| ■イソザキ時計宝石店■ |
| 時計の小話 |
第296話(OMEGA シーマスター・カレンダーの修理) 群馬県T様から、修理依頼を受けたOMEGA シーマスター・カレンダーCal.355 17石(13550626)は、 お父様の形見の大切な時計で長い間引き出しの中に眠っていたそうです。 いまでは非常に希少価値があるシーマスター・カレンダーのファーストモデルです。文字板にシーマスター・カレンダーと明記してあり、6時位置にある小窓に、 カレンダーを表示するという当時としては新鮮なデザインであります。 1952年に、Cal.351にカレンダー機構を取り付けたCal.353が開発され発売されました。 Cal.355は、スワンネックのスクリュー式微細精度調整が出来る高級グレードの ムーブメントで1952年〜1955年の間に、生産されました。この自動巻きは、ハーフローター方式(自動巻半回転方式)で、 当時のジャガールクルト社も採用していた方式です。 ムーブメント外周部にバネが2ヶ所に取り付けてあり、ローターがそれに当たって 強く反発して回転するような仕掛けになっています。 (巻き上げ効率は現行の物より若干劣るのはやむえないと思います。) 振動数は、19800振動、直径28.10mmで、その頃のロレックス社のムーブメントと 比較して優るとも劣らない、高精度の出る美しいムーブメントであった事は、 弊店の修理履歴の写真を見ていただければ、 読者の方も納得されるのでは?と思います。自動巻機構を取り外した手巻き駆動部分も、写真を見ていただければ解ると思います が、インターナショナルが採用していた、ベラトン方式に似た蟷螂の2本の腕のような巻き上げ方法で、秒カナ車を、3番車の出車で回すという方式でした。 日ノ裏機構も、50年前のものとは思えない程、完璧な美しい造りで、 その当時のオメガ社の技術力の高さが彷彿されます。 当時のオメガ社の欠陥?と言えばただ一つ、パッキングを4〜5年おきに 交換しないで長年放置しておきますとパッキングが液状化して溶けだし ムーブメントにはみ出して流れ込むという厄介な欠点がありました。 ベンジンで洗浄してもとても取れなくてシンナーでしか洗浄しないと 取れないと言うもので、この時計も案の定パッキングが溶けて ムーブメントにべっとり付着していました。 溶解したパッキングはなかなか取れないもので手間のかかる作業になります。インターネットの時代になって、地方の弊店にもこの様な、 珍しくて希少価値のある時計産業の歴史に残る名機の修理依頼が来る様になったのは、 非常に喜ばしい限りで、時計職人として、ありがたく思っている 今日この頃であります。 いつまで出来るか解りませんが健康でいる限りはこの仕事を続けて行きたいと 思っております。 第297話(ティソについて) 読者の方から、コストパフォーマンスに優れた時計でデザイン・仕上げ・ 品質の良いのはどのメーカーですか?とメールでよく質問を受けます。 スイス機械式腕時計と言えば、数十万〜ウン百万円という高価格のイメージが とても強いのですが、中には非常にお買い得な機械式腕時計メーカーも沢山あります。 エポス、オリス、ハミルトン、フォルティス、フレデリックコンスタント等は、 品質も優秀であるにも関わらず、コストパフォーマンスにとても優れた腕時計で、 機械式腕時計のファンの方々に熱い支持を得ている時計です。その中でも小生が常日頃思っている事に、ティソが日本でもっと人気が出て、 売れていけば良いと思っています。 40年ほど前は、オメガの第二ブランド(デフュージョン)として、 日本シーベル時計(株)が輸入代理店となり、 当時日本中で沢山売れた事は以前の時計の小話でお書きしました。ティソは過去においてオメガ社と共にSSIHグループを構成して、 とても親密な関係ではありましたが、現在に至る今日までスウオッチ・グループの 一員として、オメガ社が高級腕時計を指向する一方、 ティソ社は、大衆時計(中級品)に力を入れてきました。ティソ社はスイス・ル・ロックル地方に生産現場を置き、150年という、 ロレックス社よりも長い歴史を積み重ねてきた、スイス老舗の名門時計会社です。 スイス国旗の+をロゴマークに使用する事を許されている時計メーカーでもあります。 ティソは、いろんなユーザーのニーズに対応して(T−TOUCH、バナナウォッチ、 クロノダイバー、T−LOADバルジュー)等の人気の商品構成を持っています。 ヨーロッパ人の厳しい品質選択基準を十分満足させている為、 欧州では圧倒的な人気を博しており、年間生産本数は、200万個を超え 世界第一位のブランド生産量を誇っています。 (第二位の時計メーカーが100万個を切っている事を思えばティソの人気の程が 窺いしれます)このコストパフォーマンスに非常に優れているティソ社が今年4月より、 人気シリーズの ダイバーシースター1000 、 ル・ロックル・クロノ を10%〜25%強の大幅な値下げを断行したことは、快挙と言わざるをえません。 