■イソザキ時計宝石店■
時計の小話



第46話(時計旋盤作業について、その2)

このメールマガジンの読者の方に、時計メーカーのサービス部の人や、舶来品輸入元サービス センターに勤めておられる人からのメールの問い合わせがいろいろあります。その中で一番多いのが時計旋盤の作業修得についての質問です。また、他業種から時計師になるにはどういう手順を踏めばいいのかという質問や、どうすれば一流の時計師になれるかというメールがきます。若い人々がこの業界に魅力を感じ関心を持たれることは有り難いことです。時計修理には、時計旋盤技術を習得する事は必須です。時計旋盤を自由に使えてこそ本物の時計職人と言えるのです。時計部品を自らの手で製作できる人こそ真の時計修理技術者と言えるでしょう。ですから時計職人のことを英語ではウォッチメーカーと言います。しかし残念ながら1、2級時計修理技能士試験に時計旋盤作業の課題が未だかってないのが不思議でなりません。技能検定委員はなにを考えているのでしょうか。メーカーに部品ストックがなく、天真・巻真等を別作しなくてはならない時は旋盤作業が避けて通れません。時計工具を自作するときもあります。旋盤技術の腕を上げるには、切削バイトを上手く作って磨けるかにかかるでしょう。バイトを親指と人差し指で掴み小指と薬指とに挟んで安定して荒砥石でむらなく磨き、仕上げに油砥石で完璧に磨くことが出来ればもう後は簡単です。バイト磨きが全てと言ってもイイかもしれません(切れ味のイイ、刀を作る刀鍛冶の心境でしょう)。私はバイト磨き技術及びバイトの切削角度を習得するのに、若い時、そればかり して1ヶ月以上かかりました(修業時代、四ツ割にセイコーコロナ目覚ましクロックのテンプを挟んで天真研ぎを何度となくしたことが非常に役に立ちました。クロックの天真研ぎは簡単な作業のようですが、完璧にするにはとても熟練を要します。 手が安定していないと綺麗に出来ないからです)。バイトを見ればその人がどれほどの旋盤技量を有しているか一目瞭然です。時計旋盤技術の指針として下記の本があります。(株)村木時計(現(株)ムラキ)発行 大川 勇先生著 『時計旋盤工作』(株)グノモン社発行 訳者 末 和海先生 『標準時計技術読本』これらの名書は既に絶版になっているでしょうから、手に入れるのは大変ですが、発行元や近江時計学校やヒコみずの時計学校には必ずや一冊はあると思います。ご覧になりたい方は問い合わせるとイイでしょう。コピーぐらいさせてくれるかもしれません。時計旋盤にはボーレー社と国産では松田光(アロウ)が高性能で有名です。私は廉価?ながら良い旋盤であるゼム社製を使用しております。時計旋盤をお求めになりたい方は五十君商店、トップオカモト、ベルジョンに問い合わせるとイイでしょう。

第47話(スイス高級腕時計の価格について)

