■イソザキ時計宝石店■
時計の小話



第51話(スイス宝飾腕時計のホール・マークについて)

日本で製造された貴金属製品・宝飾腕時計(ケース)には日本の国旗マークの入った大蔵省造幣局の刻印が押されています。その刻印が押されていると、国家が品質の純度を保証しているというわけです。中にはその刻印がない品もあり、その場合18金であっても純度は正確には解らないのです。スイスで製造された18金無垢腕時計のケース裏蓋内側には、必ずスイス連邦が純度保証するホール・マークが入っております。スイス全土で17ヶ所の公式試験場があります。主な所は、ラショウドフォン・ベエンヌ・シャフハフゼン・ニューシャテル・バーゼル・ベルン・ジュネーブ等です。ケースの裏蓋内側に時計メーカーの登録番号、18K0,750、スイス公式試験場ホールマーク(例えばラショウドフォンの場合、涙型の中に女性の横顔)が刻印されています。海外で高級宝飾腕時計を購入される人は必ず確認されるべきでしょう。海外で18金無垢やプラチナのロレックス(18348Aや18346A)等を買われる場合、中の機械は本物であっても、ケースが香港製の18金やプラチナである時があります。充分注意が必要です。それほど香港の贋作作りは完璧に近いものです。18金無垢のバンドも香港製が沢山流通しているのが現実です。話はころっと変わりますが、ロレックスの水晶腕時計キャリバー5035、11石のクォーツムーブメントを最近修理して見ましたが、ガンギ車ありアンクルありで、さすがロレックス社が作ったクォーツだと感心しました。しかしセイコーのステップモーター式のクォーツを見慣れている私は何かしら違和感を感じました。

第52話(スイス時計・エベルについて)

世界各国のお洒落な女性に圧倒的人気を独占しているスイス時計メーカーにエベル社があります。他のメーカーがマネできない美しいデザインのドレス腕時計を作り続けています。年間製作本数は約10万本です。エベル社はルイヴィトン・ヘネシーグループに入っており、タグホイヤーと仲のいいメーカーです。日本の輸入総代理店は以前オメガを取り扱っていたシイベルヘグナー社です。マニュファクチュール(一貫生産メーカー)ではないのですが、精度を極限まで追求している非常に良い機械が内蔵しております。何度か修理しましたが、手抜きのない美しい仕上げの精度のでるメカ腕時計でした。私が好きな時計メーカーの一つです。エベルは1911年にユージュンブルームによって創立されました。エベルのネーミングは、自分の名前の頭文字と妻Levyの名前から出来ました。ほほえましいエピソードではありませんか。妻の名前を会社名に取り入れるなんてものすごい愛妻家だったのでしょうね。バルセロナ・ブラッセル・パリ・ローザンヌなどの博覧会で何回も名誉賞を授与されています。ヨーロッパ・アメリカ(ハリウッド)ではかなり名の通った時計メーカーです。日本では少しマイナーな感じがするのが残念です。優れたデザインや良い機械の割には価格が良心的であるために、人気の原因かもしれません。100円玉硬貨の厚さ(1,70mm)に近い、1,71mmの極薄の手巻き2針腕時計を作れる高度の技術も持ち合わせているのです。最近の企業活動も活発でいろんな話題を投げかけております。1911クロノグラフ(9137240−3555)48万円(メタルバンドは55万円)は、スーパースター松坂大輔選手や中田英寿選手が愛用しております。ボイジャー・ワールドタイマー27万円も人気のシリーズです。若い人に爆発的に人気がでるのも時間の問題でしょう。いつまでもロレックス・Gショック一辺倒では寂しいですものね。

第53話(スイスの時計産業について)

