■イソザキ時計宝石店■
続・時計の小話



第16話(セイコーCal.8346A)

埼玉県のS市H様の修理ご依頼の セイコーマチック-R 、Cal.8346A、 27石 、5振動 新品時メーカー精度等級C (日差-15〜+25秒)1967年諏訪セイコー製は、
薄型の自動巻でロー・ビートですが、なかなかの良いムーブメントでこの度、よく見ることにより改めて感動いたしました。(5振動はゆったりテンプ振動しますので懐古調で温かい雰囲気を持った機械と言えます)1965年製セイコー・マチック・ウィークデイター(Cal.8306)から派生的に誕生したのが Cal.8346A でした。このムーブメントは、小生は今まで何十回と数え切れない程、オーバーホール・修理調整してきた記憶があります。セイコー社が作ったムーブメントなら、この位の仕上がりの時計は当然であるといつも考えていましたので、このキャリバーの時計を修理するにあたっては、極端な言い方かもしれませんが、なんらビックリする様な事は無かったのです。しかし最近、オリエントが自信を持って世に送り出した、フラグシップ腕時計『ロイヤル・オリエント』に搭載されている、Cal.88700(静的精 度-4〜+6秒、28800振動)を良く観察してみると、どこかしら、Cal.8346Aと似ている雰囲気を持った機械であることがわかりました。(当 然、8振動ですからテンプはせっかちな動きをしますが)オリエント時計は、今ではセイコー・エプソングループに所属しているとも言える会社なので、オリエント時計の時計設計技術者が、かつての諏訪セイコーのムーブメントを参考にしたのではないか?と思われても仕方がないかも知れません。ロイヤルオリエントが35万円前後する事を思えば、40年前のセイコーCal.8346A も再評価され、機械時計愛好家に近い将来人気が出てくるのではないのか?と伺いしれます。同時期に第二精工舎が製造した手巻Cal.45系が、既にアン ティークの手巻き名機として位置づけられている事を思えば、ロー・ビートの代表的な名機として諏訪セイコー社製Cal.83系が、必ずや評価が高まってい くものと推察しております。スイスの各時計メーカーは、ここ数年マニュファクチュール化する事にどこも目の色を変えて一生懸命なのですが、国産のセイコーや、オリエントは言わ ずと知れた完全マニュファクチュールの時計会社なので、今後、どしどし新しいムーブメントを開発してくるのではないかと思われます。
第17話(時計技術試験)

2003年度、弊店の時計技術通信講座卒業生、K君が、長野県の『信州・匠の2級時計修理士』の資格を取得した事は、快挙と言わざるをえません。試験課題の要求精度は、日差+-10秒以内で、最大姿勢差が20秒というものでした。信州・匠の2級時計修理士試験を統括するT氏に今春お会いした 時に聞いた事ですが、日差の精度を実測して判定するのではなく、歩度検定器でゼンマイ全巻きから、コハゼの爪を4〜5個戻したほぼ全巻きの状態で精度を測 定するとの事で、その点に関しては疑問に思われ今後、精度は実測にて判定して頂けたら、と思っております。昭和45年に、小生は国家検定2級時計修理技能士試験を、近江時計学校で受験致しました。その時、滋賀県の時計店の息子達と一緒に、近江時計学校に 在学していた、2年生終了間際の三十数名の生徒たちも一緒に受験しました。総数で50人ほどの人数が受験したのですが、合格したのは、10数名のみでし た。生野工業高校時計計器科の入学生は延べ1920名にものぼり、3年間著名な時計師の教えと薫陶を受け、多くの卒業生が、CMW試験に挑戦しましたが、 合格者は、29年間でわずか22名のみでした。現在、日本に存在する時計学校は、『近江時計学校』、『ヒコみずの』、『東京ウオッチテクニカム』の3校がありますが、その学校の卒業生の方も修了 証に留まるだけではなく、技術試験資格取得に向かってさらに時計技術の腕前を上げて頂きたいと願っています。技術資格試験に合格して、初めて社会的に技量 が一人前と認められ、将棋の世界で言うと4段になったものと思います。昭和41年度に我が国で初めて一級時計修理工競技試験が行われた時、この試験が将来に渡って継続する事を念頭において、試験内容を誰もが受験しやす くする為に、若干易しくしてありました。当時の日差の要求精度は-10〜+20秒で、最大姿勢差も20秒以内でした。日差の測定は実測にて写真判定されて いた、と聞き及んでおります。信州・匠の2級時計修理士試験が、40年前の一級時計修理工とほぼ同等の内容であったのではないかと思われます。(天真入れ替え作業、ヒゲ合わせ作 業、ヤスリ作業があったので若干、一級時計修理工競技試験の方が難しかったかもしれませんが)その事を思うとK君の努力は大変なものであったと思わざるを 得ません。