このような大胆な値下げが出来る要因の一つにメカ式に3種類のETAムーブメント としか搭載しないという効率を優先的に考えているからでしょう。 ・・・・グループが、大幅な値上げを過去にしてきた事を思えば、 いかにティソ社(スウォッチ・グループ)が超良心的な会社であるか わかると言うものです。 もっともっと日本でティソ社のファンが増えて欲しいと、願ってやみません。 第298話(オメガ・レイルマスター) オメガ社の紳士用腕時計シリーズの中で、長男の位置にあるのは シーマスターでしょうし、ヤンチャな次男坊はスピードマスターでしょうか。 三男、四男と続くシリーズに、コンステレーション、デビル、ジュネーブが 挙げられると思います。 末っ子には、レイルマスターでしょう。約40年ぶりにオメガ社が、レイルマスターを復活させた事は、 レイルマスターに並々ならぬ意気込みが感じられます。 復活第一段のレイルマスターはセンターセコンドのコーアクシャル脱進機を搭載した、 ムーブメントでしたが、第二段のレイルマスターは、 懐中時計用ムーブCal.2201を搭載した、インダイヤルにセコンドを配置した、 ビッグサイズの手巻き腕時計です。 文字板も精悍な黒色で、黒豹をイメージするような、造りになっていて、 文字板のアラビア数字がハッキリ目に飛び込んでくる鮮烈さを持った時計です。この新作レイルマスターは必ず人気が出てくるだろうと予感しています。 以前に石川県のK様から、アンティークのレイルマスターの修理依頼を 受けた事があります。 その時のレイルマスターは、オメガの手巻きムーブメントとしては、最高を誇る、 30mmキャリバーCal.286(17石 18000振動)が搭載されていました。 おそらく、このレイルマスターは1961〜1963年の間に生産されたものと 推察しています。K様は、この貴重なレイルマスターを海外オークション(e−bay)から 数万円で買われたと、聞き及んでいます。アンティーク・レイルマスターには、30mmキャリバーCal.284(1955〜1959年生産)と、 同じく30mmキャリバーCal.285(1958〜1961年生産)の手巻き腕時計があります。 レイルマスターの大きな特徴は、シーマスター、スピードマスターと比較して、 耐磁性能を強くする為に、ケース等に色んな対策を練っていたことです。 レイルマスターが、僅かの販売期間で生産中止されたのは、 ロレックス・ミルガウスが生産中止になったとの兼ね合いを見ても、 不思議な現象と言えます。 今後のオメガ社のレイルマスターの人気の沸騰、販売数量如何によっては、 ロレックス・ミルガウスが復活する刺激になるやかもしれません。 それにしても、オメガ社が、鉄道時計として、名を馳せたレイルマスターを 今まで長期間何故眠らせていたのか、また如何なる理由によって最近復活させたのか、復活プロジェクトチームリーダーに聞いてみたい気がします。日本のアンティーク・ショップではレイルマスターは異常とも言える 高騰価格になっていますがe−bayを上手く利用すれば 安く入手出来るかも知れません。 (同様にロレックス・ミルガウスも異常な価格になっているのには 驚かざるをえません。) 第299話(竜頭・巻真入れ) ムーブメントをオーバーホール後、歩度検定器で精度調整し、文字板・針を取り付け後、 ケースに機械を入れ込む時に注意しなければならない時があります。 オシドリをピンで押して巻真・リューズを取り出し、ケージングする時、 時折,ツツミ車がカンヌキから外れてしまう時が往々にあります。 そうなればリューズを押しても引いても全く動かない状態になり、 いつも針合わせの状態になってしまい、手巻きが出来ないようになってしまいます。 そうなってしまうと、面倒でもオシドリを押してリューズ・巻真を分離し、 ケースからムーブメントを取り出し、文字板・針を再度外して日の裏押さえバネを外し、 ツツミ車の段差の中にカンヌキを埋め込んで、再度組立しなければならないという 二重手間が生まれます。カレンダー機構やパワーリザーブ、クロノグラフ機能が付いていない手巻きの場合は、 一番車・二番車受けを外してツツミ車とカンヌキの組み合わせを修正出来るのですが、 そうでない場合は、文字板から外していかなければならない為、 大変な面倒な作業に成らざるを得ません。 それを防ぐ方法として、小鉄車をツツミ車が噛み合う針合わせ状態にし、 オシドリを押してリューズを抜く方法があります。これとて最善の方法ではなく、時折、キチ車がムーブメントから外れてしまい、 大変な目に遭う時もあります。 (最低限、巻真にグリース油を満遍なく塗布してスムーズに入れられるようにしていれば 避けられる場合もあります。 ついうっかりオシドリを強く押してしまうと外れやすいのでオシドリを滑りやすくするために 小物油を少々塗る時もあります。) 分解する時に、各々ムーブメントがどのような癖を持っているか あらかじめ知っておいたら作業は段取り良く進むと思います。