国産のセイコー・シチズンの腕時計は全て自社生産で、世界でも稀な完全なマニュファクチュール(一貫製造メーカー)です。全ての部品は系列の子会社で生産されています。ところがスイスでは日本とは大きく異なったシステムで分業化が進み、腕時計が作られています。下記のような3つの分類に分かれる時計製造メーカーが存在します。
・マニュファクチュール…自社で一貫して時計製造するメーカーの事で、他社より部品供給を受けません。ジラールペルゴー・ジャガールクルト・ゼニス・ロレックス・インター(一部)・オーディマ等のごく一部の会社しかスイスにはありません。しかしマニュファクチュールでないからといって、おのおの時計会社の価値が下がるものでもないのです。※ジラールペルゴー・ジャガールクルトはエボーシュメーカーでもあり、一流時計メーカーにムーブメントを売っております。
・エタブリスール…ムーブメント・ケース・文字板等をいろんなエボーシュから仕入れして組立のみを行うメーカーで、そこで腕時計を完成させます。スイスのほとんどの時計メーカーはここの範疇です。オリス(ETA社)・ラドー(ETA社)等たくさんあります。エボーシュからムーブメント・パーツを仕入れして各社が再加工・再調整して、独自性のあるメカニカル腕時計を作ります。
・エボーシュ…エタブリスールにムーブメント・パーツを供給する、部品・ムーブメントメーカー。最大のエボーシュメーカーはSMHグループのETA社で、世界最大規模のムーブメント供給生産会社です。ETA社は1億個以上の生産量を誇り、手巻き・自動巻・クロノ・クォーツ等の各種ムーブを生産して世界中の時計会社に供給しております(推定、クォーツ85%・メカ15%)。巷に出回っているスイス時計のムーブメントの半分以上はETA社製ではないでしょうか。他にバルジュー・ヴィーナス・ケレック・ユニタス・フェルサ等が有名で、他にも何十社もあります。各エボーシュ社が製造メーカー印を持っており、機械の地板に必ず刻印させています。
時計材料店にパーツを注文する時は、時計名とエボーシュ名、部品名を同時に言って発注します。現在、滋賀県の読者の方より、父親の形見という大切なブライトリング・トップタイム腕時計(手巻き・クロノ・17石・HPに掲載)の修理依頼を受け預かっておりますが、全体的に錆がひどく、機能回復無理な所があり、かなりの難物で悪戦苦闘中です。この時計のムーブメントはエボーシュメーカーのヴィーナス社製キャリバー178(刻印から判別、星のマークがあり)で40年ほど前のものです。この時計の壊れたパーツはもはや入手困難でなかなか大変な修理です。その頃のブライトリングはムーブをヴィーナス社から仕入れて時計を作り販売していたのが解りました。今でもブライトリング社はグループのケレックからムーブを仕入れております。クロノの専業メーカーのミネルバ時計もバルジュー社よりムーブメントの供給を受け、アブスシリーズのクロノを発売しております。

第54話(私見・スイス時計のランク付け)

読者の方よりスイス時計メーカーのランク付けをして欲しいという要望が沢山あり、独断と偏見のランク付けを私見ながら試みてみました。いろんな判断材料で、意見は多種多様に分かれると思いますが、あくまで私、個人の意見ですのでお間違えないように。
東正横綱パティック・フイリップ
西正横綱オーディマ・ピゲ
東張出横綱ピアジェ
西張出横綱バセロン・コンスタンチン
東正大関ジラールペルゴー
西正大関ジャガールクルト
東張出大関IWC
西張出横綱ユリス・ナルダン(4〜50年ほど前ではダントツで世界一と思う。今、見事に復活し蘇った。これからが楽しみ。)
東正関脇ロレックス
西正関脇ショパール
東張出関脇カルティエ
西張出関脇オメガ ボーム&メルシエ ゼニス
東正小結ブライトリング
西正小結ロンジン
東張出小結エベル
西張出小結タグホイヤー ユニバーサル エテルナ
東前頭筆頭ラドー
西前頭筆頭サーチナ ティソ ウォルサムブローバ ハミルトン
他にランゲ&ゾーネ・ブレゲ・ブランパン等は大関クラスであり、パネライ・ブルガリ・フランクミュウラー・ダニエルロート・エベラール・クロノスイス・モーリスラクロア等は三役クラスでしょう。異論はいろいろあるでしょう。人によってはロレックス・オメガが横綱と言う人がおられると思います。でも、中の機械をよく知っておられる技術者の人の評価はおそらくこんなランクではないのでしょうか。くれぐれもこれは私見ですので誤解の無いようにお願いいたします。今回のマガジンで連載25回目になります。読者の方々より熱いラブコールを頂き本当に感謝致しております。この時計の小話を読んで時計のファンになったとか、時計の奥深さを知ったとか、お褒めのお言葉を頂き、やり甲斐がおこると共に嬉しく思っております。中にはずっと永久に続けて欲しいという熱烈な読者の方もおられまして、身に余る光栄です。出来うる限り第1部は100回位迄続ける予定でおります。時計の話は私には無尽蔵ですので時間と体力?の許す限り続けますのでご安心下さい。また沢山メールを頂き、全ての人に返事を差し上げるべきでしょうが、店の営業、外商、修理と他にもいろいろ雑用があり、全ての人に返事が差し上げられませんので、この場をお借りしてお詫び申し上げます。
今までに400名様以上の方より温かい励ましのメールを頂きましたが、2名様より苦言叱責も頂戴いたしました。これも素直に真摯に受け入れまして、よりよいマガジンにしてゆこうと思っている次第です。今まで25回読んでいただきまして本当にありがとうございました。次回は節目の26回目になりますのでクイズ25問を出す予定です。お楽しみにお待ち下さい。