平成元年、贅沢品に課せられていた物品税が廃止となり、スイス高級腕時計も軒並み価格を下げました。ロレックス18金無垢デイデイト(18038)は昭和60年時代、定価398万円で、正規輸入品の仕入れ価格は66,7掛けの265万円もしておりました。並行輸入品ではそのロレックスは119万円で仕入れられました(1個の仕入れ値段で 2個仕入れてもまだお釣りがあったのです)。当店では当然、並行輸入品を仕入れてお客様に安く売ることで、とても喜ばれました(正規輸入品であれ並行輸入品と何ら変わらないのです。日本ロレックスの保証が2年と1年の違いでだけです。そんなに1年や2年で壊れる時計ではないのです)。平成の時代になると18038は消え、変わりに18238が登場しました。18038とほとんど同じようなデザインでしたが、小売価格は188万円と大幅にダウン しました。当然仕入れ価格も正規輸入品で125万円まで下がりました(現在では18238の並行輸入品の仕入れ価格は115万円程です)。18038の在庫を抱えて いた当時の時計店は大変だったと思います。それにしても物品税13%が廃止になったとはいえ、ロレックス(18038)の小売り価格設定には疑問を感じざるを得ませんでした。昭和40年頃、舶来高級時計に対して30%の関税、13%の物品税、合計43%もの税金がかかっておりました。小売店のマージン35%、卸商(ロレックスの場合、卸商は一新、栄光、東邦など)のマージン5%?、輸入業者のマージンを入れたら本当の 輸入原価とはいかほどか、驚くほど安かったに違いありません。日本ロレックス社は2年保証ということで並行輸入品との差別化をしておりますが、真贋が見極めることが出来、信用のおける時計店で並行輸入品を購入されたら消費者の皆さんはもっと安く買えると思います。出来るだけ安く買えた方がイイに決まっておりますものね(あくまで正規輸入品にこだわる人は別ですが)。どうして時計に限らず、舶来有名ブランドが日本ではこんなに価格設定が高いのでしょうか。独逸のベンツ車しかり、ルイヴィトンしかりです。安く売ってみんなが持っていれば優越感に浸れないためか?自尊心をくすぐるための物なのか。私には解りませんが余りにも普及すると値打ちが下がってしまうものなのでしょう。そういえば圧倒的人気のあったフェンディの傘をライセンス生産していた京都のムーンバット社は契約をうち切られてしまいました。鐘紡もクリスチャンディオールのライセンス生産打ち切りと聞き及んでおります。両社ともこれらの品がドル箱だったため、稼ぎ頭を失って本当に痛いでしょう。フェンディ、クリスチャンディオールは売り上げよりもブランド・イメージを大切にした結果かもしれません。高級ブランドは、余りにも人気がでて大衆化するとだめなものかも知れないのです。最近ではブランド品の勝ち組み、負け組がハッキリしてきました。かっては垂涎の的でも今では見向きもされないブランドがたくさんあります。栄枯盛衰そのものです。日本で人気のあるロレックス、オメガの命運はどうなるでしょうか? (私は学生時代アメリカンフットボールをしていた関係でNFLをテレビでよく見ますが、ヘッドコーチの腕にはロレックスの無垢のデイデイトをよく見かけます。やはり米国でも ロレックスはステータスシンボルなのでしょう)。日本のスイス時計の輸入総代理店の皆様への要望ですが、もう少し安く小売り価格設定を していただけないものでしょうか。そうすれば、もっとスイス時計が日本で売れると思います。安くして市場にたくさん 出回ったからといってスイス時計の人気と実力は決して衰えないと思うのですが。

第48話(公認高級時計師(CMW)試験、復活に向けて)

昭和56年度(1981年)の第27回の試験を最後に、公認高級時計師(CMW)試験は中断しております。クォーツ腕時計が市場を席巻した為に、機械式腕時計の修理技術を問うこの試験の存在意義が薄れた為と思われます。しかしながら国産のトップメーカーのセイコー舎が1992年よりメカ時計の生産を再開 しだし、それに準ずるようにシチズン、オリエントもメカ時計の再生産に乗り出しました。今日では国産の時計メーカーは新開発のメカ腕時計を矢継ぎ早に発売致しております。消費者のニーズの高まりと共に店頭にメカ腕時計が沢山並ぶようになりました。スイスの有力時計メーカーは1980年初頭から、現在のメカ腕時計の復興、隆盛を予感できたのか、20年前よりメカ時計を盛んに開発し生産し市場に出しております。沈滞している日本の時計店の時計修理技術を向上させる為にも、また若い時計師の目標となる資格や夢、希望を与える為にも、CMW試験の復活が必要と思う今日この頃です。日本各地に散在している40〜50才代の壮年のCMWの力を結集して、大変な事だとは思いますが、CMW試験を再開したいと私は熱望しております。30年間この業界に世話になった私の出来るご恩返しは、試験の復活に非力ながら全力を傾注する事だと思っています。4〜5年後をめどに試験を再開したいといろんな案を練っている今日この頃です。私の意見に賛同され、少しでも協力したいと思っておられる、まだ若い情熱溢れるCMWの皆さん、弊店にご連絡いただきましたら幸いです。一人では何もできませんが、多くのCMWの人が集まれば必ず出来ると確信します。このメールマガジンを読まれているCMWの皆さん、電話、メール、ファクスでご連絡頂きたいとおもいます。名工と言われるCMWの各諸先生、先輩諸氏をさしおいて生意気だと中傷され若さ?の暴走だと言われるかもしれませんが、誰かが一歩を踏み出さなくては何も動かないと思い、敢えて未熟者ながら第一歩の行動を起こしたわけです。CMWが沢山集まって高名なCMWの末和海先生、加藤日出男先生に三顧の礼をもってお頼みすれば必ずや試験再興のために、ご協力頂けるものと思っております。

