| ■イソザキ時計宝石店■ |
| 続・時計の小話 |
第26話(ゼンマイについて) 脱進機調整(アンクル爪第一停止量、第二停止量、剣先アガキ、クワガタアガキ等)を完璧に仕上げてテンプの片重りを十分に取り、ヒゲゼンマイの内 端、外端を理想曲線に仕上げても、一番肝心な事にゼンマイの力が弱かったり、ゼンマイトルクが十分に満たされていない場合は、精度はとてもおぼつかないも のになってしまいます。それほどまでにゼンマイの力が十分に満たされているかどうかが、時計の精度を出す上で最低限の条件と言えます。ジャガールクルトのオフィシャルサー ビスセンターではオーバーホール依頼をされた時計には、ゼンマイが切れている、切れていないに関わらず、全てゼンマイを交換する事になっているそうです。また、R社では、オーバーホール依頼の腕時計に対して香箱車とゼンマイを全て交換する仕組みになっているという噂です。切れないゼンマイと言われているニバフレックス白色ゼンマイと言えども、毎日の使用による巻き上げ等により、金属疲労が生じ、切れないとも限りませ ん。定期的なオーバホールを怠るとゼンマイ油が乾燥して変質したりして、解けるときの抵抗値が大きくなり、瞬時に爆発的な力をもって切れる場合が往々にし てあります。最近の経験では、R社のゼンマイ、ETA Cal.7701、セイコーCal45系のゼンマイ等は、3〜4年ごとのオーバホールを怠ると切れやすいと言えなくも無いです。瞬時に爆発的な力でゼンマ イがほどける為に、香箱の歯に過度な力が加わり、歯こぼれ現象が起きたり、カナが損傷したりします。そうすると、ムーブメント全体に大きな負荷がかかるの で、定期的なオーバホールは絶対必要と言えます。昔の懐中時計の鋼鉄製のゼンマイの場合、長年の使用によりへタル場合があり、ゼンマイトルクが弱まり、ゼンマイ全巻きの状態でも、テンプ振り角が200度前後しか振らない場合があり、その場合は、テンプの振り角短弧で歩度の大きな乱れが生じます。その場合ニバフレックスゼンマイに交換すれば良いのですが、なかなか寸法を合わせるのが容易ではありません。(トルクの強いゼンマイを入れたりしま すとテンプが振り当たり現象を起こし歩度がかなり進んでしまいます。)また鋼鉄製のゼンマイが切れてしまった場合、今日ではなかなか入手が出来ないので、 ゼンマイの切れた部分両先端に錐で穴を開け、ピスを別作してカシメて繋げる方法を小生は以前良くやった記憶があります。自動巻のオーバーホールの場合、ゼンマイを香箱から必ず取り出し、古い油を完全に取り除いてからゼンマイ巻き入れ器で香箱の中に入れます。(解けたゼンマイを一度、手で香箱車の中に入れる作業をしてみるとゼンマイのトルクの大きさが感覚で手にわかって良い経験になります)弊店では自動巻ゼンマイ油はセイコー社製S2を使用しています。また、手巻きのゼンマイ油にはメービス8200を使用しています。どのゼンマイ油がベストかは職人の長年の経験に頼るしかないかも知れません。 第27話(新品質基準) 腕時計の品質・精度基準を公式に認定するのにスイス・クロノメーター検査協(C.O.S.C)が特に有名です。ロレックス、オメガ等のスイス高級腕時計のクロノメーターを認定しているのは、C.O.S.Cです。他には、スイス・ジュネーブ州が伝統的時計製造方法の基準を定めた『ジュネーブ・シール』というものもあります。パテック・フィリップ、バセロン・コンスタンタン等の腕時計はジュネーブ・シールを取得しています。ジャガールクルト社では独自に『マスター1000時間テスト』を行い、合格品にはその証明としてケース裏蓋に刻印が刻まれています。日本では、セイコー社が『メカ式グランドセイコー』のみに歩度証明書を添付して、厳格な検査をして合格品のみを市場に出しています。かつてのスイス公認時計歩度検定局(B.O)が認定したクロノメーターよりも、さらに厳しく品質精度を追求した試験検査に天文台クロノメーターとい う世界最高度の精度検査試験がありました。天文台クロノメーターで有名なものに、ニューシャテル天文台クロノメーターとジュネーブ天文台クロノメーター、 フランス・ブザンソン天文台クロノメーターがありました。天文台クロノメーターを取得した腕時計は過去に於いて高値で販売されていきました。(日本では唯一、手巻きグランドセイコーCal、45が天文台クロノメーターとして過去に販売されました)2004年9月27日、スイス・フルリエ市の主導により、新・品質精度基準『カリテ・フルリエ』が発足しました。