第1回問題集25問

第1問世界最古の時計メーカーはバセロン・コンスタンチンである(正誤)
第2問世界最初にクロノメーター腕時計を作ったのはオメガ社である(正誤)
第3問完全防水の腕時計を世界で最初の作ったのはセイコー舎である(正誤)
第4問日本で最初にクロノメーター腕時計を発売したのはシチズンである(正誤)
第5問セイコー最初の10振動のマーベル36000腕時計の石数は何石か。下記の中から選んで下さい。
イ、17石 ロ、21石 ハ、23石 ニ、28石 ホ、35石
第6問鳩時計を専門に製造していた手塚時計(株)はウエストミンスターチャイム置き時計も作っていた(正誤)
第7問ジャコ・ツールと言う時計修理工具はヒゲゼンマイの縦ぶれ修正に使う工具です(正誤)
第8問クロノメーター高精度の腕時計は重力の影響を全く受けない(正誤)
第9問5振動数の腕時計で歯数15枚のガンギ車は1日何回転しますか。下記の中から選んで下さい。 ヒント:5振動は1時間にすると18000振動です。テンプ2振動にガンギ車は1枚進みます。
イ、7200 ロ、14400 ハ、28800
ニ、36000 ホ、72000
第10問腕時計の縦姿勢誤差でリュウズ左は最重要である(正誤)
第11問天真の硬さはビッカース硬度(Hv)300が最適である(正誤)
第12問メカ腕時計のクロノメーターを一番多く製造してきた時計メーカーはロレックス社である(正誤)
第13問ユリス・ナルダンは優秀な船舶クロノメーターを製造してきた世界で有名な時計メーカーです(正誤)
第14問水晶時計を世界で初めて作ったのはアメリカのベル研究所である(正誤)
第15問大航海時代、正確なマリンクロノメーター(船に乗せる精度の高い時計)が求められたわけは、1秒狂うと船位が約0,4kmずれたから(現在では六分儀を使用する)(正誤)
第16問トゥールビヨンとはヒゲゼンマイの温度補正をする装置である(正誤)
第17問自動巻腕時計の仕組みはウィッグ・ワッグ式が多い(正誤)
第18問アンティーク懐中時計に使われている鋼ゼンマイが切れるのは、ほとんどサビが原因です(正誤)
第19問テンプの振り角が小さいほど、姿勢差が大きく表れます(正誤)
第20問巻き上げブルゲヒゲは切りテンプと組み合わせなければ全く意味がないものです(正誤)
第21問ヒゲゼンマイをヒゲ玉に取り付けるピンニングポイントの位置は、姿勢差にとって、とても重要です(正誤)
第22問グランドセイコーの一番安い廉価版の定価は9万円である(正誤)
第23問シチズンの最高級品ザ・シチズンの一番安い廉価版の定価は10万円である(正誤)
第24問筆者(磯崎輝男)はスイス時計メーカーの中でオメガの時計が一番好きです(正誤)
第25問ブライトリングのムーブメントはかの有名なエルプリメロである(正誤)
以上の25問ですが易しいものもあれば、少し専門的な難しいものもあったかと思います。

