■イソザキ時計宝石店■
続・時計の小話



第31話(天真ホゾの洗浄)

メカ式腕時計では、新品時の機能と精度を維持するには、定期的なメンテナンスが必要な事は言うまでもありません。定期的なオーバーホールを腕の確かな時計職人に委ねれば、メカ式腕時計の寿命は、数十年の長きに渡り生きるものと思います。数年近く使用して、故障が起きてから慌てふためいて時計修理を出すよりも、3〜4年ごとの定期的にオーバーホールを出す方が、断然良いに決まってい ます。この頃では、ユーザーの方の認識度も高まり、故障が起きてから修理依頼されるよりも定期的なオーバーホールの依頼がグンと増えました。これは、とて も良い傾向だと、思っています。最近、気になった事があります。大手のR社、J社等の日本のオフィシャルサービスセンターにオーバーホールを依頼しますと、テンプ受けからテンプを外さずに超音波洗浄をしている、との噂を耳にしました。(勿論、テンプ上下の穴石、受け石は、外してあるそうですが)テンプ受けから、テンプを外さないでオーバーホールをした場合、テンプ単体が取り出せない為、天真の上下ホゾをブラシで手洗いを省略する事になりま す。天真は、一時間に18000〜36000振動をしていますので、超音波洗浄だけでは、ホゾに付着した古い油が完全に除去出来ないものと思います。弊店では、超音波洗浄をかける前に天真上下ホゾをブラシで手洗いし、なおかつ、ソージ木に天真ホゾを数回突き刺して汚れを取り除いてから、超音波洗浄をしています。一度、テンプ受けからテンプを取り外すと、組み立てる時にヒゲゼンマイを必ず再調整しなければなりません。おそらく、その手間をサービスセンターで は省略する為にそういう作業段取りを取っているものと思われます。しかしながら、そういう作業をしていますと、時計職人がヒゲゼンマイを弄って調整する能 力がますます、喪失されていくのではないか?と懸念を覚えざるをえません。時計職人の重要な要素の中に旋盤を自由自在に操り、天真、巻真等パーツを別作する能力がある事ですし、また細かい作業を長時間に渡り忍耐強く持続す る能力がある事です。また、一番肝要な事にヒゲゼンマイを両手にピンセットを持って自分の意志通りにピンセットを動かして、ヒゲゼンマイの外端、内端を理 想曲線に修正する能力があるかどうかが、最重要視されます。サービスセンターの様なやり方ですと、時計職人のヒゲゼンマイ修正能力は、なかなか向上しないのではないか?と思われます。最近、マニュファク チュール化にめざましい躍進を遂げているC社が、巻き上げヒゲ搭載の自社ムーブメントを開発出来たのも、ヘッドハンティングにより、ブレゲヒゲゼンマイを 完璧に仕上げる時計職人を獲得出来たからだと、巷間言われています。その事からも解るように、時計職人の大眼目は、ヒゲゼンマイを自由にピンセットで操れるかどうか?にかかっている、と断言しても言い過ぎではないと思っています。
第32話(グラスヒュッテ・オリジナル社)