分解するまでに、巻き真を何回と無く抜いたり入れたりして、 ツツミ車とカンヌキの組み合わせはどのような方法が一番安全であるか 知っておくべきだと思います。 セイコー社は一般的に、ゼンマイが巻ける状態(キチ車とツツミ車が噛み合った時)で リューズ・巻真を抜いた方がツツミ車とカンヌキが外れにくいですし 一方、シチズン社は針合わせの状態にしてリューズを抜いた方が良い場合が多いです。最近ノモスの修理依頼が時折来るようになりました。 ノモスが採用しているキャリバーETA7001は、 針合わせの状態にして巻真を抜いた方がトラブルを避けられると思います。 第300話(最終回)(メカ式腕時計の今後) それまでの腕時計の概念を大きくうち破るセイコー・クォーツアストロンが、 1969年に登場して以来、機械腕時計は、斜陽の一途を辿ってきました。 1980年後半までには、数多くのスイス時計メーカーは、 クォーツクラッシュにより、市場から淘汰され、消え去って逝く運命になりました。 機械式腕時計の運命は、クォーツの出現により、風前の灯火まで追い込まれていったのです。1990年前後になると、機械式腕時計の良さや、温かみが、一部の時計愛好家に再評価され、 時計店の店頭にも、少しづつ飾られる様になってきました。 今日では、弊店の販売シェアは、全体の80%近くにまで伸び、 逆にクォーツが売れなくなってきています。 このような状況を10数年前には、誰が想像出来たでしょう。高級時計、中級時計は、メカ式腕時計が大多数を占め、 クォーツと言えば低価格品のみが売れていくという、現状です。 高価格クォーツ(例えば、グランドセイコー・クォーツ等)は、これからますます苦戦していき、 クォーツと言えば近い将来、低価格のソーラ電波腕時計に占められてしまうのではないか? と予感しています。 メカ式腕時計が現在、ユーザーの方の圧倒的な支持を受けているのは、事実でしょうが、 これとていつまでも続く人気だと錯覚して、安穏としていれば、 大きな落とし穴にはまると思います。クォーツは、故障しにくく、オーバーホールの期間も7年〜10年近く持つのですが、 メカ式はそういう訳にもいかず、必ず3、4年後にオーバーホールの時期が到来します。 OH後のその時に、新品時と同等の機能と精度が回復していればいいのですが、 もし、アフターケアがうまくいっておらず、ユーザーの方に 『日本の時計修理技術は、こんなものか』と失望させてしまったら、 折角メカ式腕時計へ、回帰してくれたお客様が、再度離れていってしまい、 クォーツを再評価して、メカ式がまたもや、市場から淘汰されてしまう、 という懸念が多分にあります。ユーザーの方のメカ式腕時計への熱い支持を今後もとり続けていく為には、 完璧な修理技術を習得した、時計職人の養成が急務の必須の条件だと思います。 現在、販売したメカ式腕時計を自店で修理する店は、ほとんど無い状態なので、 時計店経営者が、輸入元サービスセンターのみに頼らず、自店で修理技術者を育てていく 心構えが、必要だと思います。 全ての時計店が、自店で時計修理をするには限界があると、思われますので 輸入元サービスセンターも、ロレックス社の様に日本全国に、 くまなくサービスセンターを設置して、迅速で完璧な修理体制網を構築しないといけないと 思います。メカ式腕時計が今後もユーザーの方に支持され、普及してゆく大きな要素の一つに、 時計店、輸入元の経営者が時計修理体制をいかにするか?にかかっていると言っても 過言では無いでしょう。<執筆後記> 平成12年6月中旬に『時計の小話』第一話を書いて以来、丸五年で丁度300話で 完結致しました。 この5年間に多くの方々の温かい励ましのメールのお陰で、やっとゴールに到着しました。 ここに謹んで、読者の方々の皆様に御礼の言葉を申し上げたいと思います。 『本当に、五年間、ご愛読ありがとうございました。』 時計の小話を書く事により、日本各地から、多くの方々から、修理依頼を受け、 いろんな時計メーカーの腕時計のムーブメントを触れる事が出来ました。 この事も、大きな時計職人の喜びでもありました。 このメールマガジンを読んで下さった多くの方々の中に、かつてセイコーにこの人あり、 と言われてこられました、東谷宗郎先生、小牧昭二郎先生、依田和博先生からも、 応援のメールを頂戴し、光栄に思っております。 また、CMW試験の同期の遠藤勉氏からはアメリカから電話を頂いた事も、嬉しい出来事でした。この時計の小話を読んで下さった読者の皆様に、時計を購入する時のアドバイスの 一端になったとしたら、これほど、嬉しい事はありません。 これからも『時計の小話』を続けて欲しいというメールを沢山頂いています。 身に余る光栄と思っております。 嬉しい反面、また大変なプレッシャーがかかるのも事実ではございます。 想を新たにして、しばらく休憩後『続・時計の小話』を不定期に発行する予定でおります。 また引き続き読んでいただきましたら有り難く思っております。 |
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