第49話(アンティーク・ウオッチ購入のアドバイス)

読者の方から多い質問が、アンティーク・ウオッチをどうすれば失敗せず上手く買えるかと いう事です。高いアンティーク・ウオッチ品を買う時は、尚更注意していろんな点検をした方がイイでしょう。下記に皆さんが簡単に出来る注意事項を列記してみますのでご参考にして下さい。※古いオリジナルのバンドがついている場合、腕時計のケースの足に取り付けてあるバネ棒が 錆び付いてしまって、取り外しができない場合があるので注意が必要です。一度バンドがはずれるか確認の必要有りです。※アクリル風防の場合、古くなると乾燥して細かいキズが入りひび割れを起こしている時があるので、キズミ(ルーペ、拡大鏡)でよく見ましょう。角型腕時計のガラスはなかなか入手困難な時があるので、ヒビ割れには注意しましょう。※手巻き腕時計の場合、一度リュウズでゼンマイを巻いてみて、ガリガリギジギジする音の時は、キチ車ツツミ車が破損しているので買わない方がイイでしょう。リュウズを引っ張って針合わせをする時、軽く、抵抗無くリュウズ・針が回れば、筒車がゆるんでいる為に大幅に遅れる時があります。針を回してみてかなり重い場合は、日の裏機構の歯車が錆びていたり歯がこぼれていたりするので避けた方がイイでしょう。リュウズは消耗頻度が高く、よく取り替えている時があるので純正パーツが付いているか確認する。3針の場合、針が擦れて重なる時もあるので確認する。リュウズ受けのパイプがしっかりケースにはまっているか、これもよく見ましょう。はまっていない場合、防水・防汗・防塵機能はゼロです。※オシドリが摩耗しているとリュウズを引いた時に抜けてしまうので、強く引っ張っても抜けないか確認。※自動巻の場合、手で回転状に振ってみてローターを回して、スムーズに回転錐が回るかどうかみて見る。ケースにあたっているような音がする時は修理の必要有りです。振ってみてカタカタ音がした場合、ネジか何か他のパーツが外れている時があります。手巻きも可能な自動巻の場合、手巻きで軽くゼンマイが巻けるかどうか確認する。※高級アンティーク・ウオッチの場合、文字板に複製が利用されている時があるので、目利きのできる人に見てもらいましょう。※めぼしい時計がある時は、ストップウォッチ機能が付いたデジタルウォッチをアンティークショップへ持っていき、時間の実測をしてみる。ゼンマイを半巻の状態で平姿勢、リュウズ下(3時)の縦姿勢で各1時間ずつ実測してみる。1時間に3秒以上誤差(日差72秒以上の誤差になります)がでたら、やめた方がイイでしょう。平姿勢、縦姿勢の機械の音をよく聞くのもイイかも知れません。音の調子が違っていたり、音が悪ければテンプの振り角に問題有りです。振り角が充分でない場合、1日以上動かない時があります。※文字板にシミ、汚れ、錆がひどいとき、過去に水が入った恐れがあるので警戒の必要有り。※裏ブタにひどいキズがある場合、未熟な職人がいじった事が考えられるので、ムーブメントの中にもかなりのキズがあると判断した方がイイでしょう。※しっかりした技術者が分解掃除済みのアンティーク・ウオッチを買われた方が安心でしょう