ドイツで産声をあげた時計メーカーに、ランゲ・アンド・ゾーネ、グラスヒュッテ・オリジナル、ノモス、ハンハルト、クロノスイス、ジン等の個性的な 時計メーカーがいろいろあります。ノモスとハンハルトは弊店では取り扱っているのですが、小生の店でも将来取り扱ってみたい、と思っている時計メーカーが グラスヒュッテ・オリジナルです。ランゲ・アンド・ゾーネと共にグラスヒュッテ・オリジナルは、東西の横綱の地位に占めるドイツ時計メーカーと断言しても差し支えない、と思います。 社員数300人弱のマニュファクチュールの時計メーカーがこれほどまでに優れた時計を作り出せるのもドイツ時計産業の伝統の重みを感じざるを得ません。ランゲ・アンド・ゾーネは、日本価格でどれも250万円以上する高級腕時計ですので、どなたでも簡単に購入出来る、という時計ではありません。しか し、グラスヒュッテ・オリジナルは、SSケースで70万〜90万円台で購入出来る腕時計があるので、3〜5年がかりの購入プランを立てて少し辛抱すれば、 入手出来る価格の時計だと思います。グラスヒュッテ・オリジナルのCal.90を搭載したパノマティック・デイトは、SSケースで100万円を切る997,500円で販売されていま す。一流の時計職人が丹精を込めて作り上げた、この美しい機械の時計が100万円以下で発売されている事には驚きを隠せません。こういう価格設定が出来た のも、グラスヒュッテ・オリジナル社が世界でもっとも良心的な時計会社と言える、スウォッチ・グループに属しているから出来たに違いないと思います。
(余りにも時計の価値以上の価格設定をする日本のある輸入元会社は見習ってもらいたいと思っています)このCal.90の特徴は、ローターを地板中心に置かずに偏心させた事により、テンプの動きがローターに隠れる事なく、いつもユーザーに眺められる という、うれしい持ち味になっています。ローターはハーフスケルトンタイプになっていて、ローター外端部には、比重の重い、K21金を使用して自動巻き上 げ効率を高めています。地板にはグラスヒュッテ伝統の筋目加工とベルラージュがしてあり美しい光芒を放っています。勿論青ネジを採用してあり、何処から見ても美しいと感嘆せざるを得ません。また、一番特徴なのがダブル・スワンネックという緩急調整装置を持っている事です。左側のスワンネックのネジでは、ヒゲ持ちが微細調整出来、右側の スワンネック・ネジではヒゲ受けを動かす事により、緩急調整が出来るという時計職人にとってはありがたい調整装置になっている事です。現在では、ほとんどのムーブメントは、可動ヒゲ持ち装置を装備していますが、可動ヒゲ持ち装置のついていないアンティーク腕時計の場合、片振り調整 をする時はヒゲ玉の割れ目にドライバー状の工具を差し込んで、目分量で調整をしては何回も繰り返して片振り調整を修正していました。可動ヒゲ持ち装置の場合、そういうわずらわしさが無くなったのですが、それでもある程度は目分量で測からざるを得なかったのですが、グラスヒュッテ・オリジナル社のダブル・スワンネックでは、完璧に片振り調整が出来る、という装置になっています。テンワには、比重の重いK18金を採用していて、チラネジ式テンプでありながら慣性モーメントを高めて、歩度の安定をはかっているという高度な技術 を駆使しています。こういう細部に渡りドイツ人気質らしいコダワリを持った時計が日本で100万円以下で購入出来る事は大きな魅力である、と思っています。グラスヒュッテ・オリジナル社の代表的なキャリバーに、手巻きのCal.42 Cal.65があり、自動巻にCal.39がありますが、これらもCal.90に勝るとも劣らない美しい仕上げで製作されています。将来、世界中でグラス ヒュッテ・オリジナル腕時計はロレックスと共に大きな人気を博して行くに違いないと思っております。 第33話(好調なスイス・メカ式腕時計の輸入)

