく思います。 フレデリック・ピゲ社のムーブメントはとても緻密で繊細でパーツ数が多くとても 大量生産に適合しない高級時計メーカー向けの超精密機械であると思います。


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