第18話(中国製腕時計)

日本ブランドのケンテックス社が、手巻きのトゥールビヨン腕時計を怒濤の価格、650,000円(10本)と、パワーリザーブ・カレンダー付きのタイプ、750,000円(25本)の2機種を発売しました。このムーブメントは、中国製シーガル社Cal.TY801を搭載しています。ケースのサイドには、スイス高級腕時計ブレゲでおなじみのコインエッジが精密に施され、文字板には、ギョッシュ彫りが綺麗に施されていて、低価格にも関わらず、高級感漂う顔になっています。スイス時計メーカーで良心的な価格で有名なエポス社のトゥールビヨンでさえも399万円もしますので、このケンテックス・トゥールビヨンが直ぐに完売したのも頷けます。トゥールビヨンと言えば、超高額コンプリケーションの一つで、スイスの代表的な高級腕時計メーカーが、1000万円を超える価格で発売しています。 日本でも東京を中心として高額所得者の方に、各ブランドのトゥールビヨンが年間数本づつ売れている、という事を弊店取引先の輸入業者から聞いた事がありま す。小生も大阪の取引先で、F社のトゥールビヨンを拝見させてもらいましたが、この時計が何故1000万円もするのか?不思議でたまりませんでした。弊店でも、輸入商社(株)セベと取引をして、特価品として、中国製ムーブメントを搭載した、テクノス腕時計を販売しております。ビッグデイト、パ ワーリザーブ、ムーンフェイズ機能が付いた自動巻で19,000円、レギュレーター、24時針機能が付いた自動巻で19,000円という考えられない低価 格です。当然この低価格ですから、精度の面、地板の仕上げ、ガンギ車の表面研磨、各ネジの仕上げ、ヒゲの外端曲線、ヒゲ棒アガキ調整等はまだまだ十分とは言 い難いのですが、今後5年10年と、中国の時計会社が技術力に磨きをかけて力をつければ、侮りがたい時計勢力になるのではないか?と危惧しております。スイス各時計メーカーや、日本の時計メーカーは中国産時計はおそらく眼中に無く、全く敵愾心を持っているとは、思われませんが、エレクトロニクス産 業や金床産業が、日本の技術に追いつき、追い越せるほどの力を付けてきた現在を見るにあたり、決して安穏とはしておられないのではないか?と思っています。この中国産トゥールビヨンを近い内に、弊店も一個購入して分解してどの様な仕上げや造りをしているのか?詳しく調べてみたい、と思っています。ここ まで、力をつけてきた中国時計メーカーなのですから、恐らく近い内に、メカ式の永久カレンダー、スプリットセコンドクロノグラフ、ニミッツリピーター、等 を低価格で開発してくるに違い無い、と思っています。日本を代表するセイコー社もうかうかしていられないのではないでしょうか?

第19話(現行グランドセイコーの修理)