統計によると、2005年度の日本への完成腕時計の輸入個数は4217万個(対前年比0.3%増)で、金額では1931億円(対前年比9.6%増)で、金額では過去最高を記録したそうです。その中でスイス腕時計は200万個(対前年比4.2%増)で、そのうちメカ式腕時計は、わずか40万6千個(クォーツを含む全輸入数の1%相当)であるにも関わらず、金額では851億円になったそうです。メカ式腕時計の単品の輸入原価は、この数字から判断すると約21万円になり、スイス高級メカ式腕時計を日本の時計愛好家が好んで購入している事が伺 い知れます。首都圏ではミニバブルと言われ、土地価格が高騰しており、また日本経済の最近の著しい景気回復により株価も順当に右肩上がりになってきている 為に、一部の富裕層がその恩恵を被っている為でしょうか、東京のM百貨店・本店では、100万円以上もする高級腕時計が、月に何十本も売れるという、活況 を呈しています。小生が住んでいる地方ではとても想像しがたい事ではあります。巷間メカ式腕時計の人気もそろそろ下火になる、と言われて来ていますが、この数字から判断しますと、まだまだ日本ではメカ式腕時計の人気は落ち込まないのではないか?と思っています。その人気の下支えしているのは、スイス及びドイツ時計メーカーが魅力のあるメカ式腕時計を、毎年バーゼルフェア、SIHHで発表し、新発売している からに他ないと思います。スイス及びドイツ時計メーカーのメカ式腕時計に対する意気込みや思い入れは相当なものがあると感じざるを得ません。弊店取扱いブランドのノモス、フォルティス、エポス、オリス、、ハミルトン、ティソ等も今後人気の出るであろう商品を新開発してきております。他で は、特に関心が起きたのでは、グラスヒュッテオリジナル社が自社開発のCal.100を発表して、セネタ・カレンダーウィークとセネタ・コンプリートカレ ンダーの2種類の腕時計を発表した事です。グラスヒュッテオリジナルの文字板はどれも全く派手さはなく地味な造りになっていますが、それが余計に真の高級感を漂わせる飽きの来ない雰囲気を持った顔になっています。フレデリック・コンスタント社が新開発の自動巻きムーブメントCal.FC-930を出し、ハートビート・マニュファクチュール オートマチック腕時計に搭載し、発売する事になった事も嬉しいニュースです。モーリス・ラクロア社が自社開発のコラムホイール方式の手巻きクロノグラフムーブメントCal.ML101を開発してきた事は、モーリス・ラクロア 社も将来的にはETA社に頼ることなくムーブメントを完全自社生産を目指していく為の第一歩の踏みだしではないか?と想像しております。国内メーカーでは、セイコー・クレドールが日本初の複雑腕時計をデビューさせた事でしょうか。このムーブメントは手巻きのスプリングドライブにソヌ リ機構を搭載し、毎正時に自動的に時数をカウントするソヌリモード。12、3、6、9に三回鐘を打つ、オリジナルモード、現時刻を知らせるアワーリピー ター機能も搭載している事です。澄んだ音色を出す為に梵鐘製造で有名な土地柄の富山県高岡市にある、専門工場で作られた、お鈴(りん)が内蔵されているそうです。小売り価格はナント1,575万円もするそうで、おいそれとは買える時計ではないようです。 第34話(セイコー・ニューシャテル・天文台クロノメーター)

先月、東京のT様からメールがあり、セイコー腕時計1970年製、品番:4520-8020シリアルNo:080068のオーバーホールをして欲しい旨のメールがありました。お父様の形見の時計で、長い間しまい込んでいた時計らしく、小生の『時計の小話』をお読みになって良い時計ではないか?と思われて修理依頼のメールが来たわけです。メールの内容からCal.45系の手巻きのグランドセイコーと思い、修理依頼品を送って頂けるように返事をしましたが、ご夫婦お揃いになって弊店に 車にて、ご来店頂きました。最近、遠方からの修理依頼品の持ち込みが多いのですが、ご夫婦で東京から来られたのには少しびっくり致しました。この時計を受け取ってびっくりした事は、 『時計の小話 第23話』 に 書いているように、セイコー社が過去現在を通して初めてスイスニューシャテル・天文台クロノメーター合格品を市販した、時計であった事でした。この時計 は、セイコー社内精度等級、最高度の4Aであり、新品静止状態数値・日差-2〜+2という、極めて高精度の腕時計でした。この時計は、第二精工舎の技術陣が開発したものですが、パーツ類は第二精工舎で作られ、おそらく組み立て・調整等は、諏訪精工に持ち込んで、当時諏 訪精工におられた中山きよ子氏、小池健一氏、稲垣篤一氏等の名工が精度調整されたものと思われます。1970年前後はセイコーのメカ式腕時計に関しては技 術は頂点を極めた頃の時代でありました。セイコーCal.45系(36000振動)は、手巻きのセイコー・ムーブメントの中では、極めて高精度の出る優れた機械なのですが,このスイス ニューシャテル・天文台クロノメーター合格品が、いかほどまでに優れた調整したムーブメントであるか、胸をときめかせてオーバーホールに臨みました。分解するまでに過去の時計職人が如何様な修理をしているのか?精密に精査をしましたが、あまりにも稚劣な修理作業をしていたので腹が立つやら、情け ない思いにかられました。おそらく、過去において何度かこの時計の修理をした職人は、この時計のいわれを全く知らないで修理をしたものに違いないとおもわ ざるを得ませんでした。地板や各ネジにキズが多くつけられていて、ヒゲゼンマイも素人が弄ったように外端が変形しておりました。ヒゲ受けのヒゲ当たりも片 当たりになっていました。東京にセイコー・サービスセンターがあるにもかかわらず、弊店を選んで修理依頼されたものですから、職人冥利に尽きるものです。意気込んで修理した結果、新品当時の許容精度以内に収める事が出来、ご期待に添えられそうで一安心致しました。最近、セイコーインスツル(前身・第二精工舎)が43,200振動の超ハイビートのCal.ND58を完成させたそうです。スイスの高級腕時計パ テック・フィリップの様にガンギ車をシリコン製にして、無注油にするのではなくて、ガンギ車の表面にポーラス状(多孔)の加工をして、保油力を高めたそう です。当然、強いトルクのゼンマイを採用している為に、R社がしている様に、輪列車が摩耗しにくい様に硬質メッキを施したり歯車の厚みを増しているそうで す。非常に魅力のある時計だと思われますが、予定価格が800万前後するそうなので、セイコーインスツルの会社姿勢に小生としては疑問を持たざるを得ま せん。かつての第二精工舎時代、名機のCal.45を搭載した、キングセイコーがお手頃な買いやすい価格で販売されていた事を現・経営陣は考慮すべきだと 思います。