フルリエには、19世紀には数多く の時計工房が存在したほどの時計の街として有名ですが、ここに工場を持つ、ショパール、パルミジャーニ・フルーリエ、ボヴェ社等が参加して、新しい品質基 準局がスタートしたわけです。カリテ・フルリエ(英文ではフルーリエ・クォリティ)には、4つの条件が明記されています。まず、C.O.S.C認定のクロノメータームーブメント である事(日差-4〜+6秒)。クロノフィアーブル試験(耐磁試験、耐衝撃試験、防水機能試験)を通過したものである事。そして目視検査があり、地板や受 けに仕上げと装飾を施しているかどうか?を見る事。最後にフルリテストが行われ、実際に人が腕にはめた時と同様の条件を設定して、フルリテスト機械によっ て測定するという厳しい検査が行われます。最後の誤差の合格基準は日差0〜+5秒以内という厳格な品質検査になっています。カリテ・フルリエの認定を受ける腕時計の個数は限られていて、年間生産本数は2000本未満になるという事です。その結果おのずと高価格になってしまうのは致し方ないのかも知れません。 第28話(ユニバーサル・ジュネーブ再登場) アンティーク・ウォッチファンにとって、根強い人気のあるユニバーサル・ジュネーブが2006年2月より、日本に再登場した事はとても嬉しいビック ニュースです。ユニーバーサル社は1894年にエミーユ・デコームとジョルジュ・ペレによって、設立されたスイス名門時計会社の一つに数えられています。 1918年に時計工房をジュネーブに移転し、その後数々の歴史に燦然と残る傑作腕時計を世に送り出し続けました。特にクロノグラフ時計メーカーとして、つとに有名で『トリコンパックス』はトリプルカレンダー機能付きのクロノグラフとして、絶大な人気を博してき ました。また、トリプルカレンダーとムーンフェイズ機能をい合わせ持った『コンパックス』も時計通にはとても人気のある腕時計でした。ユニバーサル・ジュネーブ社は、当時からマニュファクチュールとして有名で1954年には、同社初のオートマ腕時計『ポールルーター』を発売し、 1955年には、世界最初に『マイクロローター』の薄型自動巻腕時計を開発しました。今日、多くの超有名時計会社がこの方式を真似ています。その歴史を紐 解いてみますと、揺るぎの無い確固たる技術力に裏付けされた実力のある玄人好みの時計会社と言えると思います。この度、ヴィンセント・ラペール氏がユニバーサル・ジュネーブ社のCEOに就任して、新生ユニバーサル・ジュネーブ社として再出発しました。新たな シリーズは『オケアノス』と命名され、3針カレンダー付きオートマ、クロノグラフ、ムーンフェイズ付きのムーンタイマー,GMT表示付きのトラベラーとい う4つのアイテムから構成されています。オートマ以外は、デュポア・デプラ社のムーブメントを採用するなど、拘りを持った造りをしております。小生は若い時からユニバーサル腕時計を2個愛用してきましたので、この度の本格的日本再登場をとても懐かしく、嬉しく思っています。将来ユニバーサ ル社はかってのように完全なマニュファクチュールの時計メーカーとして大きく変貌していくのではないか?と大いに期待しています。(セイコークォーツクラッシュに遭遇し多くのスイス有名時計メーカーが倒産に追いやられていったにも関わらずユニバーサル・ジュネーブ社は一度も挫 けることなく今日まで存続してきましたが傑作メカ式腕時計を生産してきた工作機械、工具、設備等は破棄されてしまったものと思われその点が残念至極ではあ ります)今回のオケアノス新シリーズはどれを見てもデザインが秀逸で、おそらく日本の時計ファンにも大いに歓迎され人気がでていくものと推察しております。 中高年の時計ファンの人々には、ユニバーサル・ジュネーブは、とても親しみのある時計ブランドですが、若い人々にはその名前はあまり浸透していないのでは ないか?と思われ、今後の広告宣伝活動・販売戦略が大いに重要な要素を占めるに違いありません。 第29話(レーシングウォッチ) レーシングウォッチと言えば、若人の血肉踊らせる腕時計が多々あります。アメリカ:デイトナ24時間耐久レースにメインスポンサーとしてロレックス社が名をあげ、デイトナ・クロノグラフ腕時計を今日まで発売している事はとても有名です。ロレックスデイトナは正規品では殆ど販売している店はなく並行品では絶えずプレミアム価格になっていて異常とも言える人気時計になっています。(正規品を予約すれば数年以上の待ちは当たり前になっています)この傾向は後10年以上は続くものと思われます。映画「スティング」で見事な詐欺師役を演じた名優ポールニューマンも、1977年にデイトナレースに出場した時に、腕にロレックスデイトナを着けて いた事は今では語り草になっています。