先日、現行品のグランドセイコーCal.9S55A 26石のオーバーホールを 初めてしました。このCal.9S55Aの機械がGSに搭載され1998年発売されていらい、関心を持ち続けていましたので、胸を時めかしてこの機会に、十分吟味して 分解掃除調整を致しました。 GSの自動巻の機械は、Cal.61系、Cal.56系に続いて、 このCal.9S55Aが歴代3代目にあたります。 セイコー全盛時代の過去のGSの自動巻は諏訪精工舎(現セイコーエプソン) が全て製作したものですが、今回のこのムーブメントは セイコー・インスツル(旧第二精工舎)が製作したものです。第二精工舎、と言えばGSの名機と言われるCal.44系と、Cal.45系の手巻きのGSを製造してきました。 今回、初めて自動巻のGSのムーブメントをセイコー・インスツルが担当し造った事になります。(婦人用の手巻きのGSも旧第二精工舎・セイコー電子工業が製作したものでした)自動巻機構はCal.61系と同じく効率の良いマジックレバー爪方式を 採用しておりました。
Cal.9S55Aの自動巻ローターを取り外す(3個の窪みに工具を差し込んで 緩めて外す方法です)には専用の工具が必要ですので、一般の時計店ではGSを修理をするのはなかなか難しいのではないかと思います。 メーカーは一切、時計店にこのGS用工具を供給しないので、この専用の工具を 別作するにも至難のワザが必要になると思います。分解しながら、思った事は、さすがに、セイコー社が全力を挙げて造ったフラグシップのメカ式時計であると痛感した次第です。 とても現時点では、中国の時計メーカーが力を付けてきていると言えども、 全く足下にも及ばない美しい仕上がり、丹精を込めた造りになっていたことです。ただ、私の感性から言いますと長年過去のGSに親しんできたからでしょうか、 諏訪精工舎が製造したGSの自動巻の方が部品数が極めて少なく 設計されていてパーツ類も大きめなので、アフターケアが容易であるとの感じを 持ちました。現行のGSは、テンプも過去のGSよりもかなり小型化しており、 慣性モーメントの点から言っても精度の正確さ、安定度の点で 若干劣るのではないか?という気がしないでもありません。 (現行GSの携帯精度は日差-1〜+10秒とセイコーの仕様書に明記されています。)また、ヒゲ棒アガキ調整レバーが過去のCal.45系の様なしっかりした造りではなく、少しの衝撃でレバーが動いて、 歩度が狂うのではないか?という懸念が無きにしもあらずです。 欲を言えば2秒単位くらいで微細精度調整できるトリオビス・ファイン・ アジャストメントのような緩急針か、テン輪にミーンタイムスクリュー、 マイクロステラ(ロレックスやJL社が採用)のようなものを 取り付けて欲しかったと思います。ムーブエメント直径の1/3(28,4mm厚さ5,3mm)近くが、全く使われていない状態なので、今後その空間を利用して、派生的になんらかの機能が付いた 時計が出てくるのではないか?と推察していますがどうでしょうか? 久しぶりに興味と、興奮を持って修理作業が出来た現行GSの修理作業でした。 弊店も今まで、この9S55Aを内蔵したGSをそれなりに販売して参りましたので、 今後の修理作業が、大変楽しみになりました。 第20話(小さなネジ)

先日、山形県のH様から修理依頼のアンティーク・キングセイコー手巻き (Cal,44 25石1963年第二精工舎製)のオーバーホールを致しました。 気分のすぐれない時や、時計修理を何となくしたくない時などは、小生はそういう時、何を置いても、セイコー社の修理をするようにしています。根っから、セイコー社の腕時計が好きなので、気分のすぐれない時に、セイコーのムーブメントを見ていると心がなんとなく落ち着き、 修理をしたくない気分も飛んでしまい、やる気が出てくるから、不思議なものです。Hさんからは、約40年程前の初期の頃のキングセイコーで、お話によると Hさんのお祖父様とお父様が愛用されていた、との事でした。 約40年前の腕時計なので受け取った時、かなり全体の雰囲気が くたびれていましたが、風防を取替、ケースを磨きましたら見違えるほど、綺麗になり、ほっとしました。 セイコーですから当然機械の方もすこぶる元気になり精度も出るようになりました。 SSの方のキングセイコーは予定通り時間内に修理完了しましたが、 金メッキの方は、分解する時に三番車が上下にガタガタしており、 ホゾが折れているのではないか?と、思いました。 過去に初代GSの3番車の下ホゾ入れをしたことがあり、このKSの3番車も もはや入手出来ないものであり、少しやっかいな作業になる、 と思いながら分解しました。分解し終わって日ノ裏側を見てみましたら、3番車の下ホゾの受け石板止めネジが、折れこんでいて、受け石板が外れている状態でした。 (当時は輪列受石をダイヤショックバネで留めているのではなく懐中時計のように オーバル型の板に受石が埋め込められていてネジで留めるやり方でした。) この受け石板を止める専用ネジも、今ではほとんど見られない、T字型のテーパーがついた非常に小さいネジなので、手持ちのネジでは 全く合わず、一番よく似たネジをダイスで少し削ってなんとか合わせました。わずかな1mmにも満たない小さなネジ一個(ヒゲ持ちネジ程小さくはないのですが)が外れただけで、穴石とホゾの遊びが大きくなり、片方のホゾが穴石から外れて 歯車とカナの噛み合いが深くなり、止まった原因と思われます。たまたまホゾが折れなかったのが、不幸中の幸いと、言えるかもしれません。 それにしてもほんの僅かな小さいネジ一個不良で時計は正常に作動しないとは 如何に時計が繊細な機械であるか解っていただけたでしょうか?40年近くも時計使ってきますと、真鍮の歯と噛み合う歯車のスティールのカナが 摩耗している時がよく見受けられます。 なかなか、昔のものになると新品の輪列歯車等は入手出来ないので、 歯車の上下穴石を移動させて、摩耗していないカナと真鍮の歯を 噛み合わせるよう、修理調整する場合もあります。 この場合も少し面倒な修理作業になります。



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