第1回問題集25問 解答

第1問(誤)ブランパン
第2問(誤)ロレックス
第3問(誤)ロレックス
第4問(正)
第5問答ハ
第6問(正)
第7問(誤)天真ホゾの修正に使用
第8問(誤)どんな高級なメカ時計でも姿勢差の影響はでます
第9問答ロ
第10問(誤)リュウズ下と左と上が正しい
第11問(誤)ビッカース硬度(Hv)600
第12問(正)
第13問(正)
第14問(正)
第15問(正)
第16問(誤)脱進機姿勢誤差を緩和する装置
第17問(誤)ハーウッド式
第18問(正)
第19問(正)
第20問(誤)
第21問(正)
第22問(誤)10万円
第23問(正)
第24問(誤)IWC
第25問(誤)

第55話(スイス時計メーカー:ユリス・ナルダンについて)

イカリのマークのナルダンと言えば、泣く子も黙ると言うほど、数あるスイス時計の中で光芒を放つ堂々とした王者の貫禄があるメーカーでした。40〜50年ほど前には、今人気絶頂のロレックス・オメガなど敵ではなく、スイス時計の頂点を極めておりました。1940年代に開発成功したクロノグラフのムーブメントはパティックにも採用されておりました。私の父は感情を表に出さない人でしたが ナルダンの修理を預かると嬉しさのあまり家族中に見せて回ったものです。「ナルダンがやってきたぞー」と。あの寡黙な父でさえナルダンを預かると喜びを抑えることが出来なかったと思われます。私がIWCを好きなように父はナルダンが一番好きだったのでしょう。その頃で年に数個位しか修理依頼はこなかったような記憶です。ムーブメントは非の打ち所がない完成された時計でした。日本の市場に余り出回っていない影響でしょうか、現在私の店では残念ながらほとんど修理依頼はきません。ナルダンは1846年ユリスナルダンによって、スイス:ル・ロックルにて創業され、150年以上の歴史あるメーカーです。ユリスナルダンと言えば、ゼニス・GPと共に高精度のマリンクロノメーター製造メーカーで特に有名で、水晶時計が出現するまで100年間にわたり40カ国の海軍に公式採用された実績を持つ名門中の名門です。万国博覧会、国際見本市等での晴れある受賞回数は4300回以上にのぼり、またいろんなコンクールで18回のゴールドメダリストにもなっています。この功績は他のメーカーの追随を許さないナルダン独壇場のものです。こんな名誉あるナルダンでさえ例にもれず、1970〜80年代のクォーツ・クラッシュにより会社の存続が瀕死の状態になり、長い間、沈澱しておりました。高精度の機械時計を製造しているメーカーほどクォーツ・クラッシュの大ダメージをもろに受けてしまったのです(精度競争するとメカ時計はクォーツの敵ではないのです。精度では惨敗するに決まっています。最近思うのですが、クォーツはマイクロエレクトロニクスの大量生産の工業製品で、機械式腕時計は芸術嗜好的手作り製品だと思うようになり、範疇を分けるべきではないかと思うようになりました)。ナルダンは今は年間生産本数は2万本前後でしょう。ナルダンの逼迫した状態を救ったのが歴史物理学者のオクスリン博士です。氏の協力のもと、ナルダン復活・命運をかけて1985年出来上がったのが驚異の超複雑天文腕時計3部作アストロラビウム・ガリレオガリレイ、テリリウム・ヨハネスケプラー、プラネタリウム・コペルニクス(630万円〜920万円)なのです。オクスリン博士のことは以前テレビで取り上げられ私は驚愕しつつ見ましたが、ブレゲの再誕ではないのかと思いました。博士は発想、設計、製作、組立、微調整まですべて一人で行う、現在では世界最高峰の天才的時計設計及び技術者なのです。ここ数年企業活動は活発で、サンマルコクロアゾネ(金線七宝)シリーズ(180〜230万円)、GMT±パーペチュアル(350万円)、マリンクロノメーター1848シリーズ(94万円)等を開発発売しています。価格が少し高いのが難点ですが、中にはサンシアーSS自動巻159000円という手頃な価格の腕時計もあり、ナルダンを一度持ってみたい方には入門品としてお薦めです。このようにしてナルダンは再びスイス時計業界の王道を確実に歩き始めたのです。いつの日にかロレックスの人気を凌駕する日も遠くないのではないかと思います。流行に左右されない真の時計愛好家の人々はナルダン・IWC・GP等を買い求めるのではないのでしょうか。


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