(ポールニューマンモデルと言われているロレックスデイトナはアンティーク市場でけた外れの人気があり、価格も常に 高騰しています)。リーズナブルな価格で世界中の時計ファンから人気を集めているティソ社も世界最高峰2輪ロードレース(モトGP)の公式計時を担当しており、その記 念モデルが「ティソ・モトGP」クロノ・クォーツとして、人気を集めています。25歳でワールドチャンピオンになった通称「皇帝」ミハイル・シューマッハ はオメガ社と手を組んでオメガ・スピードタイマー・オートマチック「ミハイル・シューマッハ特別限定モデル」を売り出しています。コラムホィールの本格的 クロノグラフCAL3301を搭載してファンから人気を得ております。「高速の貴公子」と世界中のF1ファンから尊称されていたアイルトンセナはタグホイヤーと共同開発して、セナモデル第一弾を1994年に発売しまし た。しかし、その時セナはレース中の事故で不慮の死を遂げてしまった為、そのセナモデルは追悼の意味合いがこもり、セナファンから爆発的な人気を得た腕時 計になりました。過去に於いてレーシングウォッチにタグホイヤー社は深く関わっており、時速300キロを越すスピードで千分の一秒を争うレースの計時に、オフィシャ ルタイマーとして参画してきました。インディ500でもタグホイヤー社は一万分の一秒で計時をし、インディ500記念モデルを発売したりしました。オリス社も20人の内の1人のF1ドライバー:ラルフシューマッハと契約し、「オリス・ラルフシューマッハ・リミテッドエディション」のクロノグラ フを発売し、人気を博しました。日本では、セイコーがF1ドライバー佐藤琢磨モデルを発売し、すぐに完売になった程の人気を得ました。千分の一秒を争うF1レースでは、時速300キロ以上のスピードが出ており、1秒違えば83mもの差が付き、その中に数台がひしめき合ってトップを 争うという想像を絶する過酷なレースと言えます。そのF1レーサーから信用を勝ち得た時計メーカーは、とても名誉な事だと言っても過言ではないでしょう。 第30話(うれしい電話) 弊店の2004年度、時計技術通信講座卒業生のH君より電話連絡が入りまして彼が時計サービスセンターに就職する事が出来たとの事でした。彼は関西 の有名私大卒のIT技術に長けた人でその道のプロと言えるほどの能力を持っている青年なので時計修理技術修得の応募には趣味の範囲であろうと思っていたの ですが、その連絡には吃驚したと同時に嬉しくもありました。彼は繊細で、礼儀正しくて良家育ちの優秀な青年であるので努力次第では相当伸びる逸材だと確信しています。きっと先輩の時計師の方達から可愛がられ て技術の伝承を授けられると思っています。それにしても思い切った人生の職業選択をしたと思う反面、能力のある青年がこの業界に足を入れてきたことが大い にこの業界にとってはプラスになり財産になると思った次第です。職人の世界はいずれもそうなのですが、時計技術も負けず劣らず奥域が大変深くて一度足を踏み入れたなら余程覚悟を持って勉強・研鑽に励まなくては到底一人前の技術者には成れないのでH君には今後一生懸命に頑張って貰いたいと思っております。5年間、24名の生徒を教えてきたわけですが、やっと苦労が報われて、良い人材がこの業界に入ってきたことが嬉しくてたまりません。挫けることなく頂点を目指して技術習得に励んで欲しいと思っています。(神戸市の秀才のH君もアンティーク・ウォッチ店を開業しています)同じ時計技術通信講座卒業生の優秀なK君は昨年、「信州・匠の2級時計修理士」に合格したので今年は、更に踏ん張って1級を受験するとのメールがあ りました。2003年度、卒業生のK君も、まさしく逸材でこの業界で一日も早く充分飯が食える状態になって欲しいと願っています。今まで教えてきた24名の生徒の中にも、もう一歩頑張ればこの業界に将来、身を置くことが出来るのではないかと思われる生徒が数人いましたので今後も鋭意精進して欲しいと願って止みません。人に技術を教える事は大変な事で講座日の明くる日の疲労は頂点に達し、仕事が全く手につきません。その事を思いますと多くの弟子を育ててこられました角野常三先生、行方二郎先生、加藤日出男先生、飯田茂先生、菅波錦平先生、小野茂先生のご苦労が忍ばれます。30〜40年程前の有名な時計師の諸先生は骨身と命を削って後進の育成・指導にあたられたことがこの頃つくづく思い知らされます。お側にも寄れない崇高な先生が沢山おられた事がこの業界をしっかり支えてきたのだと思います。 |
|
お問い合せはこちらへ
isozaki@40net.jp |