第35話(時計学校と技術試験)先日、全国紙のY新聞に時計技術学校『東京ウォッチ・テクニカム』
〒135-0016 住所:東京都江東区東陽3-28-6ロレックス東陽町ビル 
Phone:03-5857-2308の2007年度生の生徒を募集する広告がなされていました。学校説明会が7月5日、26日、29日、8月26日、9月4日と行われ願書締め切りが9月11日という事です。将来、時計技術で身を立てたいと思われる方は、問い合わせてみては如何でしょうか?東京ウォッチ・テクニカムは、スイスの時計学校WOSTEPのパートナーシップ認定校であり、2年間で3000時間のカリキュラムを実施する本格的 な時計学校と言えるでしょう。初年度は応募者が沢山いて、入学競争率が大変難しいと聞き及んでいましたが、来年度はY新聞まで募集広告をするところをみる と、生徒集めになかなか苦労されているのではないか?と思われます。やはり、最大のネックは2年間でかなりの金額を必要とする事ではないかと思われます。今日、機械式腕時計がこれほどまでに普及してきた現在、メカ式時計修理技術者の技量を客観的にユーザーの方に解る為に、長野県で、『信州匠の時計修 理士』の1級、2級、3級試験が一昨年より行われました。今年度から、セイコー・インスツル(前身・第二精工舎、子会社の盛岡セイコー工業 MSI)でも、新しく『いわて機械時計士技能評価』試験制度を創設されて、本年9月より同社で試験を行う事を発表されました。時計技術の国家技能検定が、現在クォーツ腕時計に試験課題を限定されている中、あえて機械式腕時計を試験課題にして、技能試験を行うという事は、今後メーカーも本気になって機械式腕時計の時計修理技術者を育成していきたい、と思っているからに他ないと思います。今回の、『いわて機械時計士技能評価試験』制度は、IWマイスター、1級、2級の3つの等級にわけ、学科及び実技試験を行い合否を判定するそうで す。盛岡セイコー工業 MSIの社員以外の方にも門戸を開放して受験できるそうなので、これはうれしい事ですが、西日本の方にとっては交通アクセスが不便ですので余程の決意がな いと受験できないのではないかと思われ、その点残念ではあります。この試験を受験したいと思われた若い時計技術者諸君は、盛岡セイコー工業内、いわて機械時計士技能評価運営委員会(岩手県岩手郡雫石町板橋61-1 TEL:019-692-2694)に問い合わせてみるといいと思います。小生も、5年後にはCMWの有志を集めてCMW(公認高級時計師)試験を必ず復活させたい、と思っています。その事が今までご恩を受けた諸先生への謝礼返しであると思っています。その為になんらかの行動を今後起こしていく覚悟でおります。



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