店に問いただすべきでしょう。※できれば通信販売で購入しないで、手にとって納得してから買われる方が失敗が無いでしょう。※希少価値があるとか、将来値上がりがするとか、滅多に手に入らないとか、甘い言葉を言う店は避けた方がイイでしょう。※店員の人が時計に詳しく、どのような質問にも厭な顔せずに親切に答えてくれる店で、技術的に裏付けのある所で購入した方が後々のアフターが安心して任せられると思います。※相場より余りにも価格が安いものに飛びつくのは大変危険です。必ずや落とし穴が必ずあります。ただ値上がり目的のみで購入されることは邪道だと思います。どのような人にも必ず良いところがあるように、どんな機械時計であれ必ずや他にない良いところ何かあるはずです。それを見つけだすのも一つのアンティーク・ウオッチ蒐集の王道だと思います。※所有して動かなくてもイイ、眺めているだけで満足されるアンティークファンは別にして、それを日常に使用したい人は、機械時計は寿命があるので出来るだけ製作年代の新しい物を買う方がイイでしょう。50年以上前の機械式腕時計は、時計としての寿命は尽きていると思った方がイイでしょう。日本では若年層の人々にアンティーク・ウオッチ・クロノタイプが人気がありますが、欧米では年輩の方々に懐中時計に人気があり対照的です。私はアンティーク・ウオッチでは2針の手巻腕時計と懐中時計に本当のいい味があると思っておりますが、読者の方は如何お思いでしょうか。私も余裕ができたらパティック・バセロン・オーディマの2針の手巻腕時計や、インターの懐中時計を蒐集してみたいと思っております。

第50話(パテック・フィリップについて)

シドニー五輪女子マラソン金メダリスト、高橋尚子選手が10月30日に国民栄誉賞を 贈られました。その副賞にパテック・フィリップ(アクアノート94万円)が高橋選手の希望で授与されました。高橋さんはなかなかの時計通と思われます。この業界に身をおくものとして大変嬉しく思いました。パテック・フィリップ社はバセロン、オーディマ、ピアジェとともに世界最高峰の工芸的高級時計メーカーの一つで150年の歴史があります。特にパテック・フィリップのムーブメントは、クロノメーター規格よりも更に厳しい精度保証された(ジュネーブ・シール)を受けております。複雑時計を生産出来る高度の技術力や、世界に右に出るものがいないと思われる時計技術者を多数抱えるメーカーでもあります。スモールセコンドのカラトラバ18石腕時計を、少ないですが何回となく分解掃除をした経験から申しますと、どこを見ても隙のない完璧な仕上げがされていました。どのネジ、バネ一つ見ても美しく磨きが成されていて、ドライバーを持ってネジを弛める時など緊張のあまり手が震える様な感じでした。それほどまでに芸術的な素晴らしい美しさでした。姿勢誤差を完璧に取ってあり、メカ時計としてはこれ以上の精度を求めるのは無理と思えるほど正確な腕時計でした。いまだかって並の振動数の腕時計ではこれ以上望めないほど 5つの姿勢差はなかったのです。当然、巻き上げヒゲゼンマイを採用していました。タイムグラファーでは、見事な5つ(各五つの姿勢、文字板上下・リュウズ上下・左・)の真っ直ぐな線が出ておりました。キャリバー?703357、730906は私にとって鮮明に残る最高の手巻腕時計です。またパテック・フィリップ社は1950年にジャイロマックステンプを発明し特許を取得して おります。このテンプの出現により緩急針での調節が必要ではなくなり、微調節が8つの錘の移動で簡単に出来るようになったのです。宝石愛好家は真珠に始まって行き着くところ真珠で終わるともうしますが、腕時計も最後に行き着くところはパテック・フィリップとオーディマピゲの2針手巻腕時計ではないでしょうか。それに関しては異論はほとんどの方にないでしょう。トゥールビヨン、閏年表示機能付き永久カレンダー、パワーリザーブ・インジケター搭載のK18金側懐中時計(Ref969、Cal22TQIRM)は、なんと1億1千万円もいたします。日本で誰か解りませんが1人が持っておられると言う事です。時計師として一度手に持って中の機械を見てみたいものです。そんなチャンスはないでしょうけれど。



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